新型コロナウイルス、パンデミックからみるロンドンの街角。ロックダウン前後の日常

HARBOR BUSINESS Online / 2020年3月28日 15時31分

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棚が空っぽになったスーパー

◆東アジアでの流行とコロナ差別

 「明日は我が身」とはよく言ったものだ。ロンドンの街角からたった1週間で人が消えた。

 今年1月に中国武漢市から発生した新型コロナウイルス(COVID-19)。それは当初筆者が住む英国ロンドンからはとても遠い事のように思えた。

 2月に入りダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港した時から、日本でも新型コロナウイルスの感染者が日々増え始めたのを覚えている。首都圏に居る家族、友人らに連絡を取り安否を確認し始めたのもこのくらいだ。日本では全国一斉休校が要請され、スーパーマーケットからマスク、トイレットペーパー、消毒液が消えた。

 3月に入ると英政府は中国、韓国、イラン、北イタリア、そして日本を含めた地域からの入国者に対し少しでも症状がある場合に自宅隔離を要請し始めた。この段階ではまだ新型コロナウイルスのホットスポットは東アジアという認識が強かった。

 3月6日にシンガポール人留学生がロンドンの中心街オックスフォード・ストリートで数人の若者により暴行を受け、コロナ差別と呼ばれる東アジア人差別が顕在化するようになった。

 筆者の所属する大学でも中国人留学生に対する差別の事例があり、大学から注意喚起の連絡があった。筆者自身も通学途中キングス・クロス駅前を自転車で通過しているときに若者グループに「コロナ!」と叫ばれ不愉快な思いをしたものだ。

 ちなみに、このような人種差別主義者は新型コロナ関係なく、常に場所を問わず存在する。新型コロナの一連で彼らの言動が激化しているだけだ。敏感になるだけ無駄である。

 実際、蓋を開けてみると、イギリスでの感染者は北イタリア帰りの富裕層(この時期はスキー休暇などで北イタリアに行く人が多い)で、富裕層の集まるロンドンの西側に感染者が多く点在していた。この時点で国内の感染者数は既に400人を超えていたが、街中は人で溢れかえっていた。

◆医療崩壊を恐れた英国の「遅延対策」

 3月12日に英国政府から発表された戦略は「遅延対策」というもので、ウイルス自体を封じ込めることは不可能なので感染のピークを遅らせ集団免疫の獲得を目指すと宣言した。それは無料のNHS(国民保健サービス)が圧迫されるのを危惧した対策だった。手洗い20秒、大規模イベント等の中止、症状がある人・高齢者・基礎疾患のある人は外出を控えるように、と御達しがあった。

 とはいえ、20代・30代の若者を中心に街は溢れかえり、その週の土日はロンドン中心部・ソーホーという繁華街のクラブやパーティーに向かう人で地下鉄は混んでいた。土曜日は筆者も友人とロンドン屈指のサブカル街、カムデン・タウンでモヒカンのパンクスを横目に食べ歩きを楽しんでいた。

 この「遅延対策」は賛否両論を呼び、英国国内の200人以上の科学者が英国政府に速やかに戦略を変更するようにと嘆願書を送った。集団免疫の獲得には国内の60%以上が感染する必要があり、その間でたくさんの命が失われるだろうとのことだった。

◆英国からヨーロッパへの帰国が始まる

 この頃にはヨーロッパ諸国は国民の行動規制を呼びかける戦略を開始しており、筆者のヨーロッパ出身の友人たちは英国にいるよりも自国に帰った方が得策だろうと文字通り飛ぶように帰っていった。中にはこの混乱の中、ドイツへのフライトが何回もキャンセルになり不安にかられつつ、泣きながら別れの電話をしてきた友人もいる。

 また、いち早くイランに帰国した友人は新型コロナ陽性が発覚したらしく、「これは酷いインフルエンザみたいなものよ」と随時彼女の体調を報告してくれた。ちなみに彼女は既に回復し、この経験のおかげで禁煙に成功したとのこと。

