タワマンの不動産価格にも影響大。ドロ沼化する[羽田新ルート]の騒音

HARBOR BUSINESS Online / 2020年9月2日 8時33分

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Ryuji / PIXTA(ピクスタ)

 都心の空が騒がしい。羽田空港の新しい離着陸ルートの運用開始から5か月。想定外の騒音の大きさに住民たちは困惑している。資産価値の低下も囁かれ始めたが……

◆テレワークもできない!騒音で引っ越した家族も

 想定以上の騒音だった。国交省は「羽田新ルート」の運用開始1か月の騒音測定データを8月4日に公表した。うち9例で住民らに説明していた平均推計値より1~4デシベル大きいことがわかったのだ。一方で、今回の公表を待たずして、6月に新ルート下の住民ら29人による「羽田問題訴訟の会」が、運用停止を求める行政訴訟に踏み切っている。同会メンバー・黒田英彰氏はこう主張する。

「騒音は3デシベル増えると体感音量は約2倍になるとの国会答弁もあり、場所によっては当初の想定の倍以上のうるささと言ってもいい。風の向きや強さでさらに大きく聞こえることもあります」

 渋谷区内に住む訴訟の会の別のメンバーもこう証言する。

「ビルの5階に住んでいますが、窓を閉めていても騒音はかなりのもの。高校生の孫も新ルート運用以降、勉強に集中できないと嘆いています。他にも区内の保育園では、騒音で園児が泣きだしたという報告も受けています」

 新ルートの運用は、コロナ禍と重なったことでテレワーカーからも怒りの声が。品川区に住む会社員(30代)の話。

「私のマンションは、新ルートの真下で飛行高度約350mの地点なんですが、部屋は18階なので航空機までの距離は300mも離れていない。窓を閉めていてもかなりの騒音です。新型コロナの影響でテレワークとなったせいで、南風時には毎日、轟音にさらされるようになりました」

◆新ルート直下にある不動産の資産価値が低下する懸念

 こうしたなか、懸念されているのが新ルート直下にある不動産の資産価値の低下だ。大井町駅近くにある不動産店主は言う。

「4月以降、新ルートによる騒音を理由とした退去が2件あった。いずれも飛行高度が300mになる大井町エリアに住んでいた、幼いお子さんを持つ家庭です。一方、同エリアで新たに部屋探しをする人も、騒音問題を気にして飛行時間帯に内見をしたいという人が増えています。実際に騒音を聞いて諦める夫婦もいました。周辺物件の資産価値の低下を示す客観的なデータは現状まだありませんが、マイナス要因であることは確か」

 物件のオーナーも資産低下リスクに気をもんでいる。渋谷区内のマンションを所有する男性は言う。

「新ルートに対して反対の声を上げようと住民に呼びかけたんです。しかし、管理組合の理事長からやめるよう圧力をかけられた。どうやら不動産業者から『マンションの資産価値が下がるから黙っておいて』と言われたらしい」

 騒音は不動産価格にどの程度の影響を与えるのか。マンションアナリストの武内修ニ氏は言う。

「不動産価格の変動はさまざまな要因があるので、単純計算はできません。例えば、’94年に民間企業が米連邦航空局に提出した報告書には、ロサンゼルス国際空港北部では騒音が1デシベル上がるにつれ不動産価格が1.33%下がるという分析結果があります。この数字を基にすれば、大井町駅周辺の不動産価格は27%程度下がることになる(20デシベル×1.33)。一方で、一部はすでに織り込み済みであることを示唆するデータもあります。品川区の中古マンションの相場は’16~’20年で約16%上昇していますが、新ルート直下のタワマン相場はほぼ横ばい。また、新ルートから150mの距離にある某タワマンは5%ほど値を下げています」

 騒音による影響はすでに出始めているようだが、前出の黒田氏は、他の問題点も指摘する。

「住宅街上空を頻繁に行き交うことで、氷塊や部品などの落下物による死傷事故リスクが大幅に上昇します。’14年8月25日に、羽田へ着陸前の航空機から氷塊が落ち、工場の屋根を突き破るという事故も起きています。住宅街なら死傷者が出るでしょう。また、通常は3度程度となっている着陸時の進入角度も、新ルート夏場では3.8度まで深くなる。羽田新ルートは世界の空港と比べても着陸が難しいことで有名です。さらに、航空機の離陸時の3分、着陸時の8分は『クリティカル11ミニッツ』と呼ばれ、天候やヒューマンエラー等の危険要素が増加し、事故が発生しやすい。新ルートでは離陸の3分間に川崎石油コンビナート上空を通過します。ここに高温の部品が落ちたり、万一、墜落機が突っ込むことがあれば大惨事です。過去、石油コンビナート火災が燃え尽きる前に人間の力で消火できた例はないと聞きます」

◆表向きは観光立国と東京五輪のため!?

 では、国交省はなぜこれほど問題の多い飛行ルートを採用したのだろうか。航空ジャーナリストの坪田敦史氏は話す。

「まず、安倍政権によるインバウンド政策や東京五輪開催に合わせ、国交省は首都圏の発着枠を増やしたかったわけです。それなら、キャパシティに余裕のある成田空港を増やせばいいのですが、世界の航空各社は都心へのアクセスがいい羽田に就航したい。そうした意向もくみ取る形で、海に面した空港でありながら、住宅街を飛行するルートを採用せざるを得なかったんでしょう」

 一方、大手紙の交通行政担当記者は、国交省に別の意図があるのではといぶかっている。

「国交省には、航空機の着陸料やジェット燃料の税金をプールした資金が空港整備特別会計という名目のもと、1兆円近く貯まっていた。’13年に自動車安全特別会計に統合されましたが、ゆくゆくは一般会計に繰り入れられるはず。航空官僚には、このカネが一般会計になって自由に使えなくなる前に羽田拡張に使ってしまおうという思惑があったのではないか。拡張は省益拡大や天下り先確保にも繋がるので、動機としては十分です」

 新ルートが決まった経緯にはさまざまな要因がありそうだが、住民から非難囂々となっていることについてどう考えているのか。国交省はこう回答を寄せた。

「新ルートはまだ固定化したわけではなく、今年度中に新ルートのメリット・デメリットを取りまとめ、検討を重ねていきたい」

 前出の黒田氏は言う。

「実は、羽田空港は夜間の23時~早朝6時に限って、千葉県の富津岬あたりから反時計回りに東京湾を回って着陸する飛行経路があるのです。これを昼間に改良して使用すれば、新ルートは必要なくなり騒音問題も解決できそうです」

 新ルートは果たして固定化するのか、行政訴訟や国交省の検討の行方を見守りたい。

◆米軍「横田空域」説は本当なのか?

 新ルートを巡っては、いわゆる「横田空域」が影響しているという説がある。首都圏に広がる同空域は横田基地や厚木基地に離着陸する米軍機を管制する米国管轄のエリアで、日本の航空機もむやみに進入できない。

「日米両政府は昨年、新ルートに絡み横田空域の東側を飛行する旅客機の管制を日本が担うことで合意しており、実際、中野上空で空域を通過しています」(前出の大手紙記者)

 一方、「横田空域説」に関して前出の黒田氏は「政府による目くらましでは」と語る。

「軍事機密の向こうで何を合意したか正確に検証する術はないですし、軍事面で言えば、それよりもオスプレイが配備されている自衛隊の木更津駐屯地や、習志野駐屯地上空の空域との兼ね合いのほうが、新ルートに余計に影響しているのでは」

 首都上空は誰のものなのか。

<取材・文/奥窪優木>

※週刊SPA!9月1日発売号より

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