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コロナ検査を拡充するために今できること/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2020年5月10日 14時0分

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日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

前回のコラム記事で「日本がコロナ検査に消極的なワケ」というのを書いた。世界の感染専門家の意見や感染抑制に成功している国の事例に背を向けたままでは日本は有効な手を打てない。せめて方向転換のきっかけになればと考えたからだ。

しかし安倍総理の「1日2万人への処理能力アップ宣言」にもかかわらず、現実には相変わらず1万人を大きく下回る程度しかPCR検査は実施されていない

報道や各都道府県の発表などによると幾つかのボトルネックがあり、検査を担う現場からは「とても無理」という悲鳴が上がっている模様だ。それを聞いた政策担当者たちは「あぁ無理か、じゃあ仕方ない」と考えがちだ。

しかし彼らには今一度、役に立つ方向で頭を使って欲しい。「できない理由」を並べ立てるのではなく、「できることは何か」に知恵を絞って欲しい。現場は「今のやり方、今の体制では『とても無理』」と言っているのだ。「ならばやり方と体制を変えればよいのではないか」と頭を切り替えて欲しい。

現下の事態においては企業でのコンサルティング現場で培われたアプローチが役に立つと考える。それには3つの原則がある。1.ボトルネックを解消することにフォーカスする。2.個々の打ち手はベンチマークも活用し周知を集める。3.現場を見渡すことができる司令塔を決める。以下に1と2を併せて解説し、最後に3を説明したい。

1.ボトルネックを解消することにフォーカスする/2.個々の打ち手はベンチマークも活用し周知を集める

未知のウイルスが世界規模で感染拡大しているといった事態においては、何が優先されるべきか判断に困ってしまうという気持ちはよく理解できる。政府担当者も例えばPCR検査を増やしたいけど「何から手を着けていいか分からない」と右往左往してきたのだろう。

「〇〇がうまく回らない/不足する」といった「問題解決型課題」に対しては、物事のプロセスを見極めて、そのプロセス上のどこで目詰まりを起こしているのかというボトルネックを特定し、その解消を最優先事項として全力を挙げるのが、解決の定石だ。

個々のボトルネックの解消法は一つひとつ異なる。とはいえ全ての方策検討がゼロからのスタートである必要はない。大抵のことには経験者がおり、うまくやっている他者のやり方を学んで取り入れることで(「ベンチマーク」という)、急速なキャッチアップが可能になることがよくある。

とりわけ短期間でPCR検査を増やすことにはお隣・韓国がすでに大成功しており、教えを乞うことは恥でも何でもない。この分野に関しては明らかに韓国のほうが師匠格だ。他国の知恵も拝借しながら周知を集めれば、有効な解決策も見えてくるはずだ。

PCR検査に関しては、公表または報道されている内容から判断すれば、次の3つが工程上の主なボトルネックといえそうだ(スループットを上げる=処理数を増やすにあたってのボトルネックであって、単純に時間が掛かる工程が主要なボトルネックとは限らないことに注意されたい)。そして陽性感染者が一挙に判明するので、軽症者・無症状感染者を収容できる施設を確保することは必須だ。

第一のボトルネックは、患者または病院・診療所からの問い合わせを受けてPCR検査が必要かどうかを判断する「帰国者・接触者相談センター」(大半が保健所)の聞き取り担当者が不足していることだ。各地の保健所のスタッフが電話に張り付いているのだが、「電話がつながらない」「電話で相談しても、判断するのが難しいためか検査に進めない(その結果、重症化してしまった)」といった苦情があふれている。

そもそも多忙な保健所のスタッフがいちいち聞き取り判定してきたのは、片っ端から検査した場合のその後の処理能力がなかったから、いわばゲートキーパー役になっていたというのが実態だ。だからこの後の2つのボトルネック解消法とセットになって解決されないといけない。

このボトルネックの有効な解消法は、その工程自体をなくしてしまうことだ。「帰国者・接触者相談センター」を介さない「地域外来・検査センター」を設け、韓国でもやったドライブスルー/ウォークスルー方式にして、どんどん検査を実施してしまうのが結局は賢い。既にいくつかの地方で地元の医師会や大学病院と協力して始めている。他の地域でも倣えばよい。

このボトルネック解消策は同時に、検体採取という(もしかしたら次の新たなボトルネックになりかねなかった)作業の処理能力も一挙に拡充することになる。そして第一のボトルネックが解消されると、放っておくとすぐに次のボトルネックに渋滞が起きるはずだ。

第二のボトルネックは、(PCR検査の検体を採取した後にそれを集めた検査所にて)検体に試薬を加える工程だ。検査装置にかける前の作業で、検査キットを使って一つひとつ正しく入れていかないといけないので、手間がかかる上に神経をすり減らす作業だ。

韓国がどうやってこのボトルネックを克服したのか、小生も最近の報道番組で知った。この作業を韓国では自動化していたのだ。韓国はMARSで痛い目に遭った経験から、ウイルスによる感染爆発が再び来ること、その時に備えてこうした検査自動機が必要なことを理解し、それを実用化していたのだ。実にダイナミックかつ合理的だ。

