注目されなくなった「大学入試のあり方に関する検討会議」。受験生のためにも注視していく必要

HARBOR BUSINESS Online / 2020年10月30日 8時32分

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(adobe stock)

◆第15回大学入試のあり方に関する検討会議が開かれていたが

 昨年の11月1日に大学入試における民間試験の利用が延期され、続いて12月17日には、共通テストでの数学・国語の記述式問題の出題が見直されることとなりました。これをうけて萩生田文部科学大臣の肝いりで、今年の1月「大学入試のあり方に関する検討会議」が開催されることになりました。ここでは、次の4つの項目について検討されます。

(1) 英語4 技能評価のあり方

(2) 記述式出題のあり方

(3) 経済的な状況や居住地域、障害の有無等にかかわらず、安心して試験を受けられる配慮

(4) その他大学入試の望ましいあり方

 さて、この会議も最初のうちは注目度が高かったのですが、外部有識者を招聘して意見を聞くあたり(第7回~第12回) から少しずつ傍聴者も減り関心が薄れていきます。その傍聴者の人数はおよそ、第7回:400人、第8回:300人、第9~11回:200人、第12回:170人、第13、14回:150人のように変化し、今回の第15 回では50人になりました。

 傍聴者の減少と比例するように、この会議の報道も減っていきますが、この会議の結果次第で将来の大学入試の方向が決まります。また、前回には有識者の意見をまとめ一定の提言に向けて動き出しましたので注視していく必要があります。

◆高大接続システム改革会議をもう一度やり直しているという声もあるが

 今回の第15回目の会議では、これまでの総括がなされ川嶋委員から詳細なまとめが提出されました。これは、文科省のホームページでも確認できます。

 これまでの議論が高大接続システム改革会議(2015年3月~2016年3月)(以下、高大接続会議)をなぞっているだけだと発言する委員もいました。確かに、高大接続会議に参加していなかった委員が多数ですので、議論が重複するのはある程度はやむを得ません。

 しかし、今回は「試験の公平・公正性」「試験実施団体との利益相反」などが強調されるなど前回よりも進化している部分もあります。

 また、「エビデンスに基づく」ことが至る所で強調されて実行可能性についても触れています。この実行可能性については前回も指摘した方はいましたが、反対意見はある段階でシャットアウトされるようになりました。今回はこれまでは会議の様子をすべて公開していますが、今後も公開され続けてもらいたいものです。

 一方、試験の公平性については、この会議でも重要性は認識しているものの、これが多くの人が見ることとなると感覚の違いが鮮明化してきます。この公平性を発端として、英語の民間試験の利用、数学・国語の記述式の導入が一端中止に追い込まれたわけですから、結論をいきなり発表するのではなく、あらかじめ何らかの基準を決めておき、それにそった決め方をする方がよいでしょう。

◆背後にある考え方

 今回は、「大学入試に求められる原則等」「大学入学者選抜を巡る諸課題の整理」「共通テストと個別選抜の役割分担、異なる選抜区分の意義と役割」について話し合われました。今、ここでテーマごとのコメントしませんが、全体として「今の形で大学入試を続けるのは苦しい」という考え方が委員の発言に透けて見えます。

 まず大学入試センターについては、大学入試センター(役職員125名)の負担が現状は重いとのことで、それは、科目数が多いこと(6教科30科目)、受検者が多いことなどが原因としてあります。

 さらに、令和2年の大学入試センターは全収入(125.6億円)の73%(95.9億円)が検定料でまかなわれているため、これから少子化の時代に入り検定料の増額が期待できないため運営が苦しく、これ以上負担は厳しいとのことです。

 一方、他の委員からは、大学入試問題を作成する人が少ないか足りない状況が続いていることが指摘されました。それは、私立大学だけでなく、中小の国立大学でもそのようなことはあり、私立大学に至っては、定員の厳格化のために何度も入試を行わざるを得ない大学もあるため、過去問の再利用を検討しているか、すでに他大学の過去問を使用していることを公言している大学もあります。

 

 「入試過去問題活用宣言」ホームページにあるように、もはや入試問題を作る気がないと思われる大学もあります。実際、私立大学の中には定員割れがひどく、何度も試験日を設定しなければならない大学もあり、しかも、定員厳格化(定員の1割より多くの合格者を出すと補助金を減額する処置)に苦しんでいる大学も多いので、形ばかりの入試をしなければならないことも過去問の再利用の要因です。このように、大学入試を行い続けることの困難さも考慮していかなければならないようです。

