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ミャンマー軍のクーデター発生から2か月。日本政府の「様子見外交」は負しか生まない

HARBOR BUSINESS Online / 2021年3月24日 8時32分

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(Photo by Ceng Shou Yi/NurPhoto via Getty Images)

 ミャンマー国軍が2月1日に権力を掌握して2か月近く経つ。クーデター発生当初から、日本政府は「重大な懸念」を表明。ミャンマー国軍(タッマドゥ)に「民主的な政治体制の早期回復」を呼びかけ、恣意的に拘禁されている国民民主同盟(NLD)の指導者アウンサンスーチー氏ほか全員の釈放を求めた。また、「民間人に対する暴力」を「強く」非難しつつ、治安部隊によって殺害された抗議者たちへの哀悼の意も表している。

◆死者が増えるなか、2か月も「様子見」

 こうしたオープンで明確な声明は重要だ。しかし、ほかの民主主義国家がとった具体的な行動と比較したき、日本はいまだに全力を尽くしていないことは明らかである。(参照:外務大臣談話、外務報道官談話)

 2か月近く、「様子見」外交に終始しているといえるだろう。いっぽう、毎日と言っていいほどデモ参加者の死者数などが増え続けるなか、日本政府には早急な対応が求められている。

 ミャンマーの新生民主主義に対する危急を前に、日本は国軍に圧力をかけ、文民統治による民主主義の回復を支援するために有効なツールをフル活用すべきだ。受け身の外交は、罰を受けることなく重大な人権侵害を犯し続けているミャンマー軍をつけ上がらせることになってしまう。

 また、このようなアプローチは、外交政策の一環として民主的価値を提言してゆくという日本の公約に背くものでもある。

 各国の対応は鮮明だ。ニュージーランド政府は、ミャンマー国軍が11月の国政選挙の結果を無効にし、一年間の「非常事態」を宣言した約一週間後、ミャンマーとの高官レベルの接触を停止し、軍指導者には渡航禁止措置を発動。ジャシンダ・アーダーン首相は、「ミャンマーへのいかなる開発援助も軍事政権を支援するものではない」ことを保障すると述べた。

◆各国政府やEUは厳しい対応

その数日後、米政府はミャンマー軍の指導者や軍系企業への対象限定型経済制裁を発動し、3月に更なる措置を科した。

また英国およびカナダ政府も、軍高官への制裁措置を発表。オーストラリア政府は、防衛上の協力関係を一時停止し、ロヒンギャ難民を含む「最も差し迫った人道的かつ新たなニーズ」のため、NGOの支援に切り替えた。

 EUに加盟する27か国の外相も、クーデターの指導者と、場合によっては軍系企業も含めて制裁を科すことで2月に合意している。また、3月に韓国政府は、防衛および安全保障上の協力関係を一時停止し、世界的な武器禁輸措置に加わったうえで、ミャンマーへの開発援助計画の見直しを開始した。

 一方、日本政府はどうだろうか。いまだに、ミャンマーへの政府開発援助(ODA)を今後どうするかを含め、公に行動を示していない。過去何十年にもわたり、日本はミャンマーの主要な開発支援国として、一兆円超の有償資金協力、3000億円超の無償資金協力、980億円超の技術協力を供与してきた(2017年時点)。(参照:外務省)

 茂木敏充外相は、「援助を継続するか制裁を科すかという単純な状況ではない」と述べ、日本は「様々な要素」を考慮し「決定を下す」として、政府のアプローチを擁護している。

◆日本政府が口をつぐむ「ロヒンギャ」

 日本政府がこれまでに取った数少ない行動は不十分であり、一部は逆効果でさえあった。政府は今月予定されていたODAの新規案件承認を見送ったにもかかわらず、公式な声明は出さないことにしたと、「朝日新聞」は報じている。外務省はヒューマン・ライツ・ウォッチの問い合わせに対して、報道を否定。(参照:朝日新聞デジタル)

 さらに、丸山市郎駐ミャンマー大使は、ミャンマー軍が民主的なプロセスを踏まえず一方的に外務大臣と指名したワナ・マウン・ルウィン氏と会談し、抗議者に対する暴力の行使を非難した。(参照:在ミャンマー日本国大使館)

 しかし、在ミャンマー日本大使館が同氏を「外相」と呼称したことにより、公的に認めたとして批判を受けた。茂木敏充外相も同様に、同氏を「ミャンマーの新しい外務大臣」と呼んでいたが、その後「当局に指名されている外相と言われる人」と肩書を修正している。(参照:外務省、時事ドットコムニュース)

 日本政府の迷走は今に始まったことではない。

 2017年に国軍が大量殺害、レイプ、大規模な放火を犯し、70万人超のロヒンギャ・ムスリムが隣国バングラデシュへの脱出を余儀なくされた際、日本はミャンマー政府に対する公かつ明確な非難を差し控えた。

 以後、ミャンマーに関する国連決議案をすべて棄権し、「ロヒンギャ」という呼称の使用も拒否。紛争で荒廃したラカイン州に残ったロヒンギャの人びとが、アパルトヘイト(人種隔離政策)という人道に対する罪に耐えるなか、同地方への投資を日本の民間企業らに奨励もした。

 また、丸山大使は、国際司法裁判所(ICJ)がミャンマーに不利のないように、ロヒンギャ・ムスリムに対するジェノサイドはなかったという判決を下すことを「祈った」こともある。

◆独自外交路線は不発に

 日本政府が、ミャンマーを含む東南アジア全域に対して、受け身外交に終始する主な動機は、増大する中国の影響力への懸念にある。

 日本政府は、ミャンマーを批判すれば中国に傾くと確信している。この点を考慮すれば、日本政府がなぜロヒンギャ難民問題を縮小化してきたのか、またなぜ今回のクーデターが落ち着くのをのらりくらりと待っているのか、説明がつく。

 同時に、日本政府にパイプを持つ関係者はとにかくミャンマー軍の気を引いたり庇ったりと必死だ。たとえば、クーデターの数日前に、元政治家で日本ミャンマー協会会長の渡邊秀央氏は、国軍司令官ミン・アウン・フライン将軍と会談。皮肉にも会合では、日本の自衛隊とミャンマー国軍の「関係促進」について話し合った。

 また、日本財団の笹川陽平会長は、各国がミャンマーに「早急な経済制裁を実施しないことを願うばかり」と自身のブログで語っている。制裁によって、「中国の影響力が増大」するらしい。(参照:笹川陽平ブログ)

 繰り返しになるが、日本政府は、クーデター後にミャンマー国軍に対する批判を強めた。しかし、それがほかの民主主義国家の動きにはるか及ばないものであることは明らかだ。「国軍とミャンマー政府へのパイプ」を活用した独自外交路線をアピールしているものの、具体的な成果を上げられず、むしろ現地の状況は日々悪化している。

 また、日本政府は中国政府の影響力を分析する過程で、ミャンマーで募る中国政府に対する不信感を縮小化してしまっている。批判すれば中国政府に寄ってしまう、という単純な状況ではない。

 日本政府はさらに死者が増える前に、人道支援以外のミャンマーに対する支援をすべて即時停止、ミャンマー治安部隊に対する世界的な武器禁輸措置を支持、ならびに軍事指導者らと軍系企業に対象を絞った経済制裁措置を各国政府と調整したうえで実施するべきだ。

<取材・文/笠井哲平>

【笠井哲平】

かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている

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