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ロジカルシンキングを越えて:11.面白くない病とその処方箋/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2018年9月26日 22時22分

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伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

仮説思考の大学生になった後は、ビジネスパーソンはすくすくと成長していきます。おそらく、活躍の場が増えて楽しい。そして、仮説思考の大学生になると、企画実務においてこれまでとは違った行動を取るようになることが多くなります。

結局、マーケットにおける仮説と、解の仮説が一つの系として捉えられるようになってくるので、なんでもいいので、使える情報が欲しい。仮の結論も早く欲しい。

そうすると、現場をやたらと見に行くようになったり、考えている業界歴が長い知人に、こういうケースだったらとりあえず何をする?と聞いてみる。そうすると、「こんなことや、こんなことするかな。こんなことも考えるかな」という答えが返ってくる。

そうしたら、もう、それを仮の結論として置いてしまう。

すると、いくつかの情報だけで全体観がわかってきてしまうのです。系として仮説のつらなりを捉えることができているので、おそらく、こういう枠組みで答えが出てきそうだ、とわかってしまう。

当然、検討が進むにつれて、仮説は棄却され、進化していき、当初、知人が言っていたこととはかけ離れた解決策になっていきます。

そして、現場で見たことが、その全体の体系の輪郭をはっきりさせたり、重要なポイントをつかむことのヒントになっていく。こうなってくると企画の作業、分析の作業が非常に面白くなってきます。

そして、系として捉えられる。全体観がある企画ができるので、多少難しそうなことでも、器用にまとめられるようになります。

コンサルティングテクニック本には「全体観をもって考えよう」というフレーズがよく書いてあります。でもね、マーケットにおける因果関係仮説と、実際のデータのつながりと、自社のアクションのつながりがイメージできない人に、全体観を持とうと言っても、意味はないと思うのです。

先に見た、マクロ病、ミクロ病などを経ていないと、とてもじゃないけど全体観を持って考えることは不可能ではないでしょうか?

マクロ、ミクロ病を経て、マーケットの全体観が捉えられる。数値化されているものと、まだ数値になっていないものの違いもわかる。そして、そこにどのような施策を打てば、どのような変化が起こるかもある程度見える。ここまで来れば、相当できる企画マンです。

でもね、最大の難関が待ち構えている。それは、経営者です。

このレベルまで順調に育ってきた企画マンならば、社長にプレゼンすることも多いでしょう。副社長まで全員OKを取るような企画も作れるかもしれません。しかし社長にひっくり返される。

「そんなことは知っている。」

「なんか違うんだよね。」

「面白くないんだ。」

といったセリフが経営者から聞かれる。経営者がそういっても、無視して実行するようなたくましい企画スタッフがいれば頼もしいですが、たいていは轟沈します。まれに、「じゃあ、社長の仮説はなんですか?」と切り返す猛者もいますが、「それを考えるのがお前の仕事だ!」と一喝されるでしょう・・・。

ただ、社長のセリフからなんらかのものを感じ取って、更に上の企画を作り出せるたくましい企画マンもいますが、そういう人はこのレベルに達した人の1割~2割程度だと思います。ここが、日本のできる企画マンの悩みだと思います。

ここを越えるには、現状改善型の企画から未来を踏まえた新しい枠組みを踏まえた企画を作れるようになる必要があります。たまに、「企画は半歩先を行くからいいんだよ」と訳知り顔で言う人がいますが、それは広告表現などの比較的リードタイムが短い物事の企画のお話です。戦略立案や全社の改革に近い領域での企画は時代の数歩先を行かなければ、大企業の経営者には響きません。

経験論ですが、経営者が「面白くない」を連発する企画会議で、経営者が典型的に漏らすのは、

「これじゃあ未来が見えないんだよ。」

「顧客の進化がわからないよ。」

「これで、うちの会社が優位性を今後5年保持できると言うのかい?」

といったセリフです。

これは、世の中が今後、こういうふうに変わっていく、それに伴って顧客がこういうふうに進化する、業界、競合もそれにあわせてこのように変わっていくのではないか?といったことに仮説がないと言っているのです。

それでね、こういう壁にぶつかった時にビジネス書に戻ると、先に述べたようなあんまり筋の良くない、しかし日本では大人気の格言集を書いている学者さんの本や、流行の経営コンセプトに戻ったりしてしまう。

すごろくで言うと、5マス戻るとか、そういう感じです。そして経営者にぶつかって、また前の段階に戻る。そういうことを繰り返してしまううちに、「社長のOKが取れない企画ばかりの彼はうちでは価値がない」といった話になったりもするわけです。これでは救いがない。

顧客の進化を踏まえられたとしても、優位性の視点が抜けていたりする。もしくは、ステレオタイプな時代の変化、顧客の進化について述べてしまって、自社にとって本当に意味があるのか?というようなものになってしまうということもあります。

ここは大事なポイントですが、ほとんど伝わらないことを覚悟して書くと、結局、「あなたの会社が見たからこそ見えてくる優位性のポイントというもの」があるはずです。

これは、「自社という主語にとっての意味合い」で環境が本当に見えているか?ということに依存します。

つまり会社と一心同体のアイデンティティーで世界が見えているか?ということです。

これに凝り固まるのも困るわけですが、そうではなく、自社の目線で世界を見ることができると同時に、顧客の目線で世界をみることもできる。競合の目線でも見える。そうすると、世界がこんなにも多様な見え方をするのか?ということがわかってくる。

