還流スキャンダルから1年……。原発マネーと高浜町の今

HARBOR BUSINESS Online / 2020年8月26日 8時32分

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関電問題が発覚して以降、反原発運動が各地で活発化。運転開始から40年を超える高浜原発1、2号機は今なお再稼働の見通し立たず

 関電の金品授受問題が発覚してから1年、黒い利権疑惑に揺れた福井・高浜町はどう変わったのか?新型コロナの脅威も忍び寄る現地を取材。見えてきたのは、いまだ色濃く残る癒着の構図だった……

◆還流スキャンダルから1年。行政と利権の癒着構造は変わらなかった

「あれから1年、町の体質は変わりません」

 こう嘆息するのは福井県高浜町の町議会議員だ。同町の名前が大きく取り沙汰されたのは、昨年9月のことだった。関西電力幹部らに原発マネーが還流するという大スキャンダルが発覚。その利権の中心にいたのが、昨年3月に亡くなった同町の森山栄治・元助役(享年90)だったのだ。

 今年3月に第三者委員会が提出した調査報告書によると、元助役は関電幹部らに3億6000万円にものぼる金品を賄賂として提供。その見返りとして、自身が顧問などを務める関係企業に仕事を流すよう迫っていた。だが、地元では元助役に対する批判は鳴りを潜めた。高浜町役場の関係者が話す。

「原発が来る前の高浜町は、過疎化が進む地方の田舎町でした。仕事も限られていましたし、道路もボコボコでヒドいものでした。そこに関電が来て、森山さんが助役時代には高浜原発3、4号機の建設が始まり、建設労働者と原発関係者が町にお金を落とすようになっていったんです。新たな雇用が創出された結果、人口1万人の高浜町の7割近い人が関電関係の仕事に携わるようになり、町民の生活が潤った。森山さんや歴代の町長たちに、就職の斡旋や仕事を回してもらうなど、“おいしい思い”をしてきた町民も多い。そんな負い目があるから、誰も大っぴらに批判の声を上げない。選挙を経て町議会で利権にメスを入れようとしても、関電の作業員が住民票を移すなどして組織票が動くんです」

 高浜町は大都市にあっても遜色ないほど立派な町役場を構え、いくつもの真新しい道路が走る。原発立地交付金などの原発マネーのなせる業だ。そのカネが癒着を疑われる企業に今も流れているとしたらどう思うだろうか?

 昨年10月、関電は森山氏が顧問を務めた建設会社・吉田開発に対し、2か月の入札参加資格停止処分を下した。だが、高浜町での吉田開発は目下、町内最大の5億円規模の道路改良工事を進めている最中。指名停止を受けず、今年5月の入札にも参加して6000万円規模の案件を落札しているのだ。高浜町総合政策課の担当者は「指名停止等の措置要領、措置基準に照らし、指名停止に該当しないと判断している」と回答するが、前出の町議は不信感を隠さない。

「町議会でも『吉田開発を入札に入れるのはどうなんや』という声が上がったのですが、『指名先を変えると予算が膨らむ』というむちゃくちゃな理由で入札継続が可決されたのです。民間企業が不正行為を理由に排除した業者に対して、税金で仕事を発注するのはいかがなものか? 高浜町の倫理観は明らかに欠如しています」

◆町長が建設系企業から超低利で1500万円借金

 入手した公共工事に関する資料を見ると、99%という異常に高い落札率が目につく。行政が設定した予定価格とほぼ同じ金額。“脱談合”の流れで全国的に落札率が低下しているのと対照的だ。なかでも高い落札率で多数の案件を受注しているのが、測量や設計を手がける京福コンサルタント。ここ10年の落札は100件以上。うち30件以上の落札率が98%を超えている。実は、この京福も疑惑の目を向けられた企業。別の町議が話す。

「昨年12月に、高浜町の野瀬豊町長が京福から0.5%という超低金利で1500万円ものお金を借りていたことが発覚しました。このような金銭の授受と京福の高い落札率を見れば、ただならぬ関係を疑われるのも当然でしょう」

