プログラマーのこだわり。「キーボード」の世界

HARBOR BUSINESS Online / 2019年12月11日 15時31分

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FILCO Calendar Keycap Set 2020 photo by DIATEC

◆2020年のカレンダーが刻印されたキーキャップが発売

 FILCO から、2020年の1~12月のカレンダーを刻印したキーキャップセットが発売されるという話が流れてきた(参照:PC Watch)。

 キーボードにある程度馴染んでいる人にとって、FILCO は有名ブランドだ。FILCO と言えばメカニカルキースイッチ。そのキータッチの違いによって、茶軸や青軸、赤軸など、種類があることも多くの人が知っている(参照:ダイヤテック株式会社)。FILCO は、キーボードを語る上で、外すことができないブランドだ。

 その FILCO は、キーボードだけでなくキーキャップも売っている。キーキャップとは普段キーボードを使う時に、指先の触れる部分である。スイッチの上にキャップを付けることでキーは完成する。キーボードを掃除する時は、キーキャップを外して、中をきれいにする。

 実はこのキーキャップ、白や黒のキーに文字が印字されているものだけではない。カラフルなものであったり、イラストが印刷されているものもある。FILCO の「部分交換用 キーキャップ」のページを覗いてみよう。イラスト入りのものや、金箔貼りのもの、色々な国の国旗が描かれたものもある。

 カレンダーについては、今年が初めてではない。2018年から存在している。この商品を見た時の感想は、「上手いこと考えたな」である。

 パソコンのキーボードには、F1からF12の12個のファンクションキーがある。そのキーキャップをカレンダーに交換しても、見栄え上困ることはない。1から12の数字はそのままに、カレンダーの機能が追加されることになる。

 さらに商売上の利点もある。このキーキャップを気に入った人が一定数いれば、毎年買い替え需要が発生する。キーボードは、そうそう壊れるものではない。そうしたハードウェアを売るに当たり、定期的に交換してくれる部品があるのはありがたいだろう。

 ユーザーにとっても便利な商品だし、会社にとっても旨味のある商品。なかなかよさそうだなと感想を持った。というわけで今回は、少しキーボードの話をしたいと思う。

◆プログラマーはキーボードの世界を旅する

 プログラマーはキーボードを多用する。プログラムを書くにはキーボードを利用する。極力マウスを使わないで済むように様々なショートカットを駆使し、下手をすると一日中キーボードを叩き続ける。

 そうしたプログラマーにとって、キーボードは大切な仕事道具だ。そのため、より入力しやすく、負担の少ないキーボードを探して、様々な製品を試す。私はガチ勢ではないが、それでもいくつかのキーボードを渡り歩いてきた。

 まず黎明期。パソコンを買った時に付いてくるキーボードをそのまま利用していた。特に何か考えがあったわけではない。キーボードを別途買うという発想がそもそもなかった。使いやすさを求めて買うという選択肢があるのを知ったのは、パソコンを使い始めてしばらく経った頃だった。

 私はプログラマーがよく使うというキーボードに憧れた。それは、PFU の「Happy Hacking Keyboard」(以下、HHK)だ。この商品は、何よりも名前がすごい。「ハッキング」という言葉が入っている。そしてプログラマー御用達だ。触れてみたくなるのも分かる。私も購入して、何台か使い潰した。

 HHK は、キーの数が少なく、手の中に収まる感じで使いやすかった。このキーボードは、テンキーがなくコンパクトだ。そのため、マウスを置く場所が確保しやすいというメリットもあった。

 そうこうするうちに、パソコン周りの機材が増えてきて、徐々に机の上のスペースが狭くなってきた。その時、私が選んだのは、さらに小さなキーボード、つまりミニキーボードの世界だった。

 いろいろと物色して購入したのは、エレコムの「TK-UP84CPBK」だ。このキーボードは、キー配列が普通のキーボードにかなり近くて、小さい割りには使いやすかった。また、私がミニキーボードを選ぶときに重視している、上下のキーがきちんとしたサイズで、上、下の順に並んでいるところが高評価だった。

 ミニキーボードを多く観察すると分かるのだが、小さいスペースにどのようにキーを詰め込むのか、どの会社も苦労している。そうした試行錯誤の中で、上下のキーの面積が削られ、他のキーの半分のサイズになっているものが多い。また、面積はそのままでも「←↑↓→」のように、左右に並んでいるというケースもある。

