新型コロナ発生で話題の新興宗教「新天地」に韓国の若者が殺到する理由とは?元信者らを直撃<1>

HARBOR BUSINESS Online / 2020年3月15日 8時32分

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京畿道加平郡にある協会で会見を行う新天地の教祖であるイ・マンヒと殺到する報道陣 (Photo by AFP=時事)

◆新型コロナ発信源となった宗教「新天地」

 韓国の新型コロナウィルスの“震源地”として話題になった、新興宗教団体「新天地」(正式名称:新天地イエス教証しの幕屋聖殿)。

 韓国国内には、自らを創造主やイエスの生まれ変わりと主張する者が40数人、彼らを教祖とする信者は約200万人存在していると言われているが、そんな中、とりわけ若者の信者が多いのが新天地の特徴である。

 

 昨年、新天地が新規入信者10万人中1000人を無作為に選んで行なったアンケートの年齢構成では20代が550人、30代が120人で若年層が67%を占めていることが判明した。現在約24万人と言われる信者の年齢構成もこれに準ずると推定される。

 元信者が韓国メディアの取材に対し「信者の6割は若者」と話しており、筆者の取材でも「大邱にある若者だけのグループで1万2千人はいる」(元信者)という証言を得ている。

 

 そんな同教団元信者の若者に、心の内を聞いてみた。

 訪ねたのは新天地から脱会した信者が集まる韓国基督教異端相談所協会・九里相談所、通称「九里教会」。教会を率いるシン・ヒョヌク牧師はアンチ新天地の先鋒として韓国で名高く、彼自身もまた、‘84年から新天地に20年以上入信し同教団の幹部まで上り詰めた人物だ。

 そのため新天地からは「最大の裏切り者」と呼ばれ、敵視されている。

◆固く閉ざされた入り口で、あからさまに怪しまれる

 入り口のインターホンを押すと、固く閉ざされたガラスドアの向こうから現れた人影が「どちら様?」と怪訝そうな声を出す。

 「日本から来た記者です。●時にお約束したかと思うのですが……」と話すと、迎え入れられた。

 しばらくすると殺気立ったシン牧師が現れ「日本?! 何の目的なの?」と筆者に詰め寄る。仲介人からの連絡がうまく伝わっていなかったようで、筆者が趣旨を説明すると「忙しいから他の者に聞いて」と言って外に消えた。

 スタッフによると厳戒態勢は無理もなく、新天地によるコロナ騒動で連日取材が殺到している上、「新天地からの刺客が記者や業者を装ってしばしば教会に入ってくる」ということだった。

 「先日も盗聴器を置かれたり、窓の外に設置されたりしました。新天地の信者が玄関外の階段に潜んでいたこともあります。礼拝堂に暴漢が侵入して破壊されたり、放火されて全焼したこともありました」(教会スタッフ)

 シン牧師も街中で何者かに暴行を受けたり、自宅をマークされるなどをされつつも、新天地信者の脱会運動に取り組んでいるという。

 「脱会してきたふりをして、教会に潜り込んでくるスパイもいる。昨年発覚したときは、シン牧師が『李萬煕が死んだら、また戻ってきなさい』と言って送り返しました」(スタッフ)

今でも、教会には新天地信者が元信者を連れ戻しにやってくるという。「背道者(裏切り者)」と非難されることもある。

 「新天地に入信する人は、人間関係にコンプレックスがあり、恐れを抱いている人が多い。そんな人にとって『背道者』という言葉は、泣き所を突かれた気持ちになるのです」(25歳元信者)

◆新天地にハマる最大の理由、聖書の「比喩ほどき」

 2015年に新天地を脱会し、2017年より九里教会で伝道師をしているキム・ソンインさん(仮名・28歳)は軍隊を除隊後、大学の友人を通じ「教授」を紹介された。キムさんは親切な教授にプライベートな相談をするようになり、やがて師と仰ぐまでになった。教授の周辺にいた学生らとも親しくなった。

 「一緒に旅行にいったり、時には一緒に泣いてくれたりもして、すごく良くしてくれたんです。5か月ほど経ち、彼らが全員、新天地であることを知ったのですがその時には心理的にもう離れられなくなっていました。『新天地から出ると、地獄に落ちる。チャンスは一回だけだぞ』とも言われた。どこにも打ち明けられず、地獄に落ちないためには聖書の勉強をしなければと思ったんです」

