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シリーズ「中年が危機」その3 キャリアの危機2「働かないおじさんが辞めないリスク」/増沢 隆太

INSIGHT NOW! / 2016年3月16日 6時50分

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増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

・年功序列は崩壊したか?
かつて世界第2位の経済大国だった日本の秘訣としてもてはやされた「年功序列」は、限りなく崩壊しています。特にバブル後の失われた20年の長期不況で、企業が生き残りをかけて構造改革や、真の意味でのリ・ストラクチャリングに取り組んだ結果、若い内は薄給で働き、歳を重ねることで役職が付き、同時に給与も上がるという人事組織構造は公務員など一部を除き崩壊したといえます。

いやいや大企業ではまだまだ年功は重視されるし、生きているという反論をいただくまでもなく、制度としては現存しています。しかし重要なのはメンタリティです。若手社員たちは、中小・ベンチャーはもちろん、たとえ大企業でも、自分たちの将来を会社が一生保証してくれる時代ではないと感じているのです。

この信頼の崩壊こそが、年功序列による若手の不利益正当化を粉砕してしまいました。いくらがんばっても、出世どころか世界に冠たる巨大企業が突如倒産したり買収され、消え去っている現実を若手は知っています。制度として存続しているかどうかではなく、信頼を失っている現状をもって、「若い内は耐えろ」というモチベーションを崩壊させているといえます。


・働かないおじさん
代わってこの言葉があちこちで聞かれるようになりました、「働かないおじさん」です。うまく旧システムとなった年功序列の恩恵を受け管理職になったものの、さらに上のポジションに就く可能性はなさそうで、役職と給与のみを享受し、それに見合う対価としての労働での貢献がないと思われているのが働かないおじさんです。(別に男性に限らないが、圧倒的に男性管理職比率が高いので「おじさん」)

この評価は、若手の模範になるわけでもなく、自分たちのミスの責任をかぶってくれるでもなく、そもそもリスクある決断には一切関わらないなど、何も仕事をしていないと映っていることで決まります。実際にどれだけ働いていても、そう見えない人は陰でこのように呼ばれている可能性があります。

そのおじさんたちは、若手時代に辛苦を重ね、サービス残業やパワハラ、セクハラ当たり前みたいな世界で苦労し、やっと課長となり、プレイヤーからマネージャーに立場が変わるかと思いきや、「これからはプレイングマネージャーの時代だ」と言われて、管理業務は乗っかったものの、相変わらず取引先訪問は自分が行かなければならず、20代の頃と変わらない使いっ走りでいまだに客先を行ったり来たりしている現状で十分仕事をしているという認識です。おじさんの中には若手に投げようにも、いちいち説明しているくらいなら自分が回った方が結局早くて楽だということで、部下に投げられない人もいます。

やらなければ陰口を聞かれ、やるのは全部自分。まてまて、おじさんが若かったころの課長といえば、交際費使い放題、タクシー乗り放題、接待だか遊びだか訳のわからない出張やゴルフ、その他特典恩典のカタマリのように見えたはずの課長。実際になってみると給与は据え置き、管理職手当と引き換えに残業代は出なくなり、さまざまな負担が増えただけで、実は実質所得は減っているかも知れない。そんな損な世代かも知れません。

自分が走り回る「仕事」ではなく、方針決定や責任を負って欲しいというのが恐らく若手が期待するおじさんの「仕事」なのですが、この認識がずれていることが悲劇を招きます。


・去る地獄
先の例で挙げた、世界的大企業でもいつ何が起こるかわかりません。絶対に潰れない職場は公務員だけともいえるのが、グローバルなビジネス環境です。筆者は再就職支援の業務でいろいろな企業が手仕舞いする場面にも立ち会いました。出来る人ほど早々に見切りをつけ、新たな可能性に賭けるというのはどの組織ででも似ています。

会社が傾き始める空気を敏感に感じ、次の手を打てる人はやはり「できる人」が多いと思います。中年でも転職やヘッドハントはありますが、その対象は限られた「できる」人だけです。では「できる人」じゃない人はどうなるでしょう?

