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経営戦略構文100選(仮)/構文14:イノベーションのジレンマ/伊藤 達夫

INSIGHT NOW! / 2017年5月12日 7時45分

写真

伊藤 達夫 / THOUGHT&INSIGHT株式会社

「イノベーションのジレンマ」とは、合理的な企業の資源配分プロセスそのものが、優良企業を破滅においやる状況を指す。イノベーションによって自らマーケットを作り出し、合理的に経営をしていても、破滅はやってくる状況がある。もしそうであるならば、どうすればいいのか?に対して、『イノベーションのジレンマ』では新たなイノベーションに備えること、『イノベーションへの解』ではジョブにフォーカスすることや利益の生まれる場所の移動に対応することが説かれている


みなさま、お久しぶりです。忙しいので、全然書いていませんでした。きっと私のことなんてお忘れでしょう。せつない・・・。伊藤と申します。

プロジェクトがぎっちり詰まっていて、文章を書く暇がありません・・・。ビジネスホテルに缶詰めになってお仕事です。ビジネスホテルってところがチープで私らしいところでしょうか?ヒルトンが好きなんですけどね。

ただ、先日、台場のヒルトンに泊まったら、中国人ツアー客で朝ごはんに行列ができているぐらいに混んでいるのであんまりゆったりできませんでしたね・・・。

さて、今日は速やかに内容を書いていきましょう。いつもは写真のモデルさんの解説を書くのですが、写真を選んだのがだいぶ前なので、なぜこの写真を選んだのか覚えていません・・・。あまりに長いこと放置していたからですね。イノベーションのジレンマなのにジャージを着た女子がお金がなさそうにしている写真を選択したのですね・・・。理由はわかりません。モデルさんの名前も忘れました・・・。深遠です・・・。

気を取り直していきましょう。イノベーションのジレンマです。

ボスコン出身のクリステンセンの「イノベーションのジレンマ」です。感覚的には、この話は優良企業が小さい会社に敗れる必然性を提示しています。日本人が好きそうなお話なのに、ちっともそういう風に説明する人がいないので、日本ではあまり受けが良くない印象でしょうか?

多分、とあるカリスマコンサルタントがおっしゃるSカーブの元ネタはこの本でしょうね・・・。「成長カーブ」というやつです。読まれたことがある方はその視点で読み直してみてはいかがでしょうか?きっといろいろと発見があると思います。

「ランチェスター戦略」という日本独自の考え方がありますが、そういった本の帯には「弱者必勝の戦略」とか書いてあったりします・・・。弱者は普通は勝てないんですよね。戦略の基本的な考え方はそういう考え方です。

だいぶ昔にボスコンが一世を風靡した「経験曲線」は大きな会社が勝つための戦略ですからね・・・。累積生産量の増加に対して、コスト低減効果がどの程度あるのかということが予測できるので、需要が見えるのならば、どのように投資して工場を増やしていけるのか?といった計画が立てられたわけです。大企業のコスト競争力には勝てない、というお話でした。

「大企業は普通にやったら強くて、小さい会社は普通にやったら弱い」がセオリーです。でもね、現在市場を支配している優良企業が負けるプロセスが、企業の合理的な選択の結果生まれる状況があることをクリステンセンは「イノベーションのジレンマ」で多少実証的に示しているわけです。

この本以降のクリステンセンは、けっこうアバウトな主張をしています。最近流行ってきたJTBDなども、「イノベーションへの解」や「イノベーションへの最終解」では、言葉の定義からけっこう適当な感じのお話ではあります。でもね、「イノベーションのジレンマ」は事例を豊富に多少実証的に説明がされています。そこが好感が持てるところですね。

JTBDもロジックとしては強力だと思いますが、今のフレームワークとパラダイムが完全に違うので理解は難しいし、説明する事例が「ミルクシェーク」等、汎用性が微妙なものが多いので、どうかと思っています。

ただ、イノベーションのジレンマはロジックががっちりしていて事例も豊富でとてもわかりやすい。その割に、日本の解説本ではまともな解説が少ない。ということで、多少まともに書いてみます。