 なお、共通テストについても今の形で問題を作り続けることは厳しいようですが、共通テストの場合、センター試験の過去問を再利用するとなると少し別のことも考慮しなければなりません。それは、共通テストで過去問を使うと公言してしまうと、例えば数学であれば、ただ単にセンター試験の過去問の解答を何年分も丸暗記するような勉強法を誘発する可能性があるからです。したがって、共通テストの過去問利用については十分に熟慮してから決定すべきです。

 もちろん入試の実施の負担が危機的とまではいえない大学も多くあり、そのような大学では入試問題の作成に力を注ぎ、過去問の流用は考えていません。

◆萩生田大臣の発言内容は

 この会議において、萩生田大臣は大変に忙しい中参加されていますが、いつも途中で形式的な挨拶をされて退席されています。今回も途中退席し、その前に開始63分あたりから発言されていますが、今回はいつもより長目の発言で踏み込んだものでした。その内容を紹介しておきます。

(萩生田大臣)

「川嶋先生におかれましてはご多忙の中ペーパーを作成していただきありがとうございます。1点だけ反論というか意見を言わせてください。

 私が、記述式をやめようと思った最終的な判断は、受験生にとって自分の人生をかけた試験において、志望校の大学の先生にバツをつけられることには許容はあるのだけれど、民間企業の誰がつけたかわからない採点によって判断をされるのは納得がいかないのではないかと思いました。(このあたりから三島座長の顔が硬直する)

 したがって、記述式が大事だというのであれば、多少採点に時間がかかったとしても個別試験でやってもらえないかなというのが当時の考えでした。

 一方、現場の先生は多忙を極めていることや、設問を作り採点に携わることが大変だということも聞いていて、それはその通りなのだと思う。しかしながら、AP(入学者受け入れの方針)やDP(卒業認定・学位授与の方針)を各大学にお渡しして、それぞれの大学に合う学生さんを取ってくれという中で、私は入試はそれぞれの大学が大学の個性を目指す学生にわかりやすく示すいい機会ではないかと思っていまして、川嶋先生のような立場になるまでにそのようなことをやっていたのではないかと思っています。

 しかし、若い准教授の先生、講師の先生、もっと言えば研究室に残っている若い人達がそれをしなくなると、大学が忙しいんだ、自前の問題を作問するのは難しいんだということになってしまうとそういう経験を積む人達が大学人の中でいなくなるのではないかと心配に思いました。来年まで、まだ一年ある。それまで、(大学入試)問題を作ることが先生方にとって本当にものすごく負担なのか、もしそうであるならば、外注が本当によいのかを次回のときにでも教えていただきたい」(ここまで大臣の発言)

 

 私がいつも感じていることは、この会議には様々な有識者が招集されているというものの、一般の人から見るとほぼ同じ方向から光を当てているように見えるということです。これに対し、今回の大臣の発言はここにいる有識者にはない視点からのもので、このような発言ができる人を今からでもこの会議の中に入れてみると高校生、受験生に優しい制度ができるでしょう。

◆錯綜する情報とこの会議の役割

 10月21日のNHKの報道で「情報I」という科目を「情報」として共通テストの中に入れることについて「検討案をまとめた」というものがありました。この報道は、誤情報ではありませんが、誤解を与えやすいため、10月23日に、大学入試センターからは、「大学入学共通テストを共同で実施する大学関係者はもちろん、高校関係者に対しても情報提供を行い、ご意見を伺っているところです」といった「火消し」にも見える通達がありました。

 なお、今回の会議でも国立大学協会入試委員会委員長の岡正朗委員から、

「情報Iを共通テストの科目に入れることについては慎重にあるべき。理由は、現在の高校でどれだけ情報I をきちんと教えられる教員がいるのか、そして情報Iが入ることによる高校現場の負担増を見極めなければならない」

という趣旨の発言があったばかりですので、やはり「情報I」が入ることはほぼ確定された事項と考えるには、まだ早いかもしれません。結果的に令和7年の共通テストに「情報I」が入るかもしれませんが、まだ確定ではないということです。

 実のところ、令和7年の共通テストでは「情報」を入れること以外の改善点も考えられていますが、それらに関してはこの「大学入試のあり方に関する検討会議」の検討結果を踏まえて結論を出すとのことです。

◆この会議が重要であることを理解してほしい

 これまでの説明の通り、この「大学入試のあり方に関する検討会議」は、一定の重要な役割を担っていますが、第6回以降、長期欠席をしているか発言が全くない委員が一人います。(傍聴画面では欠席しているかどうかは確認できません。)

 委員を辞任しているという情報もありませんが、貢献していないのであれば別の有識者を入れるとよいかと思います。会議を通じて貢献できる方はたくさんいます。

<取材・文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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