 新天地が他の宗派と異なる最大の特徴の一つに、『ピユプリ(比喩ほどき=解き)』というものがある。聖書の中でも特に難解と言われる「ヨハネ黙示録」の比喩表現を、独自の解釈で言語化し体系化したものだ。

 多くの元信者が、この比喩ほどきが入信の強い動機になったと言及している。

 代表例としてよく挙げられるのが、マタイ13章の「木」だ。

 「からし種」を新天地では「種」とし、種を「神の言葉」、畑を「人の心」、木は「生まれ変わった人」、空の鳥「聖霊」と解釈している。そして、人(畑)が神の言葉(種)を受け輪廻転生し(木)聖霊(空の鳥)が宿るようになったと主張する。

 この「種」が教祖の李萬熙氏を表していることは他との連関で暗喩されていく。ほか「神の七つの目」を新天地の7人の幹部、新天地の本拠地がある果川市を聖地と例えるなど陳腐な部分もあるが、原意と遠からず近しからずの絶妙なさじ加減で行われる解釈は、聖書に苦手意識を持っていた若いキリスト教信者らの心を掴んだ。

 怪情報を希少性バイアスにより「新たな真実である」と信じ込んでしまう現象だ。キムさんも、あっという間に比喩ほどきにのめり込んでいった。

 そうして約10か月後。両親に気づかれ、なじみの教会に連れて行かれ、牧師とともに説得された。

 「最初は反抗しました。『これは神の試練。両親を新天地に連れて行かなければならない』とさえ思っていました。しかしなじみの教会で新天地の沿革、不法性、欠点など色々と聞かされるうちに、間違いだと確信するに至ったのです」

 キムさんは一連の経験を振り返り、「有益だった」と話す。

 「両親の僕に対する愛を改めて感じることができた。世の中には詐欺師も多いが、教会の牧師さんのような、偉人も多いということを知りました」。

◆キリスト教信者以外でも魅了される

 21歳のイ・ナムジュンさん(仮名)も、比喩ほどきに魅せられたうちの一人だ。

 「友人からEBS(韓国教育放送公社)の記者と名乗る人を紹介され、幸福についての番組を作りたいので設問事項を作るのを手伝ってくれないかと言われたのがきっかけです。やがて聖書の勉強会に誘われて……。僕は生まれてすぐに受洗したのですが、昔から聖書の内容には疑問を持っていました。でも、インターネットで検索しても出所不明の情報ばかりで信用できない。そんなときに、新天地の聖書解釈は明快かつ論理的に感じられ、『神はここにいらした』と感激したんです」

 比喩ほどきで、聖書の疑問点が「ダ・ヴィンチコードのように」一つ一つ腑に落ちていく過程は快感だった。誰も知らない暗号を知った気になり、誇らしかった。これまでは1%もわからなかったものが、99%納得がいった。

 そしてイさん自身も身分を詐称して勧誘活動を行い、「いくつか成功はした」。

 脱会した今となっては、「聖書の内容を切り貼りして歪曲していることに気がついた」という。

 「比喩ほどき」に魅了されるのは、キリスト教の素地がある人だけでない。無宗教の状態から、5年間入信していたユ・スナさん(仮名・25歳)はこのように話す。

 「20歳の頃に友人を通じて、延世大学の学生という年上の女性を紹介され、彼女に聖書の勉強をしないかと言われ、教会に通うようになりました。そのときはちょうど『私はなぜ生まれ、なぜ生きているのか』と思い悩んでいた時期。私は無神論者でしたが、聖書には、きっとその答えがあると思ったんです。後に知ったら、その女性が延世大学生であることは嘘だったのですが……」

 その後、両親の介入により脱会。5年の間に、新天地のネガティブなニュースに触れる機会も多かったはずだが……。

「教団には新天地に関する批判的な情報をすべてシャットアウトし、反論する渉外部という部署があるんです。論理的なことはどうでもよく、不条理を感じてもそれは自分の信心が足りないから。神はいつでも正しいのだから……と自分に言い聞かせていくんです」

 さらに彼らがハマった理由を深く尋ねてみる後編は近日公開予定。

<取材・文/安宿緑>

【安宿緑】

ライター、編集、翻訳者。臨床心理大学院在学中。 韓国心理学会、韓国女性心理学会正会員。日本、韓国、北朝鮮など北東アジアの心理分析に取り組む。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」

(現在準備中)に参加。ライター安宿緑のブログ

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