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トランピノミクス:地産地消へのパラダイムシフト/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2017年1月26日 7時1分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 トランピノミクスをたんなる復古反動と考えていると、21世紀に乗り遅れる。[自由貿易/保護主義]という理解からして、古い近代経済学の枠組に基づいており、むしろ「自由貿易」の方が復古反動的で、その欺瞞の悪弊が限界に達している。これからのフェアなトレードにおいては、地産地消を理念とせざるをえない。このことを理解するには、大きな文明論的視点が求められる。


米国二大政党制

 いまでこそ教科書では、最初から整然と共和13州があって、それが大西洋の向こうの英国に対して独立戦争をしかけたかのように書かれている。が、当時の新大陸の実情は、英国没落貴族の私領地と、開発株式会社の特許地と、開拓移民教団の開拓地とが重複して混在しており、それらのいずれもが新大陸を自分たちの土地であると主張していた。

 そんな中で、各地のメイソンたちが、王権や金権、教権の支配を退け、共和制(市民合議制)によって幸福と安寧の確保をめざそうと、連邦派(フェデラリスト)として、まだ形にもなっていない州をかってに代表し、先に合「州」憲法(constitution=国体)を打ち立て、実際に新大陸内の他の貴族や会社、教会の勢力を武力で抑え込み、第四の共和13州体制を作り上げた。これが米国「独立」戦争(1775~83)。

 このため、「独立」したとはいえ、正体不明の中央共和政府よりも、あいかわらず領主や会社、教会に共感を持つ者も多く、その求心力は脆弱。おまけに、その後、フランス革命、ナポレオン戦争などのヨーロッパ動乱もあって、新大陸には窮乏移民が押しかけ続け、既得権に対して、再配分要求の暴動を起こす危険性も高まった。だが、さいわい、おりからのナポレオン敗退で、フランス領だった西部への農地侵略開拓が可能になり、ここへ移民圧力を逃がすことができた。

 1828年、ここに開拓者たちの民主党ができ、東部建国市民の既得権と対抗。この開拓民主党政権が続くうちに、南西部旧フランス領には巨大な新州が乱立し、それも大量の黒人奴隷を使っている富裕大農場主だらけ。このため、1854年、北東部に対抗する共和党ができ、南北戦争(61~65)で南部民主党を抑え込み、「保護主義」によって工業輸出国へとシフト、やがてヨーロッパ列強の植民地争奪にも加わっていく。そして、第二次世界大戦後には、その圧倒的な工業力によって、共和党はむしろ諸外国にも「自由貿易」を強いる側に転じ、一方、民主党は、南部も北部も宗教色(ユダヤ教やキリスト教)の強い没落旧中産階級を支持基盤とするところとなった。


トランプとヒラリーのねじれ

 しかし、今回、共和党のトランプを支持したのは、奇妙にもむしろ本来は民主党基盤であるはずの没落旧中産階級。もともとトランプは、民主共和どっちつかずの人物で、問題はヒラリーの側にあった。

 かつて第42代ビル・クリントン(1993~2001)は、民主党の大統領らしく、ヴェトナム戦争後の新移民を含む下層階級対策として徹底的な教育制度改革を行い、強力なIT化を推進して、日本に勝てない二流工業国から国際金融支配国へと米国を飛躍的に蘇らせた。だが、そのせいでヒラリーが考えていた保険制度改革は金融業界に阻まれ、2001年の911事件、2008年のリーマンショックを誘発。これでいよいよ中西部の中産階級は致命的な没落を強いられる一方、共和党のWブッシュの後、ふたたび民主党のオバマ(09~17)が出て、かつてヒラリーが構想した保険制度改革(「オバマケア」)を実現したが、すでに金融IT化で成り上がっている新移民側に追い銭を与えるような形になってしまった。

 つまり、ヒラリー周辺は、ビル時代の教育制度改革の恩恵を受けた東西両沿岸部の金融IT関連の新移民層が多く、ヒラリーが大統領になれば、本来の民主党の支持基盤である南部や北部の工業系の没落旧中産階級がさらに置き去りにされてしまうことが明らかだった。いや、絶対数ではヒラリーの方が支持者が多かった、というかもしれないが、もともと米国の選挙は、急激大量に流入する移民集団による国家乗っ取りを避けるために、わざわざ選挙人制を取っている。直接民主制の多数決のようにただたんに人気の「力」で決めるのではなく、議論を通じて英知を問う仕組みにしてある。(うまく機能しているかどうか、怪しいが。)

