日本でも起こっているキリスト者の性犯罪<映画『グレース・オブ・ゴッド』は対岸の火事ではない 第2回>

HARBOR BUSINESS Online / 2020年8月1日 15時31分

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2005年に牧師が信者の少女に暴行したとして逮捕された宗教法人「聖神中央教会」 (写真/時事通信社)

 前回は、日本における宗教者による性犯罪のうち大多数を占める仏教者によるものについて検証してみた。今回は大反響を呼んでいる映画『グレース・オブ・ゴッド』で描かれたキリスト教について検証してみる。

◆日本ではカトリック以外での性犯罪も

 日本ではキリスト教関係者の性犯罪は圧倒的少数派。キリスト者が容疑者として報じられた事件も他に比べて少なく7件のみ。しかしうち6件(85.7%)がインドア事件(*宗教内での事件を指す筆者による造語。本連載では宗教と無関係の信仰活動外での性犯罪を「アウトドア事件」と指す)だ(残る1件はドラッグストアのトイレでの盗撮事件)。母数が少ないので他との比較が難しいとは言え、インドア事件の割合は「祈祷・占い」とほぼ同レベル。

 キリスト者のインドア事件6件のうち、容疑者が「神父」(カトリック)だった事件は2件、「牧師」(プロテスタント系)が4件だ。カトリックだけの問題ではないことは明らかだろう。

 前出の通り『宗教年鑑』ではキリスト教系の教師は約3万人とされており、仏教系の教師は約35万人。教師数に対する性犯罪容疑者数の比率を算出すると、キリスト教は0.023%で、仏教のそれは0.014%であるため、2倍近い。インドア性犯罪だけに絞ると、キリスト教は0.02%、仏教は0.0017%。キリスト教は仏教の10倍以上だ。

 これまた、キリスト者が容疑者となった事件の数が少ないため割合を比較するのは難があるものの、ずいぶんと大きな差が出ている。

 神道では、教師数に対する性犯罪容疑者の比率は0.011%。インドア犯罪に絞ると0.003%。キリスト教には遠く及ばない。祈祷師・占い師は『宗教年鑑』には載っていないので算出できない。

◆宗教者の性犯罪を象徴する2つの大事件

 キリスト者が容疑者となった事件のうち、大きく繰り返し報道されたのが、2005年に主管牧師・金保が逮捕された聖神中央教会(京都府)の事件だ。長年にわたり未成年者も含めた多数の信徒をレイプしてきた金牧師は、うち7人(うち5人が未成年者)に対する強姦罪で懲役20年が確定した。犯行も隠蔽も組織的に行われていた。

 聖神中央教会はプロテスタント系だが、未成年者に対するインドア事件である点で、『グレース・オブ・ゴッド』や『スポットライト』で取り上げられた事件と全く同じ。被害の深刻さや被害者の多さも同様だ。

 摂理(キリスト教福音宣教会)は日本では刑事事件化していない(今回の統計ではカウントしていない)ものの、教祖・鄭明析(チョン・ミョンソク)は信者へのレイプについて韓国で有罪判決を受け服役した(すでに出所)。日本人信者も被害にあっていたことや、摂理が日本の大学で正体を隠して学生を勧誘していた(いまもしている)ことなどから、日本でも新聞、テレビで大きく報道された。これが2006年のことだ。被害者の中には未成年者もいたと言われている。

 キリスト教系以外も含めた性犯罪の報道件数(多くは逮捕や送検時の報道)を年別に見ると、聖神中央教会事件や摂理問題がメディアで大きく取り上げる直前の2004年から、報道件数が増えている。

 以前に比べて宗教者による性犯罪を警察が発表するようになったか、新聞が報道するようになったのか、原因はわからない。報道の増加が2004年からなので、2つのキリスト教系(新)宗教をめぐる2005年と2006年の事件が原因ではないだろう。しかしこうした歴史の流れ上、2つのキリスト教系の事件は日本における宗教者の宗教的性犯罪を象徴する大事件という印象を受ける。

◆キリスト教特有のインドア事件

 日本における宗教者のインドア犯罪では、祈祷や占いのための個人面談において行われる傾向が強いことは、すでに述べた通り。しかしキリスト者による性犯罪は、こうした日本的な宗教的性犯罪とは少々構図が異なる。