これは、おそらく、よほど企画業務に精通した人にしか伝わらない部分だと思います。

先に述べた、「価値観の変化が成長である」というところから、他人の存在に気づき、他人の目線で見た世界が全く違う装いを見せることが少しずつわかってくる。そして、多くの現場に行き、いろいろな人にヒアリングをしたりすることによって、見えるものが変化する体験を積む。また、仮説が棄却されて進化していくたびに、見える世界が変わることに気づく。

ここまで来ると、自社が見たからこそ見える環境の変化、世の中の変化、顧客、競合の進化というものが競合優位性の本質であることに気づき始めるのです。しかし、実感を伴ってこの部分を理解できる人はここまで読み進めていただいた方の中でもごくごく一部の方だと思います。

ある意味で、自分の世界を離れた目線で物事が見えてくる。こういう物事の見方を本当の「俯瞰」というんだろうなあ、というふうに物事が見えてくる。そうすると、また1つの気づきがある。あたかも世界の外側から世界を見ているような感覚で物事が見えてくるという気づきです。これを、「メタ」的な物事の見方とこのレベルに来た人は呼んでいます。

この見方ができるようになると、世界にはそもそも法則などない。法則が成立するような物事の見方があるだけであるということが実感をもって感じられるようになります。

そうすると、経済学の法則なども、リアリティをもって感じられるようになる。もしも、完全自由競争ならば、需要と供給の均衡があって、というような理想状態がすごく腹に落ちるし、そこから、現在想定している系がどれぐらいずれているのか?がわかったりする。すると、その市場の存在理由、つまりプロフィットが存在している理由などが見えてきたりする。完全な競争状態であれば利潤はないはずですからね。

米国企業のように、スケールメリットを追求して、各国にアダプテーションばかりして拡大するような企業は、ここまで深く考える必要はそもそもないと思います。これは、日本企業あるいはヨーロッパ企業にのみ、宿命的に必要なことなのだと思っています。

感覚論でしかありませんが、その理由を書かかせていただきます。日本のマーケットというのは非常に難しいことが知られています。最近、中国企業が進出してきていますが、軒並みうまくいっていない。本国では好調でも日本ではなかなかうまくいかない。中には、日本オフィスを置いているほうが東南アジアでのセールスの際にいい印象があるという理由だけで日本に進出している中国企業もあるようです。

中国企業が日本でうまく行かない理由は何か?といえば、日本市場があまりに戦略変数が多いマーケットだからだと思います。つまり、競争優位を築くためにクリティカルとなる変数の数が多い複雑な市場なのです。

米国は、日本との比較の中ではシンプルな市場だと思います。そういう市場で育った米国企業はスケールメリットを追求して、アダプテーション的な海外進出の仕方、M&Aで規模を追うといったことが、自然な発想となってくるでしょう。

しかし、日本の複雑なマーケットで勝負して大きくなった企業は、規模の追求でなんとかするような勝負の仕方をする気にはならないのだと思います。

日本企業の経営者は、いわゆるグローバルニッチともいうような、また戦略変数の多いマーケットに入っていって、知恵を絞ってなんとかするというような、生き方を選んでいかざるを得ないような感覚の中にあるでしょう。

そういった経営者から見ると、現状改善型の企画では満足できないし、今後の複雑な世の中の進化を読み解いてこそ、勝負になると思っているのではないかと思います。

その経営者が求める企画は、戦略にせよ、全社の改革にせよ、世の中の進化を踏まえている「面白い」企画なのでしょう。

この道のりは、決して短くはない。むしろ、長い。長すぎます。

ここまで来られる企画スタッフはほぼいない。しかし、伝わらないリスクを承知でこのことを書いてみました。1人でも多くの企画スタッフがここまでたどり着いてほしいという思いとともに。

いわゆるコンサルティング業界において、飯を食っている人は、これぐらいわかっているよ、と思う人もいるとは思います。しかし、こんなことを書いてもニーズがないと思って、書かないのでしょう。あるいは、自分の優位性を保持するために書かないのかもしれません。

もしくは、ナレッジを明らかにしても、ピュアな戦略立案なんて労力のわりにさして儲からない、収益へのインパクトが少なくなってきているかもしれません。

トップの戦略ファームであっても、データサイエンティストがグローバル調達のデータ分析をして、グローバルで数百億レベルのコスト削減を行い、戦略立案はあくまでそのおまけとしてやっているという話も聞きます。グローバル大企業は効率上げるとインパクトが大きいですからね・・・。

そもそも、ピュアな戦略立案の担い手は減っているし、経営者サイドもそこまでの求めていない面もある、と。

ただね、私も場末ながらプランニングで食べていますし、そういうのを求めてくださるクライアントが残っていることも確かです。そして、そういうものを求めている人たちにとってみれば、人材不足も甚だしい状況であるということもちらほら聞きます。

この業界を刺激し、業界の変革もできれば生まれて欲しい。そういう思いもあり、ここまで書きました。この業界の健全な発展を心より願います。

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