やっぱり不可解なアベノマスク緊急随意契約。社長宅が競売にかかっていた零細企業が30億円以上受注の謎

HARBOR BUSINESS Online / 2020年11月5日 8時32分

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500億円以上の税金を投入して配られた「アベノマスク」

◆受注額4位に、ユースビオという聞きなれない会社名が

「官邸スタッフは『総理室の一部が突っ走った。あれは失敗』と振り返る」――新型コロナ対応民間臨時調査会(小林喜光委員長)が10月に刊行した「調査・検証報告書」の一節だ。

「政府の国民への最初の支援が布マスク2枚、といった印象を国民に与えた。政策コミュニケーションとしては問題の多い施策だった」

 コロナウイルス感染防止を目的に布製マスクの全戸配布を試みた、いわゆるアベノマスクの政策について、報告書は厳しい評価を下している。

 厚生労働省マスク班によれば、アベノマスク事業に費やした公金は、全戸配布分が約260億円(予算約466億円)、介護施設用約247億円(同504億円)にのぼる。締めて500億円を超す。

 配布されたマスクはすべて中国やベトナムからの輸入品で、調達については11業者が計318億円で受注している。10億円以上の契約をした業者は4社。

 興和140億円、マツオカコーポレーション63.8億円、伊藤忠商事52億円、そしてユースビオが31.8億円。ユースビオの契約高は、親族会社シマトレーディングと分業で調達した契約があり、これを加えると約34億円である。

◆不透明なユースビオ「緊急随意契約」の経緯

 ユースビオという会社名が厚労省によって公表されたのは4月27日のことだった。福島みずほ参議院議員が4月10日に質問してから半月以上も経っていた。

 この会社、ホームページはおろか電話番号案内の届けすらない。会社謄本によれば、設立は2017年、資本金1000万円で役員は樋山茂社長ひとり。福島市の住所地を探すと、プレハブづくりの小さな事務所に行き着いたが、そこに看板はなかった。郵便受けにも社名はない。

 謄本の会社設立目的をみても、マスクとは関係のなさそうなものばかりだ。「再生可能エネルギー生産システムの研究開発及び販売」「バイオガス発酵システムの研究開発及び販売」「発電及び売電に関する事業」。仕事の実態は不明、政府や地方自治体の契約をした実績もない。

 この一見して実態のわからない会社が、どうやって30億円以上の大型契約を国との間で交わしたのか。誰しも気になるだろう。

 なお、契約は「緊急随意契約」で行われた。入札が不要で、かつ通常の随意契約に求められる財務大臣の審査も不要という会計法の特例である。

 契約に至った事情について樋山社長は今年4月の『バズフィードニュース』のインタビューで、「山形県職員につないでもらった」という趣旨の説明をしている。しかし筆者が山形県に取材すると、職員は「つないでいない」と否定した。一方、国会では加藤勝信厚労大臣がこう答弁している。

「経産省が主体となって広く声がけをした。それに応えていただいた事業者の一社だ」

 ところが、これも経産省に取材すると「ユースビオに同省から声をかけたことはない。ユースビオのほうから聞きつけて接近してきた」と回答した。何が本当なのかはわからない。

◆ユースビオ社長宅は債務不履行で競売にかけられていた

 前置きが長くなったが、ここからが本稿の主題である。

 ユースビオの周辺を引き続き調べていたところ、興味深い事実が発覚した。同社が国とマスクの契約を締結した今年3月〜4月当時、福島市にある樋山社長の自宅が、債務不履行を理由に金融機関2社によって競売にかけられていたのだ。

 以下は、登記簿謄本や訴訟記録からわかる経緯だ。

 樋山茂氏と妻が役員をする株式会社樋山ユースポット社という会社がある。所在地はユースビオと同じ福島市のプレハブ事務所だ。この樋山ユースポット社は2015年9月11日、日本政策金融公庫から4000万円の借り入れを行った。返済は毎月約50万円の80回、6年8か月で完済する条件だった。担保はなく、樋山氏が連帯保証人となった。

 ところが1年後、ユースポット社は返済に行き詰まる。なぜ払えなくなったのか、記録を見る限り事情はわからない。事業が失敗したのかもしれない。

 樋山氏は債権者と交渉したとみられ、2年間にわたって元本返済が猶予されている。だが、猶予措置が終わった2018年8月、ついに期限の利益の喪失を宣告される。期限の利益とは分割払いを認める特約である。これを失うとは、残債務の一括弁済を求められることを意味する。

 借り入れから3年後の2018年10月18日、日本政策金融公庫は、樋山ユースポット社と樋山茂氏を相手どり、元本の残額約3600万円と損害金(年14.5%)の支払いを求める訴訟を郡山簡易裁判所に起こす。これに対して被告の樋山氏側は答弁書を出さず、口頭弁論期日にも出頭しないという態度で応じた。結果、債権者の主張どおりの判決が下され、確定する。