 キリスト教においても聖職者と信者が1対1で対話する宗教的な場面はないわけではないが、「祈祷・占い」に比べれば個人面談が主軸の宗教というほどではない。多数の信者が集まる礼拝、その他の催し、その準備、社会活動等々、聖職者と信者が接する様態は様々だ。こうした関わりの中で宗教儀式としてではない性行為が行われており、『グレース・オブ・ゴッド』や『スポットライト』で描かれた被害もそういう種類のものだ。

 この点は日本でも同様で、新聞記事でも宗教上の個人面談の場での犯行に限定されていない。〈強制わいせつ容疑で牧師逮捕 /岐阜県〉(朝日新聞2016.09.04)の事件は、〈教会に出入りしていた女性に背後から近づき、抱きついたり、尻を触ったりするなどのわいせつな行為をした〉(同記事より)疑いだ。〈牧師が女性信者乱暴 つくば中央署容疑で逮捕 教団施設を家宅捜索〉(茨城新聞2010.01.29)では、共同生活をしていたスタッフが被害にあったと主張している。

 教会や聖職者が信者コミュニティの日常生活に深く関わるキリスト教は、密室性が高いだけではなく、その「密室」の範囲が広く多様だ。

 日本の仏教でも、地方の地域密着型寺院であれば地元住民との接点も多いだろうし、住職が宗教活動以外で地元団体の役職者だったり、大地主だったり、観光寺を運営する商売人だったり、兼業で教員等をしていたり、様々な形で社会と接点を持つ。しかし少なくとも性犯罪報道という切り口で見ると、これらは性犯罪の現場としての宗教的密室になっていない。

◆韓国系教会と牧師が登場する背景

 キリスト教系の性犯罪報道では、容疑者の氏名として韓国系とおぼしき名前が複数登場する(他国の牧師による事件も1件あった)。今回カウントしていない前述の摂理も韓国の宗教であり教祖は韓国人だ。

 本稿が差別やヘイトスピーチに利用されることを避けるため解説しておくと、これは国籍や民族が性犯罪につながることを示すデータにはならない。韓国のキリスト教事情と、その影響が日本社会にも及んでいることが反映されているだけだろう。

 韓国では独自に教会を設立した牧師による、プロテスタント系というよりは「インディーズ系キリスト教」とか「キリスト教系新興宗教」と呼んだ方が良さそうに思えるキリスト教勢力がある(もちろん他国でもあるかもしれない)。牧師が強権的(つまり教祖的)だったり教義に独自色が強かったりする場合は、韓国のプロテスタント系から異端視されたりもする。

 日本には、一般的なキリスト教はもちろん、こうした類も含めて、韓国系の牧師が活動したり韓国系教会が設立されたりしている。後述する卞在昌牧師の「小牧者訓練会」「国際福音キリスト教会」もその類いだ。

 今回の一連の新聞記事には登場しないものとして、前述の摂理のほか、韓国で新型コロナウイルスの集団感染を引き起こした「新天地イエス教会」も、日本でも活動している。正体を隠して大学生等を勧誘することで有名な「ヨハン早稲田教会」も、発祥は日本のようだが韓国人牧師が設立し信者には韓国人が多い。日本では霊感商法や偽装勧誘で知られる右翼的新興宗教のイメージが強い統一教会(現・世界平和統一家庭連合)も、以前の名称は「世界基督教統一神霊教会」であり、欧米ではむしろキリスト教の一派のように見られているとも聞く。

 例示するものがキワモノばかりなのは、筆者がカルト取材ばかりしているせいだ。おそらく、もっと一般的な韓国のキリスト教・キリスト者も日本で活動しているケースはあるはずだ。

 ここで言う「プロテスタント系」は、これらも含めた玉石混交な分野だ。その中で、日本と韓国との間に宗教を介した接点が多い以上、性犯罪の容疑者とされたキリスト者の中に韓国系の人物も登場したとしても、何ら特別なことではない。国籍や民族と性犯罪を結びつけるデータにはならない。

<取材・文/藤倉善郎>



【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

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