 野瀬町長は「不動産担保を差し入れており、特別な有利性はない」との認識を示したが、金融機関での不動産担保ローンの金利は2~5%が相場だ。高浜町の担当者は「町議会に調査特別委員会が設置されたが、便宜供与を疑わせる事例はなかったと報告されています」と主張するが、別の町議は「委員会メンバーは町長に近しい町議4人だけで構成され、ほかの町議に発言権はなかった」と漏らす。今年2月に全額返済されたとはいえ、その構図は関電と元助役との関係に重なる。「町議会で1500万円問題を追及し続けた反町長派のもとには、“町民”を名乗る数十人から『いい加減にしろ』というクレームの電話や手紙が来た」ようで、組織的に幕引きを図った疑いも浮上しているという。

 一方、コロナの影響もあって町民には行政への不満が溜まっている。例年夏の高浜町は海水浴客で賑わうが、コロナ禍のため8か所ある海水浴場はすべて閉鎖。飲食店や民宿経営者の困窮は明らかだ。

「200軒近い民宿の多くが関電関係者の宿舎になっているので何とか経営は成り立っているのですが、海水浴客目当ての民宿は壊滅状態。関電の方針で社員による飲食店・遊興施設の利用が制限されているため、その他のサービス業も死に体です。にもかかわらず、事業者への補償はごくわずか。町民に対しても、隣の大飯町では独自に5万円の追加給付が行われたのに、高浜町では5000円分の地域商品券だけ(実際には高浜町独自に中小・個人事業者向けの最大30万円給付や町出身学生向けに9万円の緊急支援給付金制度を用意)。原発マネーはどこいったんだ?って話ですよ」(民宿関係者)

 関電の工事を請け負う事業者によると「今年から2次・3次請け業者からのお歳暮はナシ、というお達しがあった」という。癒着が疑われる行為には厳しい目が向けられているようだが、コロナ禍でも健全経営を続けられているのは、原発マネーの恩恵に与る一部の事業者。利権渦巻く町の汚名を返上するには時間がかかりそうだ。

◆原発に対する逆風が吹くなか最後のチャンスを狙う地方と企業

 なぜ、事件以降も高浜町は原発マネーと利権問題がくすぶるのか? 原発と地方の問題を研究する井上武史東洋大学教授は「ラストチャンスをいかに取り込むかが課題だった可能性」を指摘する。

「原発が立地する自治体は税収の3割以上を原発関連収入が占める傾向にありますが、高浜町の場合は高浜原発の立地に伴う交付金が年間30億円近くに達し、原発の固定資産税を合わせると、収入の5割以上を原発に依存しています。しかし、東日本大震災以降の逆風下で今後、原発の縮小・廃止が進む可能性が濃厚。安全対策工事の特需も生まれましたが、高浜原発はいずれも運転から35年を超えており、再稼働および運転延長しても残された期間は短い。そのため、今がラストチャンスという危機感から、限られた工事案件を地元企業で分け合っている可能性がある」

 その責任の一端は国の原子力政策にあると言っていいだろう。

「電源三法交付金の趣旨は原発電力の消費地が享受する利益の一部を生産地に還元することにあるため、電気料金のなかから電源開発促進税が徴収されています。電気料金の一部が原発の新設費用に回っていたのです。しかし、新設が困難になったことで交付金の重点は運転コストにも充てられるようになりました。こうしてお金を流し続けた結果、原発立地地域は過剰な公共事業で経済を下支えする傾向が強くなってしまった」

 とはいえ、原発マネーそのものは「汚いお金」ではない。求められるのは、不適切な還流を防ぐための「資金の透明化」にある。いかに原発依存体質を脱却するかという議論は、その先にある。

【井上武史氏】

東洋大学教授。敦賀市役所で電源三法交付金の実務などを担当した後、福井県立大学准教授を経て東洋大学経済学部総合政策学科教授に。著書に『原子力発電と地域資源』など。

<撮影・取材・文/栗田シメイ>

※週刊SPA!8月25日発売号より

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