「自分は無理しないし、相手にも無理をさせない」子育て中でも仲の良い夫婦がコミュニケーションで心がけていること

HARBOR BUSINESS Online / 2020年9月12日 8時32分

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 「産後クライシス」という言葉をご存知だろうか。妊娠中までは仲の良かった夫婦が、育児中に関係が悪化してしまう状態を指す。

 ベネッセ教育総合研究所の調査が、産後の夫婦が直面する厳しい現実を示している。妊娠中の夫婦はどちらも74.3%が「配偶者といると、本当に愛していると実感する」と回答しているが、第一子が1歳の時には夫が63.9%に対して妻は45.5%に低下。子どもが2歳の時に至っては、「夫を愛している」と答えた女性は34.0%にまで落ち込む。子どもが2歳になると、妻の約7割が夫に愛情を感じておらず、愛情レベルは妊娠時と比べてほぼ半減している。

 産後、女性の心身には大きな変化があり、ホルモンバランスの影響で気分が不安定になることがある。また核家族化が進み育児に関わる人が少ない現代では、子育ての負担は女性に偏りがちだ。こうした環境で夫が妻や家庭に関心を示さなかった場合、ベネッセ教育総合研究所の調査が表すように、妻の夫へ向ける愛情レベルは下がるのは当然だ。産後に夫が果たす役割はとても大きいと言える。

 しかし、全ての夫婦で産後クライシスが深刻化しているわけではない。育児中でも良好な夫婦関係をキープしている夫婦もいる。そうした夫婦は、産後のコミュニケーションにおいて、どのような点に気を付けていたのだろうか。

 子育て中にも仲の良い夫婦関係を築いている男性二人に、産後のコミュニケーションで心がけていたことを聞いた。

◆夜のミルクは夫婦で交代。寝不足による共倒れを避ける

 まずお話を伺ったのは、家事シェア研究家の三木智有さん。三木さんは夫婦関係に役立つアイデアを提案したり、夫婦間の家事シェアを推進したりする活動を行う「NPO法人Tadaima」の代表で、パパ目線で育児を楽しむnoteが人気だ。

 三木さんが大切にしたのは、「自分が無理をしない、相手にも無理をさせない関係づくり」だ。赤ちゃんはミルクを求め、夜中に何度も泣く。三木さんは「寝不足でイライラしてしまい、娘をかわいいと思ってあやすことができないことがありました」と振り返る。

「僕の場合、最初は夜中のミルクを夫婦一緒に担当していました。妻が授乳している間、僕も起きて妻の背中をさすっていたんです。

 でもそのやり方だと妻も僕も寝不足になります。お互いを思いやる心のゆとりはなくなりますし、子どもをかわいがったり、体調の変化に気づいたりする余裕もなくなる。この事態だけは、なんとしてでも避けなければならないと思いました」

 三木さんのお子さんは母乳と粉ミルクの両方を使っていたため、夜のミルクを夫婦で交代制に変えた。こうすることで、夫婦がともに寝不足で共倒れするリスクを減らすことができた。

◆子育てはチーム戦。自分が倒れれば、パートナーが困る

 夫婦ともに余裕がなくなれば、関係は自然とギクシャクしてしまう。その状態を防ぐためにも、三木さんは「自分を大切にする」ことの重要性を強調。

「自分が辛いと感じたら、パートナーに対してすぐにSOSを出す。反対にパートナーが辛いなら、自分にSOSを発してくれる。そんな関係が理想です。たとえば、『妻がこれだけ頑張っているのだから、自分は弱音を吐いてはいけない』と思って無理をしてしまうと、いつか参ってしまうかもしれません。子育てはチームワークなので、自分が倒れてしまうとパートナーは大きな打撃を受けてしまう。だからこそ、辛い時に『助けてほしい』『今自分は辛い』と伝え合うことが必要なのです」

 国立成育医療研究センターが今年8月に発表した調査では、「夫婦ともにメンタルヘルスの不調に陥ってしまうと、養育環境などが大きく損なわれる可能性があるため、子どもへの影響も懸念される」とある。

 夫婦共倒れを防ぐためにも、「自分が無理をしない」を前提としたコミュニケーションは大切だ。

◆分担をしっかりと決めないと、「いつの間にか自分の役割になっていた」状態になり不満が残る

 特に核家族の場合は、子どもに関わる人手が少ないため、家事と育児というボールを夫婦間で投げ合う状況が生まれやすい。解決策として三木さんは、夫婦以外の第三者の手を借りる選択をした。三木さん夫婦は、友人や知人が出産祝いで遊びに来てもらう代わりに、身の回りの手伝いをしてもらう「産褥(さんじょく)ヘルプ」を取り入れた。何かと気持ちに余裕をなくしがちな時期に、夫婦以外で家庭に関わってくれる人の存在は心強い。「産褥ヘルプ」は、産後ケアの普及を目指す「NPO法人マドレボニータ」が提唱した考え方だ。

