リアル・マイケルジャクソン [Vol.75]_2000年inモナコ_最高の賛辞。 ~おっかけOL3人組とマイケルの交流実話~
インフォシーク / 2014年2月27日 17時30分
モナコ最後の夜、わたしたち3人は、ホテルド・パリのロビーにいた。周囲には、大勢のマイケルファンが、同じく名残惜しげにソファに座っている。わずか5日間(実質3日)のマイケル滞在ではあったものの、その中身のなんと濃かったことか!スイートルームでのファンとの対面や、主役で大トリを務めた授賞式、ファンを引き連れてのショッピング。ヨーロッパということで、何も期待をせずに飛んで来たのに、終わってみれば今までで一、二番に心に残る旅ではないか。
明日、マイケルはモナコを発つ。何人もの関係者やファンが、「マイケルの次の行先はロンドンだ」と話しており、一部のファンは、引き続き追いかけるようだ。そう、ヨーロッパのファンにとって、追っかけの旅はまさに「エンドレス」だ!マイケルは、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、イギリスなどを頻繁に訪れるため、一度追っかけをスタートしたら、陸続きなだけに、どこまでもついていきたくなってしまう。その点では、日本に住むわたしたちは、逆に気楽でいいのかもしれない。ヨーロッパは距離的にも気分的にも「アウェイ」なだけに、ひとつの旅に区切りをつけやすいからだ。
夜も更け、さすがにもうマイケルが出かけることはなさそうだ。そろそろ部屋に戻ろうかと迷っていると、ロビーにセキュリティのアティーラが現れた。ファンの視線が一斉にアティーラに集まる!ウェインがロンドンに先乗りして居ないいま、マイケルの側近はアティーラとスキッパーだ。もしかして、マイケルがどこかに出かけるのだろうか?それとも関係者の誰かを探しているのだろうか?
なんとなく目で追っていると、アティーラはこちらに向かって手をあげ、真っ直ぐわたしたちの元に歩いてきた。そして、ソファに座るわたしたちの前に片膝をついてしゃがみ込むと、「やあ、君たち」と笑顔で話しかけてきたのだ!
「ザ・ボディーガード」であり、セキュリティの鑑である彼は、ファンと親しく話すことは殆どなく、ここ数年は、わたしたちとも挨拶を交わす程度だった。それだけに、アティーラが話しかけてくれたことに、わたしたちは驚き、そして嬉しかった。以前、いっしょに食事をしたことで、アティーラが実は御茶目でユーモアに溢れた人柄だということがわかっていたからだ。
わたしたちは、「ハーイ!」と笑顔で挨拶を返した。そして、改めて目の前のアティーラを見ると、右の拳に怪我をしていた。赤黒く腫れて、見るからに痛そうだ!どうしたのか聞くと、昼にマイケルが出かけたときに、一部の暴走するファンを止めようとして怪我をしたとのことだった。スキッパーの疲れ切った様子に、アティーラの怪我。マイケルを守るという仕事は、本当に体力気力を消耗するし、危険だって伴うのだ。
アティーラは、「さっきはありがとう」と、ショッピングセンターでの出来事に触れた。わたしたちが、プリンスやパリスをあやしたり、ファンのプレゼントを運んだことに対してお礼を言ってくれたのだ。そして、わたしたちを見回すと、「ところで、君たちの次のスケジュールは?」と聞いてきた。「ロンドンには来てくれるのかな?」
わたしたちは、ノー、と答えた。どこまでも付いて行きたいけれど、仕事もあるし、モナコのあとは日本に帰らなくちゃいけない。お金を貯めるのも、休みをとるのも簡単ではないから、1年に1度か2度しかマイケルのもとに来ることが出来ない。アティーラは、わたしたちの説明を聞いてうなづいたあと、ゆっくりと、わたしたちに言い聞かせるようにこう言った。
「よく聞いてください。君たちは、いつ、どこに来てくれても、マイケルもわたしたちも歓迎します」
「いつもマイケルに親切にしてくれて、本当にありがとう」
わたしたちは、思いもよらないアティーラからの言葉に驚いた。彼が、ロビーで話しかけてくれただけでも意外だったのに、こんな風にお礼の言葉をもらうだなんて、考えもしなかったからだ。
アティーラは、わたしたちの次の予定を知りたがったが、それには答えることが出来なかった。モナコのあとの追っかけについては、何も決めていなかったのだ。そのまま話は別の話題に移り、最後にもう一度アティーラは「マイケルは、いつでも君たちを歓迎します」と言ってくれた。
少しの間を置いて、アティーラは「オーケー」と立ち上がり、「じゃあ、またね」と言ってその場を立ち去った。その後ろ姿を見送ったあと、突然涙が込み上げて、わたしたちは揃って号泣してしまった。周囲のヨーロピアンファンが、「どうしたの!?」「アティーラに何か注意されたの?」と、心配して話しかけてくれる。わたしたちは首を横に振り、嬉しくて泣いているんだ、と彼らに説明をした。
アティーラは、今夜、マイケルからの伝言を届けに来てくれたんだ。素直にそう思えた。わたしたちの長年の想いは、ちゃんとマイケルに届いているんだと、最後にアティーラが教えてくれた。それに、さっきの様子で、わたしたちにはわかったのだ。マイケルは、明日の朝早くモナコを発つに違いない。だからこそ、いまこの時間に、アティーラは別れの挨拶を言いに来てくれたのだ。
わたしたちは、部屋に戻ってひとしきり泣いたあと、ビデオカメラに向かって今夜の出来事を語った。このときもらった最高の賛辞を、一語一句、決して忘れることのないように。
翌日の早朝、わたしたちは、まだファンの姿もまばらな中、マイケルがホテルド・パリを出発するのを見送った。もしアティーラと話していなかったら、この時間はまだ寝ていたに違いない。わたしたちに気が付くと、アティーラはバンに飛び乗りながら、手をあげて挨拶をしてくれた。
マイケル一行を見送ったあと、わたしたちはニースに移動して一泊し、夢のような想い出をたくさん抱えて日本に戻った。モナコの旅をきっかけに、マイケルとの距離がまた一歩近づいたような、とてつもない幸福感の中にわたしたちはいた。まさかこれが、3人でマイケルに会う最後の旅になるとは、このときは思いもしなかった。
【バックナンバー】リアル・マイケルジャクソン ~おっかけOL3人組とマイケルの交流実話
コピーライター。87年来日時にマイケルのファンとなり、OL時代、同じくOLの友人とともに世界中を追いかける。96年HISTORY TOURを機に、3人は「D-PARTY」(ファミリーの意)と呼ばれ、世界各地でマイケルに会えるようになる。追悼式から3年を経て当時のエピソードを公開。
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