 絶対的にも、比較的にも、国際社会で優位ある先進的な米国の新移民層による金融IT業界は、もはや劣位にある没落旧中産階級による工業で譲歩しても「自由貿易」を主張する。だが、それは、実際は米国工業の切り捨てであり、いくらケアプランで補っても、彼らからすれば国家による国民への裏切りでしかない。そこへ日本も便乗して、その他の国々にまで米国の金融ITと日本の工業生産とを抱き合わせにして「布教」しようとしているが、むしろ米国国内で直観的な拒絶反応が出てきた、というところ。他の国々も気付くのは時間の問題。


自由貿易論の欺瞞

 「自由貿易」の基礎となっている絶対優位、比較優位の理論は、あくまでマクロ(国家単位の経済)の話で、「自由貿易」の方が国際社会の総和として生産性が高まる、つまり、安く多くできる、というもの。そればかりか、さもないと、近代の法外な巨大生産力では、自国内で資源から市場まで揃えることができず、また植民地争奪の世界大戦を引き起こす、というのが、連中の脅しの常套句。

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 しかし、きちんと経済学を学んだことがあるのなら、この話がまったくの理論上の茶番で、もともと現実味が無いことも知っている。第一に、この話は、特定の時点での自由貿易の意義を説くもので、経済発展を考慮していない。これによって、国別の各産業の優位劣位は固定化し、国際経済においても、国内経済においても、格差を拡大してしまう。第二に、この話は、各国の生産性が一定のままであることを前提としており、移民の流動を想定しておらず、それどころか国によって優位分野が違い、かつ、その優位分野の利得性が違えば、儲かる国の儲かる分野へと移民を促進してしまう。そして、第三に、国際社会でいったん優位となった国内分野は、戦略的成長産業として広く国民から集めた税金で強引に支援される一方、劣位となった国内分野は、政治的に見捨てられ、壊滅まで放置される、ということ。

 日本においても、長年、付加価値工業のために「自由貿易」が不可欠だ、とされ、一般国民まで教条的に教え込まれ、「円安」こそが善、と思い込まされてきた。だが、世界の中でも異常な日本の長時間労働慣習の元凶は、トヨタだ。あの輸出会社を支えるために、日本全体が、円安によって安価な労働を強いられている。つまり、あの会社が儲かっているのは、車として優れているからではなく、税金とは別に、円安誘導の利得を日本中から広く薄く、掠め取っているから。政治的圧力団体である日本経団連は、輸出主導の重厚長大の残滓のような集団で、トランプがこれに目を付けて集中攻撃を仕掛けてくる当然のこと。政府がこれを守るためにさらに税金をつぎ込んでも、絶対的に勝ち目は無い。

 でも、自動車などの加工輸出は、資源の無い日本の「基幹産業」だ、その川上は広い、国を挙げて守るべきだ、と言うかもしれない。だが、日本は加工輸出産業だけで成り立っているわけではない。それでも、全体の生産性が上がれば、下層だって、そのおこぼれに預かれるのだ、というのが、トリクル(おこぼれ)理論。しかし、下層だろうと自分で働いて稼げるのに、なんで政策的に失業を強いられ、天に口を開き、「上層」とやらのおこぼれを乞わなければならないのか。おまけに、実際は、上層の鉢が無限に巨大化し、永遠に一滴も垂らし漏らさない。

 それを衝かれて、さらに開き直ると、そもそも機会費用(投資効率)の問題で、自己責任だよ、などと言い出す。しかし、高級品を売り込む「自由貿易」のために、先進分野の連中は、自分たちの先進分野への参入の機会ではなく、国内の既存分野の人々の機会を途上国に売り渡している。つまり、もともとが外部不経済による不正利得だ。一方、途上国にしても、生産性の悪い既存分野を「比較優位」として、そこに永遠に追い込まれるのでは、途上国から脱する道を閉ざされることになり、けっしてありがたい話ではあるまい。

