「経産省内閣」の正体。無能な官僚に支配された安倍官邸<福島伸享氏>

HARBOR BUSINESS Online / 2020年7月20日 8時32分

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kash* / PIXTA(ピクスタ)

◆経産省は官邸官僚の被害者だ

―― 持続化給付金やGOTOキャンペーンなど、経産省所管の政策に批判が集まっています。福島さんは経産省出身ですが、現在の経産省をどのように見ていますか。

福島伸享氏(以下、福島):官邸からの仕事の下請けで相当疲弊しているというのが正直なところだと思います。ここで頑張らなければ経産省の評判が悪くなるので、必死になって仕事に取り組んでいるのでしょうが、ドツボにはまってしまっています。

 もともと経産省は多くの予算があるわけではないですし、それほど人員がいるわけでもありません。企業で言えば企画部・宣伝部のようなところで、口八丁手八丁で生きている組織です。また、経産省は福島原発事故を見ればわかるように、危機管理の苦手な役所です。危機管理に取り組むには警察庁や旧自治省のように上意下達の縦型の組織が必要ですが、経産省は一人ひとりが自由に動き回り、それが結果として一つの音楽を奏でるような役所ですから、命令一つで組織立って仕事をすることが得意ではありません。

 そのような役所が、いきなり国民全員にマスクを配れとか持続化給付金を2週間で支給しろと命じられても、うまくいきっこないのです。つい昨日まで韓国とのWTOの紛争解決の準備をしていたような役人が、今日からマスクを集めてこいと言われても、それは無茶というものです。

 経産省が電通に仕事を丸投げしなくてはならなかったのは、そのためです。自分たちにはできない仕事だったから、お金で解決して外部に頼むしかなかったのです。しかし、電通も持続化給付金の実務ができるわけではありませんから、さらに別の会社に委託することになったのでしょう。

 こうした状況が生まれてしまった最大の原因は、官邸で力を持っている官僚たちが実務を重んじないで、メディア映りばかりを気にしていることにあります。現在の官邸には今井尚哉補佐官や佐伯耕三秘書官など、経産省出身者がたくさんいます。経産省に無理難題を押しつけているのは彼らです。実は彼らは政策に精通しているわけでも、専門知識があるわけでもありません。そのため、新型コロナウイルスにどう政策的に対処すればいいか、素人同然だと思います。だからアベノマスクや持続化給付金のように、とにかく人海戦術によって事態を打開しようとしているのです。潰れそうな企業が陥りがちなパターンです。

 そこから考えると、多くの人たちが経産省を批判していますが、経産省はむしろ官邸官僚たちの被害者だと思います。私は経産省OBとして可哀想だなと思います。

◆官邸主導ではなく官邸官僚主導

―― 福島さんは本誌2018年5月号で、橋本龍太郎政権が行政改革に取り組む際、福島さんたち経産官僚(当時は通産官僚)は官邸機能の強化を目指し、内閣人事局など様々な構想を練っていたと明かしています。安倍政権は「安倍一強」と言われるほど強大な権力を握っていますが、橋本行革が目指していたものが実現したと見ていいのでしょうか。

福島:残念ながら、そうではありません。橋本行革が行われた20世紀末は、通産省も転機を迎えていました。かつての通産省は護送船団的な産業政策に代表されるように、企業や業界に対して様々な規制や行政指導で経済をけん引していましたが、もはやそのような時代ではなくなりました。そこで、私たちは経済政策の司令塔役として、内閣を回していく新しい役割を担えないかと考えたのです。 

 私たちはその一環として、官僚を二種類に分けようという議論をしました。二種類とは、各省庁に法令で与えられた仕事に従事する「省務官僚」と、省庁の枠に縛られず天下国家のことに取り組む「国務官僚」です。この「国務官僚」を、省庁や官民の枠にとらわれず集め、評価し、配属するということを一元的に行うため、内閣人事局のような省庁や政治から独立した組織が必要だと考えたのです。

 こうしたことの実現を目指すチームには今井補佐官もいました。いま今井氏は官邸に入って内閣を回していますが、彼にとっては自分の構想が叶ったと言えるかもしれません。

 しかし、私たちが目指していたのは、民間人や学識者を含め歴史観や世界観が確かで政策に精通した日本のベストアンドブライテストを官邸に集めることであって、官僚としての調整能力はあっても、政策構想力や専門性のない人材が官邸に入ることは想定していませんでした。彼らが安倍総理に重宝されているのは、総理の威を借りた省庁間の調整に長け、政治家やメディアへのプレゼンテーションがうまいからにすぎません。安倍総理自身も政策はわからない人なので、口八丁手八丁の官僚に簡単に取り込まれてしまうのです。その結果、官邸には科学的に政策立案のできない、世渡りと外見を取り繕うのが上手な官僚たちばかり集まるようになってしまったのです。