 三木さんは「できれば妊娠中から産後の家事・育児タスクの洗い出しや分担プランを立てたいですね」と話す。

 育児がスタートすると、忙しさで夫婦の話し合いがしにくくなる。そのため、まだ気持ちにゆとりが持てる妊娠中から子ども誕生後の生活をイメージしておくことが大切だ。

「家事であれば、最低限どのレベルまでやれば夫婦で納得するかをすり合わせておきます。食器洗いを例に取ってみましょう。産前は食器の水気を拭き取って、食器棚に戻すところまでをしていたなら、水切りかごに食器を置くまででよしとする、といった感じです。産前と同レベルで家事をしようとすると負荷になるので、夫婦で話し合って良い形を見つけます。特に育児では哺乳瓶の消毒方法やミルクの担当など、細かなタスクが発生します。夫婦間でしっかりと決めましょう」

 分担の話し合いをしない、または初めからパートナーの協力を諦めて自分でやってしまうと、「いつの間にか、自分の役割になっていた」といった状態に陥ってしまう。保育園送迎が妻の役目になっていた、というケースがそれに当たる。

 この場合、夫婦間での合意がない状態で役割が決まっているので、負担をしている方は不満を抱きやすい。積もり積もった不満がその後爆発し、夫婦仲に亀裂を生じさせてしまいかねない。

◆お互いの仕事を尊重し、家事と育児の担当を柔軟に変える

 妻と3歳のお子さんを持つ武田さん(仮名、30代男性)も、「夫婦のどちらかに負荷がかかり続けるやり方は避けました」と話す。

 武田さんが心がけたのが、「状況に応じて役割を柔軟に変える」ことだった。

「我が家では基本的に保育園の送りは私、迎えは妻が担当しています。でも仕事の忙しさには波がありますし、頑張り時もあります。でも当初の役割にこだわってしまうと、仕事のチャンスを逃してしまうかもしれません。

 妻が挑戦したい仕事があって帰りが遅くなる時期には、私が迎えも行って妻が気持ちよく働けるようにしました。お互いの仕事を尊重しよう、というのが私たち夫婦のルールです」

 武田さんは他に、「定期的に一人になる時間を作りリフレッシュをしたり、家事や育児で負荷に感じていることを気軽に話し合う時間を持つようにしています」と話してくれた。

 冒頭で紹介したベネッセ教育総合研究所の調査では、子どもが生まれても「夫を愛している」と答えた女性の特徴も載っている。育児中でも夫に高い愛情を抱いている妻ほど、「夫は家族と一緒に過ごす時間を努力して作っている」や「夫は私の仕事、家事、子育てをよく労ってくれる」と感じている割合が高い。

◆気持ちのすれ違いを防ぐ「話し合いの習慣」

 三木さんと武田さんはともに、「思っていることを伝え合うこと」を重視している。家事や育児、仕事においての価値観の共有を習慣化し、夫婦のすれ違いを防いでいるのだ。

 6万人以上が利用するパートナーとの価値観共有アプリ「ふたり会議」を提供する株式会社すきだよ代表のあつたゆかさんは、夫婦間での話し合いの大切さについて、次のように語る。

「子育て中は仕事やプライベートで様々な調整ごとが発生します。たとえば、どのような保育園に通わせたいのか、義実家を頼りたいか、育休復帰後にはフルタイムで働きたいかなど、決めることがたくさんあります。そんな時、夫婦間で考えを共有できないと関係がうまくいかなくなってしまいます。当社提供のサービスをはじめ、夫婦の話し合いをサポートするツールを活用し、話し合いの習慣を身に着けていただきたいと思います」

 子育ては夫婦の人生にとって大きな変化をもたらす。また、子どもの体質や性格によっては、転居や転職を余儀なくされるケースもあり、夫婦だけの生活の時に持てていた心のゆとりをキープするのは難しいかもしれない。

 だがそれでも、子育てのチームとして夫婦が向き合い、「今どう思っているのか」「パートナーに何をしてほしいのか」「今後どうなっていきたいか」を話し合い続けることで、夫婦関係を破綻させるような気持ちのすれ違いを防げるのではないだろうか。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

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