スペインの王女2人、庶民を飛び越し自分らだけアブダビでワクチン接種して炎上
HARBOR BUSINESS Online / 2021年3月8日 18時31分

フアン・カルロス一世の長女のエレナ王女(写真中央)と、クリスティーナ王女(左) Getty images
◆王女2人の「上級国民」ぶりにスペイン国民も激怒
スペイン国王フェリペ6世(53)の姉二人エレナ王女(57)とクリスチーナ王女(55)が父親ファン・カルロス1世前国王(83)が長期滞在しているアラブ首長国連邦のアブダビを訪ねたのを利用してワクチンの接種を受けたことがスペインで大々的なスキャンダルになっている。
これを最初に特ダネとして報じたのは電子紙『El confidencial』(3月2日19時47分)であった。
それに他紙がすぐに追随して各紙がそれを報じた。筆者はスペインのすべての紙面に目を通すことはできなかったが、恐らくスペインのすべての紙面、テレビ、ラジオがそれを大なり小なり取り上げたと思う。同様にアルゼンチンやメキシコでも注目を集めた報道になっていた。スペインの紙面で共通しているのは、王女という特権を利用した接種を批判していることであった。
それはまた、ファン・カルロス前国王の最初は愛人そして次に隠し金のスキャンダルが今もスペインで止むことなく続いているのに加え、今回の前国王の二人の娘が撒いたスキャンダルはスペインで共和制の擁立への新たな動機を生む機会をつくっていることを意味している。
今回の出来事を報道した紙面の一部は、二人に同行して治安警察から護衛が計6人同行しての移動費用で3万3000ユーロ(400万円)が内務省の負担になっていると報じ、それは国民の税金から払われたものだと指摘した。市民では得ることのできない特権を利用した上に、市民が納めた税金がその費用に充てられたということになれば彼らの多くは王家への支持から離れて行くのは必至である。〈参照:「El Diario」〉
◆閣僚からも飛び出る王家への批判
また、社会労働党とポデーモスの連立政権内でもこの事件について多くの閣僚が不満を表明している。ただ、サンチェス首相は前国王のこれまでの振る舞いに控えめながら批判はしても、フェリペ6世の王位は守るという姿勢を示している。なにしろ、王制を守るというのは、共和制を支持すべきが本来のイデオロギーである社会労働党が民主化されて以降掲げていた党約である。ただ、そうは言っても同党出身の自治相ミケル・イセタは「ひどい」「非常に悪い」という言葉を吐いて不満を表明している。今まで、閣僚が王家を指してこのような言葉を表明することはなかった。これも時代の変化であろう。他の閣僚も王女が特権を利用しての行為に批判的な発言をしている。
特に第2副首相でポデーモスの党首パブロ・イグレシアスは「スペインの社会は王家のメンバーがアブダビでコロナのワクチン接種を受けたことを受け入れない。王家の存在意義について問われている時に、王家自らが社会で王家に対して憤慨をもたらすような新たなスキャンダルをつくってしまったことでその問いがさらに発展して行くことになる」と述べたのである。 ポデーモスは共和制擁立の急先鋒にある政党だ。
◆姉のエレナは声明を発表するも……
スペインで彼女ら二人に対して強い批判が生まれていることを前にして、二人を代表して姉のエレナが次のような声明を発表した。
「私たちは父親を訪問しに行きました。医療パスポートを取得すればいつでも訪問できると言われてワクチンの接種を提案されたので、受け入れました」
「このような状況でない場合は、スペインで私たちの順番になった時に受けていました」
この声明文は今回のスキャンダルを報じた全ての紙面で掲載されたが、なんの弁解にもなっておらず、火に油を注いだ形だ。
なにしろ、コロナ禍で封鎖下にあって多くの市民が自分たちの両親でさえも訪問できない状態にある中で、内務省の負担でアブダビまで父親を訪問したという特権。そして、いつもは長女だけが訪問していたのに今回はなぜか妹のクリスチナも同伴したことも国民の怒りを買っているのだ
◆欧米富裕層をターゲットにしたワクチンビジネス
その一方で、アラブ首長国連邦ではワクチン接種をビジネスにしているというのが英国でエリート層を対象にしたナイトブリッジ・サークルが2万9000ユーロ(350万円)で中国のシノファンのワクチンの接種を斡旋しているビジネスがあるほどだ。ところが、現時点ではこの旅行斡旋は申込者多数で中断されているという。〈参照:「El Diario」〉
アブダビに入国するにはPCRテストで十分だというのは現地の病院で勤務しているスペイン人があるテレビ番組で表明した。また、この特ダネを報じた『El Confidencial』が後日ナイトブリッジ・サークルに相当するような旅行社でそれにチャレンジしようとしたができなかったと記事にしている。アラブ首長国連邦では政府がワクチンをコントロールしているということだ。
ということで、王女二人がアブダビでワクチン接種が可能となったのも前国王の娘だという特権を利用したように思われる。ちなみに、父親であるファン・カルロス1世も、同じくアブダビでワクチン接種を受けていた。
◆スペイン国民の怒り、収まらず
スペインの国民からすれば、王家のメンバーであるのであれば国民の前に道義的にも模範を示す意味でスペインの保健省で規定されているワクチンの順番を待つべきであった。
因みに、彼女二人がスペインでワクチンの接種を受けるとなると二人は50歳台ということでグループ3Bに属すことになる。彼女らの前にグループ5A(80歳以上)、グループ5B(70歳以上)、グループ5C(60歳以上)とあり、彼女らの順番が来るまでまだ最短でも2-3か月は待たなければならなかったであろう。それを飛び越えてアブダビで護衛まで連れてワクチン接種に出かけたのである。この行為にスペインの国民が憤慨するのは当然のことである。
◆再燃する共和制擁立の声
電子紙『El Diario.es』の創設者で発行責任者でもあるナチョ・エスコラルは「共和制の擁立の動機づけが外部から起きているのではなく、王家のメンバー自身がそれを誘っている」とテレビ6チャンネルのインタビューの中で指摘した。
現状では共和制の擁立にすぐに結びつくような状況にはない。しかし、前国王そして二人の王女のスキャンダルと重なってしまい、特に年代の若い層では王家の存在に強い疑問を持つようになって来るということである。そして彼らが成長して中年層に達してスペイン政治の決定の中心を占めるようにになって来ると王家の存続への疑問が真剣に問われるようになる可能性は十分にある。即ち、それはフェリペ6世の治世中かあるいは長女レオノールが王位を就こうとする時であろう。
フェリペ6世のサルスエラ王宮は国王(53)も王妃(48)そして二人の王女はワクチン接種の順番を尊重すると表明して姉二人の行動とは距離を置く姿勢を維持している。
<文/白石和幸>
【白石和幸】
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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