―― 官邸に権力を集中させること自体には成功したと言えるのではないでしょうか。

福島:いや、それも失敗です。官邸主導とは民意を受けた政治の主導でなければならないはずです。しかし、安倍政権の官邸主導は民意を受けていない官邸官僚の主導になってしまっています。

 私たちが橋本行革で目指した官邸主導は、政治改革とセットになって初めて実現するものでした。1996年から小選挙区制のもとで選挙が行われることになっていたので、二大政党制が到来することを前提に行革を進めていたのです。

 私たちは次のような仮説を立てていました。政権交代のある政治では、政策を基準に国民の選択が行われるため、政党や政治家たちは国民に提示する政策づくりに切磋琢磨し、政策に強い政治家が生き残るはずだ。彼らは官僚から振り付けられなくとも、自分の力で政策を理解することができる。こうした政治家を官邸や政府に送り込めば、官僚が作った政策を政治家が丸呑みすることがなくなる。その結果、官僚たちも自分の作った政策が政府に入った政治家に採用されるように必死になっていい政策を考えるので、政府の中で政策づくりの競争が起こるだろう。こうした形で政治家が官僚を動かしていく「政治主導」を考えていたのです。

 しかし、政権交代は民主党政権の後、一度も起こっていませんし、「悪夢」とも言われています。小選挙区制度なのに政権交代に現実感がない政治状況が続いてしまっているため、○○チルドレンのような党の風を受けて当選した必ずしも能力や資質があるとは思われない政治家が大量に国政に入ってきてしまいました。そのような中から、官邸に送り込まれる政治家たちも、官僚を動かせるというよりは、肩書がついて嬉しいだけという人物ばかりになってしまいました。公職選挙法違反で起訴された河井克行氏が、安倍政権の首相補佐官を務めていたことがその象徴でしょう。これでは官邸主導などできるはずがありません。政治家が無能である限り、官邸主導は実現しないのです。

◆官邸官僚に正当性はない

―― 安倍官邸で最も権力を握っているのは今井秘書官です。彼は外交にまで口を出していると言われています。いくら安倍総理の信頼を得ているとはいえ、常軌を逸しています。

福島:私は彼のような官僚のことを「政治家モドキ」と呼んでいます。総理に近い官邸官僚たちは、自分たちが国を動かしているかのように勘違いしています。しかし、政治家は本能として民衆の目や声を気にかけながら行動しますが、政治家モドキは与えられた権力の行使にばかり関心がいき、民衆に目を向けることはありません。だから彼らの考えた政策は、民衆の実態からかけ離れたものになってしまうのです。

 そもそも政治権力というものは、選挙を通じて民衆から正当性を与えられるものです。民意に基づかない権力の行使は、必ず破綻します。政治家モドキたちは自ら政治家になって政治の世界に足を踏み入れるつもりがないなら、自らの役割をわきまえ、政治と適度な距離感をとるべきです。

 もっとも、繰り返しになりますが、政治家モドキたちが官邸を牛耳るようになった根本的な原因は、政治家の能力が足らないことです。政治家たちに政策構想力がないから、政治家モドキたちが跋扈してしまうのです。政治家モドキもタチが悪いですが、政治の側にこそ責任があることは忘れてはなりません。

―― 中選挙区制の時代には、族議員と呼ばれる政策に精通した政治家たちが力を持っていました。彼らはしばしば利権を漁っていると批判されましたが、政治家が専門性を持っていたという点では、族議員のほうが良かったのではないですか。

福島:結果として族議員のほうがマシだったということになるでしょう。ただ、族議員たちはそれぞれ専門性はあったと思いますが、彼らはタコツボ的で、全体を俯瞰することができません。彼らは「これからは教育の時代だから、教育政策に重点を置こう」とか「これからは農業政策に力を入れていこう」といったように、個別の政策ではいいことを言っても、それら全部を単純に足し合わせたら正しい方向に行っているとは限りません。族議員の知識だけでは、国の方向性を転換していくことができないのです。実際、族議員が活躍した時代、各省庁別の予算のシェアはほとんど変わっていません。

 だからこそ私たちは官邸機能の強化を進めたのです。その時代に国の進むべき基本的方向性を定め、その実現のために必要な政策を取捨選択していくためには、政策分野全体を俯瞰して価値判断ができる官邸を強くする必要があったのです。