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地産地消の新しい経済モラル

 基幹産業だの、輸出立国だの、という御都合主義の絶対優位論、比較優位論そのものが、かつての「植民地発展支援論」の欺瞞と同様、国際社会では許されない悪質な侵略理念であったことに気付くべきだ。途上国や国内既存分野の人々にも、経験を積んで逆転を図る機会の権利がある。そういう機会を奪って、自分たちの懐ばかり肥やしても、国や世界そのものがダメになり、疫病や災害で、人類全体が危機に瀕することになる。

 我々は閉鎖的なだけの中世に退化するのではない。近代の「自由貿易」という茶番の欺瞞が、現実の国際社会と国内社会の貧富格差の固定化によって暴露され、一般の人々でも、そんなウソに騙されなくなっただけ。自分は頭がいい、理解できないやつはバカで偏屈な復古反動主義者、と決めつけている連中の方が、机上の空論に丸め込まれているだけの、最悪の愚か者。

 そもそも古い近代経済学の生産性至上主義自体が根本から崩れてきている。国内でも、「生産性」という名の目先の名目収益一辺倒の日本経団連に対抗し、2011年に輸入消費者側の生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)が創設され、「自由貿易」による一時の「安さ」だけでなく、長期的な「安心」「安全」「安定」を訴え始めている。

 つまり、安さ、目先の利得は、もはや今後の国際社会において経済の主軸たりえない。世界平和を考えるならば、いずれの地域においても、どんな産業分野であっても、それぞれの地域のままで、安定して安全に安心して働き暮らせる社会を作っていくこと、地産地消こそが21世紀の経済の倫理であり理念である。前世紀において、経済、つまりカネの力が政治の中心にしゃしゃり出てきたが、本来、あんなものは、あくまで広く世界に幸福と安寧を実現するための一手段にすぎない。このことに早く気づかなければ、戦争にしても、過労死にしても、我々はまたムダにカネのために命を、人生を、幸福を失うことになる。

 米国中西部の現状は悲惨だ。グーグルアースで見れば、どこもかしこも過疎化のゴーストタウンだらけ。東海岸と西海岸の連中は、その上を飛行機で飛び越え、外の世界と手をつないでいる。彼らは自分たちこそが米国経済を支えていると思っているが、実際は彼らこそが米国の内臓を蝕んで食い荒らしていただけ。

 トランプという人物のアド・ホミネム(人身攻撃)な話は、どうでもいい。あまり好きにはなれない人物だが、少なくとも彼が依って立っているところの問題が、厳然たる事実としてある。それも、今回は、これまでのような、日本製品の輸入を認めてやる代わりに、米国製品をもっと買え、というような、強引な押し売り交渉とはわけが違う。そもそも日本の自動車輸出が、世界経済の中で異様に突出しているのであり、この日本の産業構造の歪みこそが、米国衰退の元凶として象徴的にターゲットにされる恐れがある。国際貿易のパラダイム、ゲームの種類がまったく変わったのであって、これまでのようにタフに交渉すれば乗り切れるというような話ではない。そんなことは事実に基づかない、というような事務次官的な反論は意味をなさない。風評、イメージで叩かれれば、日本の方が世界で孤立する。彼が次の「敵」を探していることを甘く考えてはならない。

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 これらのことから目を背け、彼の揚げ足取りばかりしていても、戦前の「鬼畜米英」論と同じで、我々の方が自滅してしまう。それよりも、「自由貿易」論が武器を使わないというだけの植民地支援侵略論の言い換えに過ぎなかったことを深く反省し、いち早く新しい経済の倫理と理念の先導者となって国際社会の信望を得ることこそが、日本が生き残っていく真の「経済戦略」ではないのか。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『死体は血を流さない:聖堂騎士団 vs 救院騎士団 サンタクロースの錬金術とスペードの女王に関する科学研究費B海外学術調査報告書』『悪魔は涙を流さない:カトリックマフィアvsフリーメイソン 洗礼者聖ヨハネの知恵とナポレオンの財宝を組み込んだパーマネントトラヴェラーファンド「英雄」運用報告書』などがある。)

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