 判決確定に続く2019年1月、日本政策金融公庫は、福島市内にある樋山茂氏名義の自宅(固定資産評価額は約500万円)に対して、強制競売の申し立てを福島地裁に行った。強制競売とは、債務者に差し押さえるべき財産が不動産以外にない場合に行う手続きである。申し立てを受けて、同地裁は同年2月11日、競売開始決定を出す。

 ところが、この競売手続きが突如中止になる。競売開始決定の4日前にあたる2月7日、樋山氏は競売対象の自宅を妻に譲渡し、名義変更してしまったからだ。

 困った日本政策金融公庫は同年3月6日、譲渡は「詐害行為」にあたり無効だとして、妻を被告とする訴訟を福島地裁に起こす。妻もまた裁判に出頭せず、敗訴が確定する。この訴訟手続きのなかで、妻は、書記官の問い合わせにこんな回答している。

「経済的余裕がなく、弁護士に依頼することができません。従って反論することを諦めます」(2019年5月10日付ファクス)

 こうしたいきさつを経て、2019年12月、あらためて強制競売が開始される。並行して、自宅を担保に借り入れをしていた銀行の債務も不履行となり、保証会社からも競売を申し立てられている。

◆資金繰りの悪い零細企業が、なぜ国と契約できたのか

 国とのマスク契約は、競売開始決定から3か月後のことだった。深刻な資金難に陥っていたはずの樋山氏は、マスク契約後は急速に立ち直っている。

 債権者と話がついたとみられ、2020年4月24日付で、自宅はユースポットに任意売却された。4月27日付の登記で競売の記載はすべて抹消された。ユースビオの本社をプレハブ事務所から自宅に移転する。

 マスクの支払いで負債を清算したものだろう。文字どおりの「V字回復」である。社長宅が競売にかかるほど資金繰りの悪い零細企業が、なぜ国と契約できたのか。ますます解せない。この点を厚労省マスク班に尋ねた。

――社長の自宅が競売中だった。この事実を知っていたのか。

「承知していない。結果的にマスクが納入されたので問題はない」

――今後調べる用意はあるのか。

「わからない」

「競売の件は知らなかった。知る必要もない」といった口ぶりだ。だが、知らなかったとは思えない。たとえば、政府が「ユースビオ」という社名を開示したのは4月27日だが、この日は樋山社長の自宅競売取り下げの登記がなされた当日だった。はたして偶然だろうか。

◆「政府が『マスク調達能力あり』と判断した」とユースビオ代理人

 樋山社長に取材を申し込んだところ、「代理人弁護士に聞いてほしい」とのことだった。そこでユースビオ代理人である佐川明生弁護士に質問した。以下は佐川弁護士とのやり取りである。

――日本政府と契約をかわす際、代表者の自宅が強制競売中である事実を説明しましたか。

「必要がないため、そのような説明はしていません」

――代表者の自宅が強制競売にかかっているにもかかわらず、日本政府と契約を結ぶことができたのはなぜだとお考えですか。

「代表者の個人資産が競売になっていることと、会社としてのマスク調達能力とが関係するものとは考えておりません。政府が会社に『マスク調達能力あり』と判断したために、契約に至ったと考えております。なお,実際に依頼を受けたマスクについては、すべてを完納しております」

――競売取り下げになったのは債権者への弁済を完了したためですか。仮にそうである場合、支払い名義人はユースビオ社、樋山氏個人名義のいずれですか。

「当方としても回答すべきと考えている政府との契約に関する事項とは関係ないものですので、お答えは差し控えさせていただきます」

 社長の自宅が競売にかかっている会社を、どうして「マスク調達能力あり」と政府に判断させたのか。ユースビオに信用をつけた人物がいるのだろうか。疑問は深まる。

◆マスク調達の利益は10億円以上!?

 アベノマスクに関連する契約書を情報公開請求したところ、単価や枚数が黒塗りで「開示」された。筆者は驚いた。というのも、じつはユースビオの契約内容は、すでに一部が国会議員に開示されていたからだ。

 同社が2020年3月に交わした契約で、材料調達費として1枚55円とある。輸入業務は親族会社シマトレーディング社の契約で、1枚あたり80円。あわせて135円。なぜ、これを隠す必要があるのか。首をひねりたくなる。

 ともあれ、1枚135円という金額をどうみるべきか思案していたところ、筆者のもとに関係者とみられる匿名人物から情報提供があった。

「ベトナムでの単価は30〜40円程度。日本への輸送賃を含めて1枚80円前後で契約した」

 そういった内容だ。事実なら、135円のうち50円前後が利益になった可能性がある。ユースビオとシマトレーディングについてみれば、34億円の半分弱、10億円以上だ。うまみのある商売のようにみえてくる。

 マスクの闇はまだ深そうだ。今後も取材を続けていきたい。

<文・写真/三宅勝久>

【三宅勝久】

みやけかつひさ● ジャーナリスト、ブログ「スギナミジャーナル」主宰。1965年岡山県生まれ。フリーカメラマンとして中南米、アフリカの紛争地を取材。『山陽新聞』記者を経て現在フリージャーナリスト。著書に『「大東建託」商法の研究』(同時代社)など

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