会社が早期退職を募集し始め、いよいよ危険が現実に目の前まで来て、それでも踏み切れないのが実情でしょう。こうやって追い詰められた状態で転職先を探しても時は遅し。給料の現状維持どころか、いかに減収を抑えるかという後ろ向きのキャリア選択しかできないという現実があります。

そうそうたる大企業であればこそ、年収1千万も1千5百万もそれ以上ももらえていた人が、その器が消えてしまうことで、突如世間相場に戻されます。普通に考えて、今40代後半から50代前半で、そもそも次の仕事が見つかることがたいへんラッキーであり、大企業勤務と同条件での転職となれば、さらにその難易度は極端に高まります。

職があればラッキーということは、その給与条件に前職額や希望などが反映されづらいわけで、非正規の契約社員ともなればその相場は想像できると思います。ちなみに非正規・契約社員ですらそう簡単に得られるものではありません。特に大企業管理職ともなればオーバースペックの壁が出、スタッフとして使いづらいという理由で、どれだけ給与を下げてもお断りというところはいくらでもありますやはり非正規スタッフやアルバイト中心の職場からは敬遠されることが多いのが実情です。


・残る地獄とリスク
そうなればやっぱり外へなど出ずに、現職にしがみつく方が良いのでしょうか?これもYesでもありNoでもあります。しがみつき続けられるのであれば、給料半減よりはるかにましといえます。どれだけ立場がないとしても、やはりお金の問題はキャリア決定において絶大な意味があります。

問題は、そもそもしがみつき「続けられる」のかということです。仮に目の前の早期退職募集を逃れられたとしても、そういった組織の状況が急に変わるとは考えにくいでしょう。アベノミクスの成功ってどこの話?という声をたくさん聞きます。一部の大企業以外、ほとんどその恩恵を受けていないという声は圧倒的です。

さらに恐怖なのは、数少ないアベノミクスの恩典を受けた大企業は、業績回復があっても、現状のスリム化構造を変えようとしないことです。若手の正社員採用を増やすことはあっても、中年管理職の条件をどんどん良くする組織というのはないといえます。

結果として、さらに年齢を重ね、30代後半の人が40代になり、50代の人も60を越えるという時の流れとともに、条件は良くならないと見るべきでしょう。年齢をさらに重ねれば、より条件は厳しく、機会も減っていくリスクがあります。つまりは残るという選択肢も、当面の時間稼ぎにはなりますがどのくらいになるかは誰にもわからないのです。年齢リスクはより増大していくのです。


・正に危機
この問題への処方箋は現状では存在しません。「組織内でがんばる」「外から欲しがられる人材になる」というのは当然その通りですが、実際にできるのかといえば、組織そのものが変容していることからもきわめて難しく、正に危機的状況です。でも何か道はないのでしょうか。

筆者の最後の転職は40歳、そしてその後40代で独立し、自分のチビ会社のオーナー兼社長となりました。それで気付いたことは、社長は社内の誰からも怒られないけれど、誰も給料をくれないという事実です。零細企業は会社が稼ぎ出せなければ給料など出せません。労基法がありますから社員への給料は削ることができない以上、代表取締役の給料を減らすしかないのです。つまり独立した私は社長になったのですが、それは一方でフリーターになったともいえる状態でした。儲かっていない会社の代表はフリーターかそれ以下の存在です。

しかし一方、生きる能力は会社員時代以上に研ぎ澄まされました。自ら生きる努力をしなければ誰も助けてはくれません。何とかして儲けよう、売り上げを上げよう、新たな収入源を探そうという貪欲さは、あらゆるビジネスの根本だと思います。私は今大学生にキャリアを教える仕事もしていますが、キャリアにおけるお金の存在はそのもっとも基本となる存在だと訴えています。自己実現など、マズローの欲求階層説を持ち出すまでもなく、生きていく・食べていくという生理的安全欲求のような基本のはるか上にあるものだということを、身をもって理解しています。

ただこの考え方、どうすれば売り上げが上がるのか、収益を得られるのかという視点は基本であるがゆえにとても大切です。すぐに新たな活躍の場を見つけるのは難しいでしょう。そのまま残るのもたいへんな苦労があると思います。ただそれは「働かない」おじさんだからです。

では「働いて」はどうでしょう。もちろん今だって働いているのはわかります。前述したように、おじさんが考える「仕事」と期待される「仕事」が違うのであれば、後者ができるように働くのです。現状にさらに危機感を持ち、職場が消えても生き残っていけるくらいの収益確保という考えで、今一度、目の前の仕事に取り組んでみる。

そんな考えで臨んでみることで、もしかすると必要とされる場が、社内でも社外からでも出てくる可能性はあります。私の周囲でも50代どころか60代で転職した人が実際にいます。いかがでしょう、ご同輩(TBSラジオ・小沢昭一的ココロ風にキメてみました)

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