次世代高速通信サービス“LTE”本格化 -- 識者に聞く携帯キャリア競争のいま【インターネットコム】

インフォシーク / 2012年10月11日 23時51分

野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 上席コンサルタントの北 俊一氏

iPhone 5 の発売と共に、ソフトバンクモバイル、KDDI の両社が相次いでサービスを開始した次世代高速通信サービス「LTE」。LTE (Long Term Evolution)とは、従来の 3G 規格のデータ通信を高速した規格で、家庭用固定ブロードバンド回線に匹敵するほどの高速大容量通信が可能な点が最大の特長だ。

この秋からは、既に2010年12月にサービスを開始している NTTドコモの LTE 通信サービス「Xi(クロッシィ)」と合わせて、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、イー・モバイルの4社すべてが LTE サービスを提供することになり、携帯電話会社のシェア争い、サービス品質競争の舞台は、今後 LTE にシフトしていくことは間違いない。そこで、携帯電話業界をめぐる現在の状況と各社の今後の動向をどのように見ているのか、野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 上席コンサルタントの北 俊一氏に、見解を伺った。

● LTE 競争 数字だけが“独り歩き”する状況は、好ましくない

北氏の話の中で特に印象に残ったのが、加熱する各社の“基地局数争い”についてだ。ソフトバンクモバイルは、イー・モバイルの買収と同社の基地局設置を進めることによって、来春までに LTE 基地局を3万局に広げることを明言しているが、北氏はこのような数字だけをアピールの材料にすることに対して疑問を投げかける。「都市部や郊外など、どこで、どのようにネットワーク設計をすることでユーザーに快適な通信環境を提供するのかが重要だ。数字だけでなく、通信環境の実態をもって自社の取り組みを明らかにしてほしい。競争すべきは“量”ではなく“質”だ」(北氏)。

基地局の設置方法に関して、やみくもに設置数を増やしても意味はなく、広域に電波を飛ばす“マクロセル”と都市部の人口密集地で狭い範囲に電波を飛ばす“マイクロセル”“ピコセル”の組み合わせとその緻密さが求められ、基地局間の干渉を抑えるための設置場所・設置方法のノウハウや、複数の周波数を組み合わせて通信品質を向上させるマルチバンド運用の能力も重要な要素だ。「基地局の設置方法やその後の調整など、通信環境をチューニングするノウハウが通信のパフォーマンスとユーザーメリットに直結する。」(北氏)。

また冒頭で触れたソフトバンクのイー・モバイル買収に関して、インフラの強化に繋がるのかという質問に対し、北氏は「ソフトバンクはマルチバンドの運用は初めて。これは大変なノウハウが必要。当面は試行錯誤が続くだろう」との見解を示した。

つまり、基地局数など数字だけで通信品質の実態を評価することは不可能であり、数字には表れない各社の通信環境の特性やポリシー、通信品質向上のためのチューニング力、それによりユーザーが実感できる通信の“繋がりやすさ”や“快適性”が本来評価されるべきなのである。「ソフトバンクモバイルは、他社にはない独自の視点で将来を見通した戦略を取り、ブランドイメージを伝えるノウハウも優れている。一方、NTTドコモと KDDI は伝統的に通信ネットワークの重要性を理解し、開発投資を続けてきた背景がある。両社は以前から緻密なネットワークを構築してきており、ことネットワークに関しては一日の長があるといえる。しかしその点はあまりアピールできていない。過小評価されてしまっており、もっと実態が明らかになるべきではないか」(北氏)。

● LTE だけでない 今後問われる“通信会社の総合力”

そして、北氏は「LTE が整備されても、スマートフォンユーザーが増え続けてネットワークアクセスや通信量が増えれば、間違いなく電波はひっ迫状態になる」とした上で、問われるのは通信会社の“総合力”であるという認識を示した。

