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地産地消とリシェアリング/野町 直弘

INSIGHT NOW! / 2019年7月24日 8時30分


        地産地消とリシェアリング/野町 直弘

野町 直弘 / 株式会社クニエ

「地産地消」という言葉は大凡10年ほど前から製造業においても使われるようになりました。

元の意味は「地域生産・地域消費(ちいきせいさん・ちいきしょうひ)の略語で、地域で生産された様々な生産物や資源(主に農産物や水産物)をその地域で消費する」ことです。
要するに元々は農水産業での用語として使われていました。

一方、製造業における「地産地消」は「新興国の成長の取り込み」を目的とし、拡大する新興国市場での販売拡大のために現地生産を行うことをいいます。つまり海外での事業の現地化を意味するもので、本来は製造だけでなく販売、商品企画、開発製造、調達までの一連の機能を現地化することを意味しているのです。

昨年9月に公表された経済産業省のMETI Journalによりますと、日本のものづくりにおいて、過去20年弱の間で、「地産地消」が鮮明になってきていると記述されています。

これは日本の製造業の国内拠点と海外拠点の出荷を合算した「グローバル出荷指数」が2017年に2007年の最高値に迫る歴代2位の数値となったことや、そのうちの「海外出荷」の比率が
2001年の18%程度から2017年には30%まで拡大していること、海外の出荷先のほぼ2/3がその立地している市場向けであること、海外出荷指数の地域別構成比は2001年~2017年で中国が10%から24%に増えていると共に、ASEANも12%から18%と急拡大していることを論拠にしているのです。

METIはこれらの論点から「地産地消」が鮮明になっていると言っています。しかしこれらの論拠はいずれも海外での生産や出荷が増えている、という事実を示したものにすぎません。

一方で、特に今年に入ってマスコミによく取り上げられるのが「日本の製造業の生産国内回帰」です。新興国などに拠点を移す「オフショアリング」に対し、国内回帰は「リショアリング」と呼ぶそうです。たしかに多くの大手製造業企業が日本国内に新工場を建設するというニュースが頻出しています。日本総研のレポートによりますと、この動向は3つのパターンに層別されるそうです。

一つ目は円安や新興国の賃金上昇によって生産コストの格差がなくなってきた「円安による国内競争力改善」を起因とするパターン。二つ目は特に消費財や日用品メーカーなどに見られる
「インバウンド需要の増加」を起因とするパターンです。最後はスマート工場やIoTなどの「自動化と技術・研究開発」型のパターンになります。感覚的にはある特定の業種や企業を除いて
はこの3番目のパターンが多いように感じられるでしょう。

実際に身の回りの消費財を考えてみても、例えば国内向けのテレビの生産を国内にまた戻すかというと、あり得ないでしょうし、そういう点からは「国内生産回帰」=「地産地消」=「グローバルでの現地化」と単純につながる話でもなさそうです。

実際に調達機能のグローバル化については一部の先進企業や業界を除いて、この10年程殆ど進化していないように感じます。調達機能のグローバル化は、調達機能だけ独立して語ることはできません。地産地消という考え方で、海外で製造するための調達機能は海外に任せておけば、いい、というのではグローバル化とは言えないでしょう。

それは「放ったらかし」でしかないのです。

一部の先進企業ではコンポーネンツ単位にその重要性を定義し、メイクorバイの方針や自社開発or外部委託するか、などの戦略に基づき自社の調達機能のグローバル最適化を図っています。コンポーネンツによってはグローバルで集中化して調達を進めた方が有利なものもありますし、そうでなく「地産」を進めた方が有利な品目もありからです。また結果的に「地産地消」型で現地に任せた方がよい場合でも「放ったらかし」にせず、何をどこからいくらでどれ位買っているのか、またそのサプライヤが持続可能なのかどうか、などの情報を共有することは必須になります。

10数年前から全く同じことが言われていますが、このようなグローバル最適調達が実現できている企業は多くありません。大きな理由の一つはグローバル最適調達は調達だけで実現できる
ものではない、ということかも知れません。調達だけでなく製造機能や物流機能、開発機能、商品企画、もっと言えば販売機能まで、言い換えれば事業戦略そのものとの連携が当然必要と
なります。そこまで広範囲の機能を取りまとめ最適化することはたいへん難しいです。

一方で最近の「国内生産回帰」は長続きしない、という論調が大勢です。何故なら国内市場は人口減少に伴い、大きな拡大は今後期待できないから。こういう状況下で調達機能を含めグローバルでのオペレーション最適化を実現できる企業が今後の勝ち組になることは間違いないでしょう。

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