これまた最近の報道で知ったことだが、日本のメーカーでも検査自動機を実用化しているところがある。ただし欧州メーカーのOEM製品として下請けして海外輸出しており、国内では使われていないそうだ。なんと皮肉な。厚生労働省がこの国内メーカー(プレシジョン・システム・サイエンス)の全自動検査機と試薬キットを急ぎ認可することで、日本の各衛生研究所や民間検査機関でもこのメーカーから購入できるようになるのだ。政府が本腰なのか、その覚悟が問われる。

そして第三のボトルネックが検査機での判定読み取りだ。ウイルスの遺伝子情報が増えているのかを読み取るのだが、検査機ではアナログの曲線が幾つか表示されるだけで、YES/NOとか感染確率〇〇%とかで表示される訳ではない。したがってこれは経験のある臨床検査技師が「読み解く」必要があるのだが、それができる技師の数が絶対的に少ないので、明らかなボトルネックになっている。

では韓国ではどうやって臨床検査技師を短期間で増やしたのだろうか。いや、韓国はまったく違うアプローチを採ったのだ。彼らはアナログ表示の検査機に外付けできるPC用モニタリングソフトを開発し、デジタルで表示させている。3つの指標が揃って「陽性」を示すならトータルで「陽性」と判断できる、といった具合だ。

これによって長年の経験が必要なくなってしまった。未経験のスタッフでも注意深くさえあれば、即座に間違いない判定ができるのだ。これまた実に合理的だ。

ハイテク国らしいやり方であり、日本で発想、実現されなかったのが悔しいくらいだ。これは技術的には難しくないはずなので、日本のITベンダーにもすぐに開発できるだろう。そして検査機本体ではないモニタリングソフトなのでそれほど規制は厳しくないはず。必要なのは、やはり政府の覚悟だ。

【追記】ここまで書いてきたことに対し、重要な追加事項が直近で判明した。日本各地の大学を中心とする研究機関には、現在PCR検査機関として指定されている各地の衛生研究所の合計の数倍に匹敵するPCR検査能力がすでに存在すると、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授・所長が指摘している。民間検査会社と併せてそれらのリソースをフル稼働させれば、1日2万件どころか10万件規模にまで一挙に能力拡充させることが可能だということを、山梨大学の島田眞路学長(専門:皮膚科学)が何度も指摘し、政府の対応を批判している。

https://www.yamanashi.ac.jp/about/25210

https://toyokeizai.net/articles/-/349413?page=3

ではなぜそれが実現していないのか。端的に言って厚労省が自分の縄張りの中(地方衛生研究所と保健所)だけで解決しようとして、大学を管轄する文科省などに助けを求めないからだ。そして政府首脳は縄張り意識にとらわれた厚労省に丸投げするだけで、省庁の枠を超えてオールジャパンで対処するように指示しないからだ。日本の最も醜悪な側面がこの大事な局面で足かせになって、国民の命と暮らしを危機に追い込んでいる。呆れるばかりだ。

他にも大きなボトルネックがあるかもしれないが、一般に公表されている情報に基づくと以上の三つが最大のものと判断できる。また、仮にこれらのボトルネックを解消することができたら、別の工程にボトルネックが移るので、その次のボトルネックを解消する必要がある。そうしたことを繰り返すうちに全体の処理能力(スループット)は大幅に改善される。

3.現場を見渡すことができる司令塔を決める

新型コロナ対策にはPCR検査拡充以外にも課題が山積している。そして未曽有の事態においては誰も絶対的な正解は分からないので、その優先度やその反作用の可能性について目先では色んな見方が成り立ってしまう。議論百出して結論が出ない、または迷走してしまいかねない。

こんな時に必要なのは、現場の情報を集めた上で広い視野を保って全体最適のための整合的な判断を下すことができる、頼りになる司令塔の存在だ。当然ながら絶大な権限を与えられる必要がある。

その人がいつも冷静沈着な判断をできること、かつ無私の心で事態に対処しようとしていることを誰も疑わないような「信頼」があれば、その人が下した判断に、(仮に元々の意見が違っても)「あの人がそういうのなら」と皆が従うことができる。それが結局は皆の力を結集することになるため、成功の確率は圧倒的に高まる。

そうした司令塔にふさわしい働きを見せている、台湾の陳建仁副総統や陳時中衛生福利部長(厚生省大臣)や、韓国のチョン・ウンギョン中央防疫対策本部長らの強みは決して専門だからこその知識の豊富さではない(もちろん専門知識も有効だが必須ではない)。

むしろ、混乱し複雑な様相をみせる事態や技術的側面を冷静・丹念に解きほぐす知的体力・耐性があり、疲れて丁寧な説明ができなくなっている専門家に対し適切な質問をして正しく理解できる高い咀嚼能力があり、それを優先度や相手の心理を考えて関係者や市民に自分の言葉で説明できる言語・プレゼン能力があることだ。

そうしたリーダーシップを十二分に発揮できる司令塔人材がこの新型コロナ対策において陣頭指揮を執ってくれることを我々市民は切望している。


【追記】

投稿後、すぐに新しい情報が入ったので、5/12、5/14にそれぞれ修正済です。

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