売上高1億6000万円! 地域の建設会社がリードする「自治体新電力」が地産地消の切り札に

HARBOR BUSINESS Online / 2020年1月23日 8時32分

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久慈地域エネルギー株式会社。屋根の上には太陽光発電を設置している

◆地域のお金を外に出さずに循環させる「自治体新電力」

 環境省によると、岩手県久慈市のエネルギー代金の流出は約61億円(石炭・原油・天然ガス約8億円、石油・石炭製品約46億円、電気約5億円、ガス熱供給約2億円)。久慈市内の総生産は1178億円(2013年)。そのうちおよそ5%は、地域の住民や地元企業が支出したお金が域内で循環せずに一方的に域外へ、最終的には燃料費として中東をはじめとする国外に流出するという計算になる。地域活性化の分析に使われることが多い「地域内経済循環における地域経済の“バケツの漏れ”」である。

 このエネルギー代金という“バケツの漏れ”は、久慈市だけではなく、原子力(ウラン)、石油、石炭、天然ガスなど海外からの輸入燃料に依存している日本国内であればどこでもあてはまること。この“バケツの漏れ”を最小限におさえ、地域に循環させる役割を担う、「自治体新電力」に期待が集まっている。

「自治体新電力」とは、自治体が出資などで関与し、限定された地域を対象に電気供給(小売り電気事業)を行う事業体である。地域の再生エネルギー電源などから電気を調達し、公共施設を中心とした地域の需要家に電気販売を行う。

 その仕組みは「地産地消」「地消地産」という価値を生み出すことから、地域振興の視点から注目が集まっている。全国で設立が相次いでいて、東北では11法人が設立または設立予定だ(『河北新報』2019年3月14日付)。

◆久慈地域エネルギーは黒字決算で子育て支援に200万円を寄付

 人口3万数千人の久慈市にある自治体新電力が、「久慈地域エネルギー株式会社」。2017年10月に発足した同社の資本構成(資本金1050万円)は、地元の建設会社の宮城建設など久慈市内の民間企業5社と自治体(久慈市の出資は50万円)。久慈市内資本100%の電力小売会社だ。

 同社は久慈市および久慈商工会議所と「エネルギーの地産地消による地域活性化に関する協定」(2018年1月)を締結し、2018年2月には経済産業省の小売電気事業者認可を得て、2018年6月に久慈市の主な施設と出資企業を中心に電力供給を開始。2019年4月からは一般家庭への販売を開始している。

 発足後初の通年決算となった2018年度決算は、売上高が1億6320万円、営業利益は1218万円、純利益920万円の黒字となり、市の子育て支援策として200万円を寄付している。

◆複数の地域エネルギーの連携へ

「現状の契約電力は8483キロワット(8メガワット)。出資企業でもある株式会社細谷地が取次代理店となって、ガスとのセット売りのおトクな割引価格で提供できています。契約世帯は東北全域ですが、久慈市内では約1万5000世帯のうち5%が加入されている計算です」と勝田雅幸営業部部長は語る。一般的に黒字経営のベースは5メガワットとされていて、それはすでに超えている。

 現在の電源は100%電力卸市場からだが、4月からは長内川上流で岩手県企業局が管理・運営している滝ダム水力発電所から電力供給を受け、「アンバーホール(文化会館)」への供給も始まる。

 地産地消が動き出す2019年度決算(2019年4月1日~2020年3月31日)ではさらなる黒字化が見込まれている。久慈は24メガワットの太陽光発電能力があり、熱供給業の久慈バイオマスエネルギー株式会社もある。これらとの将来的な連携も視野に入れている。

「エネルギー代金の域外流出を減少させることで、地域経済循環を進めたい。また、久慈市の施設や設備(アンバーホールや市民体育館など200件以上)に従来の電気料金よりも安く電力を供給することで、自治体の電気料金を削減したいという当初の目的の一部は達成しつつあります。今後は、地産地消と子育て支援など、各種支援活動を通じ地域の活性化をも図っていきたい」(若林治男・久慈バイオマスエネルギー取締役)

 自治体新電力では、地域付加価値分析を行うことが欠かせない。地域付加価値とは、その地域で企業が生み出した利潤、雇用者報酬(賃金)、税収の合計額を指す。つまり、地域に地域経済循環のもととなるお金を生み出しているかがわかるのだ。

 今回、久慈地域エネルギーの協力を得て算出した久慈地域エネルギー(売上高1億6320万円)の地域付加価値は667万円であった。『入門 地域付加価値創造分析』(諸富徹編著・日本評論社刊)による同規模の自治体新電力・ひおき地域エネルギー(鹿児島県日置市 契約電力約7メガワット)の分析による推定値では売上約1億4000万円、地域付加価値は約900万円であることから、同程度の割合とみられる。

◆課題は需給管理を内製化できるかどうか

 ただし、課題も多く、地域付加価値分析に影響を与えるのが需給管理だ。需給管理とは電力の需要と供給を一致させる作業で、電気事業の要となるものである。一定のノウハウが必要で手間もかかるため、自社で行わず民間事業者に委託するケースが多い。

 需給管理を行うことで、電気事業の要のノウハウ蓄積、収益性の向上などがみられる。久慈地域エネルギーでも外注費で約数百万円規模(推定)で域外に流出している。この需給管理が内製化できれば、地域付加価値は1000万円を超えるようになるのではないか。

 久慈地域エネルギーはさらに熱や電気自動車(EV)などで注目される「交通エネルギー」の地産地消をも目指している。久慈地域エネルギーは建設会社がリードしているが、NHK「あまちゃん」の舞台となったことでよく知られる久慈市の将来像をもデザインしようとしているのかもしれない。

<文/松井克明>

【松井克明】

八戸学院大学地域経営学部講師。行政書士・1級FP技能士/CFP。Twitter IDは@katsu84

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