コロナ禍が問いかける、「テレワーク」の評価と今後。/川口 雅裕
INSIGHT NOW! / 2020年4月22日 12時30分
川口 雅裕 / NPO法人・老いの工学研究所 理事長
コロナ対策で、テレワークが一気に進んだ。何年もその成否を検討しつづけてきた企業が多かったが、新型コロナウィルスはそんな議論を一遍に吹き飛ばしてしまったようだ。
本格的な在宅勤務を初めてやってみた人に聞いてみると、かなり肯定的な声が多く、歓迎する向きが多い。おおざっぱに3つくらいに分けられる。一つは、「不要な会議に出席しなくていい」「無用な報連相に巻き込まれなくてすんでいる」といった組織のムダから解放されるということ。二つ目は、「満員電車に乗らなくていい」「通勤時間を仕事に当てられる」といった通勤のストレスからの解放。三つめは、「邪魔な音がない」「長い会話に巻き込まれることがなく集中できる」「何でも電話をする習慣を持つ人から、離れられた」など、仕事をする環境が良くなったことだ。
以前から、テレワークの弊害として、上司が「部下の労働時間を管理しづらい」「部下の仕事の進捗確認が難しい」「部下の評価がしづらい」といった管理職の立場からの指摘がなされていたが、管理職をしている人たちから、このような困りごとの声がほとんどなかったのも興味深いものがある。単なる杞憂であったのか、あるいは、この状態がしばらく続いていくとやはりこのような声が出てくるのか、または、通信機器などの発達・普及によって、これらの問題は解決済みなのか。一定期間は様子を見なければならないが、労務管理に携わる人達にとってこの点の評価は重要になるだろう。
ヒアリングしていてもっとも面白かったのは、「テレビ会議」だと意見や主張を持っている人とそうでない人が、はっきりするという声だ。「会議室で行う会議」は、場の空気を読みやすい。会議室でその場の空気を読みながら、立場や言葉を選んで発言していた人が、テレビ会議ではあまり発言しなくなるという。特に、中高年に多いらしい。
テレビ会議ではモニターに数人の顔が並んでいるだけなので、共有している雰囲気はないし、誰が話をしたそうか、誰の発言に誰がどう感じているかが分かりにくい。普段は強い主張を長々と展開する人も、テレビ会議ではそこまで熱弁を振るわなくなるから、空気が誰かに支配されてしまうようなケースも少なくなる。結果として、「会議室で行う会議」より「テレビ会議」の方が、発言の内容を問われるし、かつ全員の合意が重視される傾向があるのではないかという。なかなか説得力のある指摘だと思うが、どうだろうか。
テレワークが一気に進み、これだけ肯定的な反応が多い以上、働き方は不可逆的に大きく変わるだろう。企業はまず、働く場所や勤怠管理の変更に対応していくことになるが、それらに関係する、評価の基準や方法にも手を付けざるを得なくなる。評価が変われば、給与制度や等級・役職制度もそのままとはいかないだろう。制度改定の過程で、「労働時間に対応した賃金の支払いを義務付けている」労働法制が最大の足かせとなる可能性も少なくないので、後々、振り返ってみれば、今回のコロナ禍が労働法制の大改定のきっかけだったとなるのかもしれない。
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