◆外出自粛とテレワーク、オンライン授業へ

 それでも感染拡大が止まらない現状を受け、英政府は16日にパブ・カフェ・レストラン等への自粛を国民に訴えた。この日から、自宅で仕事ができる人はテレワークに移行した。筆者も大学の研究室に行ったのはこの日が最後だった。

 19日には全国一斉に休校。一時は混乱を招いたが、大学等の授業も全てオンラインに移行。スクリーン越しに垣間見る、普段は難しい形相の教授の部屋が洗濯物だらけだったのは物凄く親近感が湧いた。

 一方、パブ・カフェ・レストラン等の自粛だって、それ自体もまた物議を交わしていた。大型チェーンの店はまだいいだろう。だがしかし、街中の中小企業はどうなる。特にロンドンは小さな地元密着型の小売店が多い。街中の店も細々と何とかして売り上げを出そうと試行錯誤していた。

 カムデン・パッセージの革物専門店にて。「コロナ割!2つで19%オフ!地元の繁華街を支援しよう!」と何て皮肉の効いた英国らしいジョークだろうか。

 人通りの少ないマーケットを歩いていたら近所のアンティーク店のおじさんに話しかけられた。

 「うちみたいな労働者階級は本当に困っている。客が来ないと収入がないんだ。そうすると食料品も買えない、家賃も払えない、どうやって生活すればいいんだ」と彼は話してくれた。

 この後、英政府は中小企業・個人事業主へ特別支援基金により80%の所得を保証する、と発表した。おじさんも無事にこの基金を受け取れること祈っている。

◆スーパーの棚が空っぽになった

 この時期からスーパーマーケットから物が消えた。19日に夕飯の買い出しに家の近くのスーパーマーケットに行ったらもぬけの殻である。言葉を失った。

 日本ではトイレットペーパー、マスク等が不要な買占めにより入手困難になったと聞いてはいたが、イギリスでは食料品までもスーパーから消えた。

 冷凍保存ができる肉魚類、パスタやお米といった炭水化物、缶詰類などがなく、何軒かスーパーを周り、買えるだけのものを買って帰宅した。とはいえ野菜や果物類は残っていたので、筆者はこれを機に短期間のベジタリアン生活に挑戦しようと思う。

 この状況を日本にいる友人らに伝えたら、米や麺類、トイレットペーパー・生理用品を送ってくれる、とのこと。彼らの速やかな対応には感謝しても仕切れないほどだ。

◆酒盛りや散歩に出かけるロンドナーたち

 20日昼、大学も図書館も閉鎖されたので筆者は地元のカフェで作業をしていた。同じようにカフェで作業している人たちが多く、学校が休みなので子連れで街を歩く人も多く、閑静な住宅街の北ロンドンには平和な雰囲気が流れていた。

 しかしそれも一変。その日の夜には全ての飲食店が閉鎖された。カフェやレストランはテイクアウトサービスのみで営業可能とのこと。全ての「社交場」を閉鎖してクラスター感染を抑え込もうとのことらしい。生活必需品の買い物、犬の散歩や軽いエクササイズ以外での外出は控えるようにとのことだった。

 しかし、人は生活を制限されると、その抜け道を探そうとするものだ。

 21日・22日の週末は公園に人が集まり、日本のように花見の文化など無いにも関わらず、公園で酒盛りをしている若者が多かった。筆者も散歩がてら近くの公園に行った。自粛モードにも関わらず、人が大勢公園に集まっているのを見て驚いた。

 北ロンドンに位置するアレクサンドラ公園では、散歩をしている人たちの姿がちらほら。ロンドン市内で一番の高台に位置し、市内を展望できるということで人気のスポットである。

