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高齢者ドライバー対策は「自動ブレーキ搭載車両」専用免許では解決しない/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2019年7月25日 7時7分


        高齢者ドライバー対策は「自動ブレーキ搭載車両」専用免許では解決しない/日沖 博道

日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

日本では70歳以上の高齢ドライバーに対しては「高齢者講習」が運転免許更新時に義務付けられているが、「講習だけでは無意味」という意見が圧倒的多数派だ。75歳以上についてはさらに認知機能検査(アルツハイマー型認知症のスクリーニング検査)が加えられたが、検査合格でも事故を起こすドライバーが続出し、検査の妥当性自体を疑問視する声が根強い。

相次ぐ高齢者ドライバーによる悲惨な事故が急増している事態を受け、政府は高齢者に対し免許返納を勧める一方で、最近では「自動ブレーキ搭載車両のみ運転可能」という高齢者専用免許案が政策案として有望視されているらしい。

しかしそれが現実的な方策なのかというと甚だ疑問である。自動ブレーキ搭載車両に買い替えるということは百数十万円から2百万円の新たな投資を余儀なくさせるものである。年金を主たる収入の柱としている高齢者家族が百万円を軽く超える出費に踏み切れるだろうか。おそらく踏ん切りが付かないまま、中には事故を起こしてしまうケースも少なからず生じよう。

もっと現実的な代替策はないのだろうか。無い訳ではない。

最も有力なのが(小生も何度かブログ等で言及している)「ナルセワンペダル」というアクセルペダルに交換することだ。構造上合理的で(「踏み間違い」自体が生じない)、かつ副作用的問題がない。工賃と合わせて20万円ほど(地域によっては補助金で半額くらいになるそうだ)なので、アクセルとブレーキの踏み間違いを完全に無くせる効果を考えたら妥当な投資だ。

もっと簡単で安く、最近人気を博しているのが「ペダルの見張り番」(ⅠとⅡがあるらしい)という商品だ。やはり後付けの機器で、センサーが急激なアクセルペダルの踏み込みを感知し、加速しないようにしてくれる。最寄りのカー用品販売店「オートバックス」で、工賃込みで3~4万円程度で売っているはずだ(しかも東京都は購入費用の9割を補助してくれる方向に動いているそうだ)。他にも同様の後付けセンサー利用タイプの商品が中小メーカーや自動車メーカーから出ているので、このタイプが意外と短期間で普及するのかも知れない。

ただし気をつけないといけないのは、これらは急発進・急加速自体をできなくする機能なので、危機回避のために本当に急加速が必要な場面でも、アクセルを思い切り踏んでも加速しないようになってしまうことだ(当然だが)。

そして以上についてはあくまでブレーキとアクセルの踏み間違いに関する防止策であり、認知機能の低下が引き起こす他の問題、例えばハンドル操作ミスや信号無視などの防止効果はないことは理解しておく必要がある。

そうした心配をぬぐえない、老化により全般的な認知・判断機能が少しずつ衰えつつある高齢者たちには、やはり『自動ブレーキ搭載車両』に買い替えるか、『免許返納』かの2択しかないのだろうか。そんなことはない。政策としてはもっと柔軟かつ実際的に考えるべきだ。

高齢者ドライバー対策で参考になる取り組み例がニュージーランドにある。彼の国もまたご多分に漏れず高齢者ドライバーが増えているが、「自主的に免許を返納するか、自動ブレーキ搭載車両を買いなさい、さもないと悲惨な事故の加害者になるぞ」などという無慈悲な脅しを言う訳ではない。なにせ日本以上のクルマ社会なのだ。代わりに「アメ」と「ムチ」の組み合わせによる現実的な方策で高齢者の事故を抑制しながら、彼らの生活を支えようとバランスを取っている。

まずアメのほうは、多少問題がある高齢者でも、可能であれば限定条件付きの免許を与えることだ。しかも一律ではなく、その高齢者の生活事情や認知機能の程度に応じて、という細やかさである。具体的には、「自宅周辺の半径〇マイル以内」とか「晴れの昼間だけ」とかだ。

「ムチ」のほうは、有効期間の短縮、医師の診断書の提出と、診断書の内容によって課される実車試験という科学的な多重アプローチである。

75歳になった時は一律に運転免許を更新しなければならない。その後は80歳になった時、及びそれ以降2年ごとに運転免許を更新する必要がある(狭い道路が多い日本の都会を走るなら1年ごととすべきかも知れない)。

75歳以上の者が運転免許を更新しようとするときは、認定された医療専門家診断書が必要である(幼なじみの近所の医者による「なぁなぁ」の診断じゃダメということ)。75歳以上の者は、診断書において「医療上の運転適性はあるものの、安全に運転する能力について重大な疑義がある」とされたときは、実車試験を受けなければならない(日本のように講習だけという訳にはいかないのだ)。当然、診断書および実車試験の結果によっては先に述べたように運転免許に条件が付けられることになる。

どうだろう。日本の現状と比べるとはるかに合理的で、高齢者にとって納得性が高く、社会的にもずっと安心ではないか。是非、日本政府関係者も参考にして欲しいものだ。

【追記】オーストラリアのニューサウスウェールズ州でもニュージーランドと同様の高齢者ドライバーの免許更新制度を施行しているらしい。

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