 プログラムを書く時には、上下のキーで移動することが多い。そうした時に、キーが小さかったり配置が上下でなかったりすると、エラーが起きやすくストレスがたまる。

 そうした意味で「TK-UP84CPBK」はなかなか優秀だった。しかし、このキーボードを使い潰す前に、私は新たなキーボードに手を出した。やはり、ミニキーボードは、普通のサイズのキーボードよりも使い難い。その事実をくつがえすことはできなかったからだ。

◆「打鍵感」もまた重要なファクター

 次にたどり着いたのは、FILCO の「Majestouch 2」のテンキーレスだ。これは、打鍵感がすこぶるよかった。HHK の打鍵は、少しモワッとした丸さを感じる。Majestouch の打鍵感は、シャキンッというメカニカルさがある.

 私は店頭の試し打ちで、Majestouch の打鍵感が気に入った。その後、FILCO のキーボードに様々な軸があることを知った。私はこのシリーズのキーボードを、数台壊れるまで使った。

 現在、私は、KINESIS の「Freestyle2」を利用している。左右分離型のエルゴノミクスキーボードだ。

 左右分離型のキーボードを利用するには、ひとつのハードルがある。左右にキーボードが分かれているために、我流のブラインドタッチでは指が届かない場合がある。

 幸いなことに、このキーボード購入の少し前に、入力速度を上げるために、1ヶ月以上かけて、きちんとしたブラインドタッチを修得していた。そのため、左右分離型のキーボードを利用できる環境が整っていた。実際に使ってみると、肩を開いた状態で入力できるので、長時間の連続入力に向いていた。

 ただし欠点もある。キーボードを左右離して置くせいで、普通ならマウスがある場所にキーボードが来てしまう。キーボードを優先するか、マウスを優先するかという悩ましい問題が発生する。

 また、この Freestyle2 は、日本語配列ではなく英語配列という問題がある。そこで、キーの位置を変えるソフトを利用して、日本語として入力しやすいようにカスタマイズした。そうしたことをすると、また別の問題が発生する。キーキャップに刻印されている文字と、実際に入力する文字が異なってしまうのだ。

 この問題には便利な解決方法がある。キーキャップに貼るシールが売られているのだ。ただの紙のシールではなく、指が触れても痛みにくく、打鍵感を損なわないような加工がされている。そうした道具を利用することで、英語配列キーボードを日本語環境で快適に利用することができる。

 実は、この Freestyle2 を購入する時、悩んでいたことがある。左右分離型のキーボードとして、完成品を買うかどうかである。ちょうどその頃、日本のプログラマー界隈では、自作キーボードの流行が始まろうとしていた。

◆自作キーボードの流行

 現在、同人誌即売会の技術系ブースに行くと、自作キーボードやその製作本を出展しているサークルが、かなりの数ある。その数は、ここ数年で一気に増えた。それだけではない。「遊舎工房」といった自作キーボードのショップや、「天下一キーボードわいわい会」といった専門イベントも存在する。こうしたムーブメントは、記事にもまとまっている(参照:ITmedia NEWS / ITmedia NEWS)。

 おそらく、日本で大きく話題になり始めたのは2016年前後、ErgoDox の名前を聞き始めたあたりからだ。ぽつぽつとブログや記事などで名前が出てきて私も興味を持った。しかし、部品を輸入して組み立てるという話を読んで尻込みした。すぐに使いたい道具なのに、作るのに失敗すれば仕事が止まると思ったからだ。

 実はこの頃、完成品を販売する ErgoDox EZ が、Indiegogoで資金を集めて立ち上がっていた(2015年3月)。しかし、当時の私はその存在を把握していなかった。

 そこから3年、2019年1月13日には、前述の日本初の自作キーボード専門店「遊舎工房」がオープンしている(参照:ITmedia PC USER)。その間、わずか3年である。短い期間で、自作キーボードは大きな盛り上がりを見せた。

 利用者が多くなると、部品の調達が容易になる。またノウハウも蓄積されていく。つまり、新たに作ろうとする人の参入が楽になる。海外から輸入……と考えていたのが嘘のように、現在では国内の通販や実店舗で購入可能になっている。

 自作キーボードは、プログラマーの人が多く作っている印象がある。おそらく、物作りという面で、相性がよいのだろう。ハードルが下がれば、普通の人もキーボードを自作するようになるかもしれない。パソコンのキーボードが壊れたときに、出来合いのものを買うか自作するか、まず考える時代が来るかもしれない。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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