 ちなみにここ数日春の訪れか、常に天気の悪いロンドンでは珍しく天気が良い日が続き、皮肉にも散歩日和なのである。こういう時にロンドナーは本当に外に出たがる。犬の散歩をする人、ランニングをする人、友人と芝生の上に座り日光浴を楽しむ人。同伴した同居人と「公園で自然を愛でながら交流するって素敵だね」と話していた。別の友人からもテキストメッセージにて「近々一緒に公園で散歩しよう」との誘いもあり、筆者を含め誰もがこの状況を真剣に捉えてなかった。

 3月22日の日曜日は英国では「母の日」ということで、ボリス・ジョンソン首相は毎日の会見の中で「間違えても遠くに住む母親に会いに行かないように。手紙やテキストメッセージでお祝いするように」と国民に注意した。西ロンドンに住む親しい友人に安否の確認の連絡をしたら「母親と市場を見に行ったよ」とのこと。まず市場がやっているのも驚きだし、60歳過ぎで持病持ちのお母様と散歩……。

 英政府の言っている事と現実があまり噛み合わなかった。

◆3週間のロックダウン、「STAY HOME STAY SAFE」

 とはいえ、3月23日時点でこの1週間で英国内の感染者数は6650人と1週間前の3倍に跳ね上がっていた。ちなみに執筆中の現在でも感染者はうなぎのぼりである(25日に8077人の感染が確認された。)

 ついに23日に英国政府は最低でも3週間のロックダウンを宣言した。不要な外出を控えて家にいること。生活必需品の買い物もなるべく回数を減らすこと、一日一回のエクササイズでの外出は容認、2人以上で外を出歩かないこと。街には警察が待機し、違反者には切符が切られる、とのこと。

 大学の実験室に勤務する友人は研究施設のメンテナンスの為に地下鉄で通勤しなければならない事を危惧していた。

 「地下鉄の本数が減って、そのせいでラッシュアワー時は平常時と何も変わらないのよ。政府の政策は意味があるのかないのか・・・。」

 彼女のように未だ平常時の生活ルーチンを強いられる人からは不満・不安の声が多い。英国では21歳の基本疾患のない若い女性の死が報道された。若者は新型コロナにかかっても重症化しない、という説が揺らぎ始めた。

 兎にも角にも、この1週間という短い期間で生活が一変してしまった。

 筆者の住む家の窓からは絶え間無く救急車のサイレン音が鳴り響いている。その反面、大通りからは人が消えない。無論、商業施設やビジネス街が集まるロンドン中心部はゴーストタウン化したと思われるが。閑静な住宅街の北ロンドンでは日常が少しずつ譲歩されながらも未だ繰り返されている。

 テレビから流れてくるのは「STAY HOME STAY SAFE(自宅で安全に)」というスローガンばかりだ。筆者と同居人はここ数日間、ネットからの情報過多からのデトックスを目的に世界地図のジグソーパズルを始めた。二日で完成してしまったので、他の方法を考えなければいけないのだが……。

 英政府は既に退職した医療関係者に声を掛け、東ロンドンに臨時病院を解説する事を発表。50万人以上の人がこの状況を乗り越えるためにボランティアとして名乗りを上げた。内容としては、食料品・生活必需品・薬等の配達、感染者の護送、隔離された人への安否確認などが含まれる。

 国を超えて世界が一体になり、このパンデミックの状況を乗り越えることが大切だ。もちろん、生活が制限されることは大変なことだが、ここは一人一人ができる事をし、感染拡大、そして多くの望まれない死を防ぐしかない。

 日本の友人からは、食料品・トイレットペーパー等が送られてきた。感謝しても仕切れない。

 東京でもロックダウンが秒読みという噂を耳にした。

 「明日は我が身」である。不要な外出は控え、何としても感染拡大を防いでほしい。一人一人の行動がこのパンデミックの行く先を左右するのではないだろうか。

<文/小高麻衣子>

【小高麻衣子】

ロンドン大学東洋アフリカ研究学院人類学・社会学PhD在籍。ジェンダー・メディアという視点からポルノ・スタディーズを推進し、女性の性のあり方について考える若手研究者。

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