 そういう意味では、現在の官邸の仕組みに問題があるというより、仕組みに応じた中身が入っていないことが問題なのです。能力のある政治家と最高の専門的知識を持った国務官僚が官邸に入らない限り、いくら官邸機能を強化しても、宝の持ち腐れになってしまうのです。

◆立憲民主党も国民民主党も解党せよ

―― 現在の官邸の仕組みが政権交代を前提としているなら、野党が強くならない限り、官邸はうまく機能しないことになります。しかし、現在の野党を見ていても、政権交代ができるとは思えません。

福島:いまの野党に期待できないという声は、よくわかります。なぜ国民が野党に期待しないかと言うと、やはり民主党政権の失敗が大きいと思います。民主党が政権交代を実現したときは、多くの人たちが民主党に期待し、自らの思いを託していました。しかし実際に民主党に政権運営をさせてみると、とんでもないことになってしまった。国民の間にはそのトラウマが根強く残っているのです。

 あのとき民主党政権の中心にいた人たちは、年齢的には若いため、いまだに政界に残っています。国民からすれば、「私たちはノーをつきつけたのに、なぜあなたたちはまだそこにいるのですか」となるわけです。野党支持者が増えないのは当然なのです。

 しかも、現在の野党に本気で政権を奪おうとしているようには見られません。次の衆議院選挙は間近に迫っており、早ければ8月にも解散総選挙が行われる可能性がありますが、彼らが選挙に勝って政権交代をしようと準備をしているようには思えません。かつて民主党が政権をとる前は、散々馬鹿にされましたが、「ネクストキャビネット」を組織し、自分たちが政権をとったときに誰を大臣にしてどのよういな政策を実現するかを国民に示していました。また、2005年衆議院選挙の時の「岡田政権500日プラン」のように、政権をとってからどのように行動するのか具体的な構想まで明らかにしていました。しかし、最近はそうした動きは全く見られません。民主党政権の中枢にいた人たちは、政権をとってみて思うように政権運営ができなかったため、内心では再び政権をとることを恐れているのだと思います。これでは国民としても野党に期待しようがありません。

 投票率が上がらない原因もそこにあります。いくら自分が投票しても政権交代は起きないと思えば、誰も投票など行かないでしょう。

 しかし、政権交代にリアリティが出てくれば、国民は必ず投票に向かいます。いま国民の間には安倍政権への失望感が広がっています。国民は安倍政権を倒したくてウズウズしているのです。私は地元を回っていて強く感じますが、7割から8割の有権者が安倍政権ではダメだと思っているのではないでしょうか。河井克行・案里夫妻の逮捕にしても、いまだに自民党は金権選挙をやっているのかと呆れ返っています。もともと私の地元は自民党の地盤で、自民党以外の人間が行くと塩を撒かれてしまうようなところでしたが、最近では多くの人たちが街頭から「安倍政権を倒して」と声を掛けてくれるようになっています。

 野党が政権交代を実現するには、国民の期待に応えうる新しい政治勢力が必要です。そのためには、立憲民主党も国民民主党も日本維新の会もいまある野党はみんな一度解党してもいい、そのぐらいの覚悟が野党には必要ではないでしょうか。小さな政党がそれぞれ我を張っていても仕方ありません。

 そもそも今回の都知事選でも、宇都宮健児氏は野党統一候補になれず、国民民主党の前原誠司氏が維新推薦の小野泰輔氏を応援する一方、同じ国民民主党の馬淵澄夫氏はれいわ新選組の山本太郎氏を応援していました。立憲民主党からは須藤元気氏が離党表明し、山本氏の応援に駆けつけています。野党の支持母体である連合東京は、小池百合子氏に推薦を出していました。すでに野党はバラバラで、政党の体をなしていないのだから、それぐらいの思い切ったことをしなければ存在意義はないでしょう。

 民主党政権が誕生したときのように、小選挙区制は何かのきっかけで議席数が大きく変化する仕組みです。野党が既存の政党をすべて解党するくらいの覚悟を持てば、政権交代も不可能ではないと思います。いまの野党にそれだけの覚悟があるかどうか、それが問われているのです。

(7月3日、聞き手・構成 中村友哉)

福島伸享(ふくしまのぶゆき)●1970年茨城県生まれ。通商産業省(現:経済産業省)を経て2003年に民主党から衆議院議員選挙に出馬。2009年に衆議院議員に。2017年、10月の第48回衆議院議員総選挙では希望の党から茨城1区で出馬するも惜しくも落選。

<『月刊日本8月号』より>

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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