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ロジカルシンキングを越えて:8.知りたい病の症状とその処方箋/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年8月23日 11時0分

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伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

知りたい病とは、「調べているうちにどうすればいいかわからなくなる。目的をはき違える。自分が何を考えているかわからなくなる。時間切れになる。」という病です。企画職としては初歩の初歩です。

事業会社であれば、ちょっとした調べものを上司に頼まれることは日常茶飯事です。上司に頼まれたことをなんとなくやっているうちは、それほど頭を使わないかもしれません。しかし、自分が企画をしなくてはならず、そのために調べものが必要な状況、自分で調べなくてはならない。こういうケースだと少しだけ高度になります。

今はインターネットがあるので、相当楽です。検索すれば、情報が手に入る。楽がゆえに、単に簡単なことを調べるだけでは、価値はないことが多くなっています。

情報はインターネット上に溢れているようにも見えますので、わざわざ図書館などに行くことも少なくなったでしょう。今時は、ネットリサーチ会社と契約していれば、ブラウザ上で簡単にアンケート調査ができますね。

新聞記事であれば、日経テレコンがあります。検索すると、一気に過去の新聞記事、雑誌記事が出てきます。パブリックなデータは官公庁や特殊法人のホームページで公開されています。加工しやすいようにエクセルの表形式でダウンロードできます。

しかし、特殊な情報の場合、そもそもネット上に情報がない場合もあります。専門的な内容だと、間違いがあるとまずいですので、専門書をあたらなくてはならない場合もある。インターネット上で情報があったと思うと、概要しか出ておらず、詳細は「○○総覧」のような報告書を当たらなくてはならず、しかもそれは絶版になっているなどといった場合もあります。

そうすると国会図書館や、ジェトロの図書館などの公営の図書館や、民間のリサーチ会社が運営する有料図書館などで調べて、該当箇所をコピーしたりする。これがまた重労働だったりします。

国会図書館は東京であれば、国会のすぐ近くにあります。最寄り駅は永田町、国会議事堂前。関西だと、奈良の生駒から約1時間というちょっとした僻地にあります。ジェトロの図書館は東京だと赤坂のアークヒルズにあります。

この近くにオフィスがある方はいいかもしれませんが、そんなにオフィス環境に恵まれている方はまれでしょう。出かけるとなると1日仕事です。しかも、コピー(有料)には長蛇の列がある場合も多々あります。要領よくやらないととてもじゃないが、生データすら手に入らない。

また、書籍によってはコピー禁止のものもあります。そういう場合は手書きで写す。コピー禁止のものを携帯で写真にとっていると、係員さんが飛んできます。とにかく時間を食ってしまう。そのうちに制限時間は迫ってくる。

最近の仕事で、わざわざ調べてほしいというような内容であれば、インターネット上を見ても正直よくわからないことが多い。よくわからないからこそ頼んでいるのです。そういう内容だからこそ調べることだけで価値が出るという側面がある。

そうすると、体を動かしつつ、調べつつ、新しいことを吸収しつつ、目的を忘れないというマルチタスク的なことになってくるわけです。これが新人のうちはけっこうしんどい。抜ける、漏れる、ダブる。効率が悪化する。時間が無くなる。

また、数値化されていない情報ばかりしか集まってこない時、電子化された数値がない場合、自分でデータテーブルをゼロから作らなければなりません。これがまた重労働です。

定性的な話は、大きい、小さいなどアバウトな話になりがちです。現実は何割などの微妙な線があります。大きいという場合、指すレンジが10%から20%なのか、30%から40%なのかなど、ケースによって大きく違います。数値がないことによる誤解を防ぎ、より正しい判断をするためには、この数値化作業はそれはそれで意味があります。

慣れてくればなんてことはないですし、本来は大学生のころに、卒論やらレポートやらで、この程度のことは経験しておいて欲しいのですが、大学時代にこういったことをしっかり経験してくるビジネスパーソンはどうも減少しているように思います。

当然、コンサルティングファームに就職してくるような人は、そもそも高学歴で勉強好きである場合が多々ありますので、この段階は簡単にパスできることが採用される要件になっているように思います。

コンサルティングファームに新卒入社したばかりのビジネスパーソンに山積みの資料を渡して、「これ、明日までにまとめておいて」というような逸話も昔はよく聞きました。最近はそこまでひどいことは少なくなっているようですが・・・。

ただ、強調しておきますが、この病にかからない人は、そもそも企画業務に向いていない面もあります。大学の時であろうと、若手のころであろうと、誰でも企画職の人ならば、こういった経験はあります。

最近では、まともに調べもせず、いろいろとモノを言う人も増えています。Wikipediaをコピペするにしても、しっかりと読みもせず、タイトルだけ読んでコピペして済ますだけの人もたくさんいるそうです。何年か前に、特殊法人が外注した調査結果がWikipediaの丸写しだったというニュースもありました。税金の無駄遣いとして糾弾されました。

そういうことをする人に比べれば、この病にかかる人のほうが、はるかに企画職の適性があります。誠意があるのです。

「目的にかなう最小限の情報以外調べる必要はない」とおっしゃるコンサルタントの方も確かにいらっしゃいます。それは確かにそうなのですが、無駄を経ずして効率には辿りつけません。

実は、このセリフは「目的に関係ない情報を調べて無駄をした経験がある人」しか吐かないセリフです。これはかなり逆説的ですね。自分はそのプロセスを経たくせに、部下にはさもそうではないかのように言う。これは誠意ある物言いではありません。

