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ブレンディがなぜ炎上したのか理解できない人々/日野 照子

INSIGHT NOW! / 2015年10月6日 7時50分

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日野 照子 / フリーランス

ツイッター発信だとネット上の一部で盛り上がるだけなので、ご存知ない方も多いかもしれない。AGF(味の素ゼネラルフーヅ)が昨年11月26日に公開したコーヒーブランド・ブレンディのWEB限定ムービー「挽きたてカフェオレ『旅立ち』篇」、ついこの間、ネット炎上した。

特設サイトでしか見られなかったため公開当時は話題にもならなかったのに、1年も経ってから炎上したのには理由がある。今年9月にシンガポールで開催された広告大賞「スパイクス アジア 2015」のフィルム部門で銅賞を獲得したのである。

スパイクスへのエントリーに伴い英語字幕付きで公開されたため、海外の人々の目に触れるようになり、Richard Smart氏の“Japan has a creepy new ad out. I don’t even…”という批判ツイートから、逆輸入の形で日本に戻ってきたのだ。

当のブレンディ特設サイトを見る限りでは、感動作として公開しているので、炎上したことは予想外の出来事なのではないだろうか。サイトのコピーは、『“牛”達の卒業式を描いた超感動作 思わず牛に感情移入?!』とある。未見の方はムービーを一度、見てほしい。

このムービーの描く世界では、「学校に評価されなければ」闘牛場に送られたり、食用のため屠殺されたりする。逆に「見かけが良ければ」動物園で飼われ、濃い乳を出すという「機能が優れていれば」乳牛として牧場で生き延びることができる。ずいぶんとシビアな世界観だが、家畜である牛が置かれている現実はこういうものかもしれない。

濃い乳を出せるようになるために懸命に努力して、ブレンディに採用されて本気で喜ぶ主人公“ウシ子”は、企業の求めるスキルをがんばって身に付け、人事評価されて喜ぶサラリーマンそのものだ。努力したことが成果として認められて、評価される姿を描いたのだから「超感動作」だと思った人々の気持ちもわからないではない。なぜいけない?「努力が報われて評価される」ことはすばらしいではないか?

一体、何が問題なのか分からない人のために、批判した人々の怒りを解説してみよう。

とにかく気持ち悪いのは、「学校が評価する」ことですべてが決まる世界で、「学校に評価されるため」に努力する姿を「感動作」として描いたことにある。その努力の描写に巨乳を揺らして走る女子高生を描くというセクハラ疑惑については、実はあまり関係がない。学校が生徒の生殺与奪の権利を有するという世界観。殺されないためには、その絶対権力者に認められるしかないという世界観。認められるために努力する姿こそが美しい。この世界観そのものが、気持ち悪い。

昔、勤めていた企業で「評価は自分ではなく上司がするのだから、評価されるように振る舞いなさい」と指導されたことを思い出す。多くの企業には、スキルやコンピテンシーという「企業が望むスペック」を図るためのモノサシが用意されていて、そのモノサシによって評価=給料が決まる仕組みになっている。要するに「濃い乳を出す」というスキルがなければ評価されない“ウシ子”とまったく同じなのである。

けれど、企業の「成果主義」は実はあまりうまく行っていないケースが大半だ。成果を客観的に図ることが思いのほか難しく、中途半端に数値化しても、結局は上司のさじ加減となってしまう。「企業が望むスペック」というよりも「上司が望む人間性」が評価基準となりがちなのだ。上司が変われば評価基準も変わる。そういう現実に、反発する人と、唯々諾々と従う人がいる。だから、問題のムービーを気持ち悪いと思う人と、何が問題なのかわからない人がいる。

要するに、自分自身の価値を図る評価基準を、自分自身の内に持つか、外に持つかで、受け取り方が分かれている。

筆者自身は、このムービーを気持ち悪いと思う。努力が報われる世界は確かにすばらしい。しかし、その努力が、他者が定めた評価基準をクリアするためのものだとしたら、すばらしいと手放しでは喜べない。このムービーを「超感動作」だとはとうてい思えない。私は「家畜」ではない。自分の価値は自分で決めたい。あなたは、このムービーをどう思っただろうか。



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