つまり、LTE でカバーできない通信は 3G 回線で補うことになり、従来各社が推進してきた 3G の品質が問われることになるほか、トラフィックのオフロード手段として公衆無線 LAN (Wi-Fi)の活用も重要になってくる。ただ、その点でも表面上の数字だけで各社の実力を評価することは難しいという。「3G に関してはドコモ、KDDI と、プラチナバンドの整備を始めたばかりのソフトバンクとの品質の差は、特に都心部においてはまだある。また、Wi-Fi に関しては、すべてではなく主な手法として採用しているバックボーンとなる通信回線を比較すると、ドコモは光回線、KDDI は WiMAX、ソフトバンクは 3G 回線を中心に採用。各社異なる手法を取り、Wi-Fi の通信品質に大きな差が生まれている。また、今後主流となる 5GHz での Wi-Fi 環境の整備にもばらつきがある」(北氏)。

ちなみに北氏は、今後スマートフォンによる大容量通信が急増することに対して、「ユーザー自身の配慮や公共マナーも重要になる」とも語る。つまり、どれだけ高速通信に対応した基地局を増やしても、そこでアクセスする人や通信量が増え続ければ、電波のひっ迫状態はいつまでも解消することはない。そこで、混雑する場所などで、一人一人のユーザーがネットワーク負荷を掛けないよう利用するなどの配慮が求められ、また政策的には通信量の制限を掛けることも必要になってくるという。「通信技術がどれだけ進化しても、ユーザーとトラヒックが増え続ければ、結局限られたネットワークリソースの奪い合いになる。ネットワークは有限であると理解した上でユーザー自身も配慮が必要だ」(北氏)。

● ドコモ、KDDI、ソフトバンクの今後に期待すること

最後に、北氏に NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社の今後に期待することを聞いた。

ドコモについて北氏は、「iPhone の影に隠れてしまっているが、従前から通信環境の整備に力を入れてきた。また、ネットワークの基礎研究では世界をリードしており、LTE の更に先の研究も進めている。技術面で業界の先頭を走り続けて欲しい」とした上で、過去2回発生している大規模通信障害に触れ、「2度の通信障害は気を引き締めるきっかけになったはずだ。もう2度と発生させてはならないし、もう1度発生させてしまうと致命的な状況になりかねない」と釘を刺した。

次に、KDDI については、「トラディショナルな通信会社として、追いかけるべきは(iPhone で競合する)ソフトバンクではなく、ドコモではないか」とした上で、iPhone、Android、Windows Phone と幅広いラインナップで“選べる自由”を提供している同社にとって、フィーチャーフォン時代から培ってきた電波環境のチューニングやマルチバンド運用のノウハウが活きてくるとした。「ユーザーエクスペリエンスを重視した通信環境の整備を追求し、少なくとも、 “実力以下”に見られないようにしてほしい」(北氏)。

ソフトバンクについては、「数字をアピールするならば、その内訳を示すことで実態を詳らかにしてほしい」と注文を付けた一方で、ネットワークに対する設備投資に本腰を入れたことを評価。ドコモ、KDDI のような「トラディショナルな通信会社」に近づいているという認識を示した。その上で、「ドコモ、KDDI と同じことをするのではなく、常にチャレンジする存在であってほしい」と語った。

北氏の話を聞いて感じたのは、通信会社を選択するユーザーにとって重要なのは、表面的に見える数字やアピールではなく、各社が提供するサービスの本質的な価値(=通信品質)や提供する通信環境の特性、現在まで行ってきた取り組み(研究開発や通信環境のチューニングなど)の積み重ねが、ユーザー自身のモバイルライフにとって有益なものとなるか否かということだ。3社いずれもLTE を提供するという点では共通でも、質的には異なる部分が多く、その違いを知ることが私たち自身の利用満足度にとって重要なことになるのだ。LTE のサービスはまだ始まったばかりだ。今後更に明らかになってくる各社の実態や比較した際の差異に注目していきたい。

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