また、最近のいわゆる若手ビジネスマンは「ゆとり教育」の影響もあってか、そもそも情報量が足りない場合が多いです。効率を追求するというのは、現状の仕事のアウトプットを出すことに対してするのではありますが、教育という意味では相当違います。

この段階にある企画職は未だ研修中のようなものなのです。お給料をもらっている以上、「自分は研修中なんだ!」と開き直ってはいけませんが、仕事を振る側から見ると、そういうふうに見えています。

そもそも、企画職をやろうとするならば、ベースとなる情報量が自分の中にあることが前提です。情報処理能力がある程度あるだろうという見込みのもとに、配属、採用されている。しかし、現実は意外とそうではない。

その現状を踏まえて、良心的な企画部門の管理職は、配属当初は調べものなどをやらせるものです。いきなり「当事業部の戦略オプションをまとめておいて」というような無茶振りをしたりはしない。

そうすると、巷に出ているいくつかのビジネス書の「解釈」は間違っています。

コンサルティングの世界に伝わる有名な格言「海の水を全て沸かそうとしない」を紹介したビジネス書もありました。

しかし、この格言があるのは、「海の水を全て沸かすようなプロジェクトが多数存在した」からです。メンバーを疲弊させ、つぶしてしまう側面もあります。2徹3徹は当たり前なプロジェクト・・・。それによる弊害はみんな痛いほどわかっている。

しかし、それによるバリューがクライアントにもプロジェクトメンバーにも、ある場合もあるのです。

それは何かと言えば、クライアントにとっては、大量の情報がそのときの目的のもとに効率よくまとまる価値がある場合があり、メンバーにとっては大量の情報処理をするという経験によって、情報処理能力が上がるという価値がある場合があるのです。

今のビジネスパーソンを見ていて思う成長に必要なことは、現有の情報量でなんとかする訓練ではなく、そもそもの情報量を増やすことだと思います。ある程度の情報量がないと、考えるという作業のトレーニングはできません。

「フェルミ推計」に関連した書籍を読んで「無駄なことはしない」と言うよりも、この段階にいるのならば、「何かを考えるより前に、勉強したほうがいい」という言葉を噛みしめて欲しい。

そもそも、調べているうちに何が何だかわからなくなるのは、情報処理のキャパシティーが小さいという現実の裏返しなのです。大量の情報を一気に処理できるビジネスパーソンと、少量の情報しか処理できないビジネスパーソンと、どちらがいいのでしょうか?

では、どうすればこの段階を抜けられるのか?大量の情報を効率よく処理できるようになるのか?

アクションに落としてしまうと次のようになります。

目的を必ず紙に書きましょう。できれば、その目的が発せられた背景も確認しましょう。その上で、背景と目的との関係の中で、調査項目を出していく。調査項目に何をどう調べればわかるか?を書き込む。そして、スケジュールに落とす。

こうした調査設計をしっかりやった上で、1つずつ調べていく。ただし、調べたことによる発見で、調査設計そのものが変更される可能性もありますので、必ず発見された事実が調査全体に与える影響について留意しましょう。

・・・と、なります。そう、ある時期からコンサルティングに導入されたワークプランと同じです。この部分は効率勝負なので、ワークプランが効いてくる。MECE、ロジックツリーという技術が効いてくるのです。

しかし、これを紙に書いたとして、簡単には実行できません。どうしても経験が要ります。コンサルティングはスペックの高い人間の集まりですから、ワークプランをがっちり作り、効率のすごく高いリサーチを実施することができるわけです。

知りたい病の企画マンとしては、こういったことに留意しながら、「無駄」を経験しつつ、5から10ぐらいの企画を担当すると、この段階を抜けられます。そして、「目的にかなったことしか調べる必要がない」という現実を、実感をもって噛みしめるようになります。

次の段階に達したとたんに、「効率よくやらないとダメだよ」と後輩に語り始める人も多いので、見ていてかわいらしいと思ったりもしますけどね・・・。

もう少し言うと、大量の情報を効率よく扱うために、抽象と具体をしっかり分けて、情報処理を行うという技術があります。具体的な大量の情報をそのまま扱うのはよほど巨大なキャパシティーが必要になります。従って、情報量を減らす必要がある。この情報を減らす作業を抽象化と言います。

「抽象化」の1つの説明の仕方としては、「階層化」していくというやり方があります。コンサルティングの言葉で言えば、ピラミッドストラクチャーですね。物事の関係をピラミッドのように三角形で捉える。ピラミッドの頂点のほうを抽象と考えて、底辺を具体と考える。

底辺に具体的な項目を書いて、その頂点はどのようにまとめうるのか?を考える。その頂点の情報が決まれば、いちいち、底辺の具体の情報の詳細を考えずに、頂点の情報だけを扱えばいい。

もう少し具体に寄せて説明すると、これは、初めの章で説明した三段論法と全く同じ考え方です。どういうことか?

ソクラテスは人間である。

すべての人間は死ぬ。

従って、ソクラテスは死ぬ。

これは、人間という頂点の情報を扱えば、いちいちソクラテス、プラトンのような一人一人の具体的な人間について細かく見ていく必要がないということです。「人間ならば○○である」ということを考えれば、それに含まれる具体的な人について別々に考える必要がない。いっしょくたに扱うことができる。

これは大量の情報を扱う際には必須の技術です。こういったことを当たり前のように使えるようになると、調べることが非常に効率的に進むようになる。

ただ、具体的に何かを調べる時に、その物事の「意味ある分け方」と、「意味ある【ならば】」を見つけるほうが、本当は難しいのですが、それは実務を通じて実感してほしいと思います。

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