当初、クリステンセンは破壊的イノベーションという言葉と破壊的技術という言葉をほとんど同じ意味で用いています。要は技術的なお話だったわけです。フロッピーディスクのような記憶媒体の業界、いわゆるディスクドライブ業界における技術革新と優良企業の没落、新規参入企業の急伸をケースで扱っていますからね。

技術革新で記憶媒体がどんどん小さくなる。小さくなると主流の規格が変わってしまって、それまでの主流だった媒体は消えゆく。5インチのフロッピーディスクにとっては3.5インチが破壊的イノベーションだったわけです。それまで市場を支配していた優良企業が破壊的技術、破壊的イノベーションによってやられてしまうのです。

クリステンセンはこのプロセスを6つのステップで説明しています。とてもわかりやすいので、その6つを説明していきましょう。

①破壊的技術はまず既存企業で開発される

②マーケティング担当者が主要顧客に意見を求める

③実績ある企業が持続的技術の開発スピードを上げる

④新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される

⑤新規参入企業が上位市場へ移行する

⑥実績ある企業が顧客基盤を守るために遅まきながら時流に乗る

この6つのステップです。言葉遣いが独特ですが、6つのステップの全体観をわかる言葉で説明していきましょう。まず①の「破壊的技術はまず既存企業で開発される」です。

この「既存企業」は破壊的技術によってやられてしまう優良企業です。なんと、自分で開発した技術でやられてしまうのです。なぜ?と思いますよね。でもね、GUIはゼロックスで開発されましたが、ジョブズに全部持っていかれて、アップルにやられてしまうのです。開発は既存企業で、商品化は新規参入企業で行われることが多いのが、破壊的技術の特徴なわけです。

次に、②の「マーケティング担当者が主要顧客に意見を求める」です。これは既存企業で新しく技術を開発したけど、どうでしょう?と今のお客さんに意見を聞くというやつです。そして、ほぼ「こんなものは使わない」と言われるということです。お客さんに意見を聞くことは必ずしも正しいこととは言えないとクリステンセンは言っています。

ただ、私としてはそうではないと思います。破壊的技術として後に語られるケースでは、既存顧客は使わないけれども、技術的には単純であるけれども、安価な技術であり、予想もつかなかった顧客が現れることに特徴がある、と言うことができるでしょう。つまり、そういう状況で「イノベーションのジレンマ」と言われる状況が起きるということです。

そして③の「実績ある企業が持続的技術の開発スピードを上げる」です。これは新しい技術ではなく、破壊的技術によって追いやられてしまう技術の開発スピードが上がるということです。既存顧客は既存技術の開発をもっとしてくれと言ってきますからね・・・。お客さんの要望に応えるのは企業の必然です。既存企業で開発された破壊的技術には投資は行われず、既存技術への投資が優先されます。そりゃあ、当たり前ですよね。今のところお金を生んでいるのは既存技術ですから。

そして④の「新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される」です。新たな破壊的技術の関係者は既存の優良企業では自分たちの技術が認められず不満になります。そして新会社を設立して、破壊的技術を使って商売をしようとするわけです。確かにディスクドライブ業界はほとんどIBM出身者です。最近のケースでは、SAPの創業者はIBM出身ですもんね。

しかし、そう簡単には市場はできない。既存のお客さんは「そんなものは要らない」と言っているわけですから、新しいお客さんをゼロから取らないといけない。ここでうまくいかないと破壊的技術は破壊を起こすことができません・・・。

でも、運よくお客さんを見付けます。大きなコンピュータはバカでかい記憶媒体でいいわけですが、PCは小さいので小さな記憶媒体を必要とします。これが最もわかりやすいでしょう。でも当時はPCなんて誰が使うの?と言っていた時代です。だから、既存の大きなコンピュータを使う企業は小さな記憶媒体なんて要らず、PCのメーカーが成立して、そこが5インチや3.5インチといった小さな記憶媒体を使うことを見つける必要があったわけです。

⑤の「新規参入企業が上位市場へ移行する」です。これが私は面白いと思いますね。当初は新しい顧客だけが興味を示す破壊的技術ですが、ある程度事業が軌道に乗り、技術投資が行われると性能が上がります。すると、優良企業の既存顧客は以前は興味を持たなかったのに、破壊的技術に興味を持つようになるわけです。

この時、既存企業はまだ破壊的技術に興味を示しません。なぜなら、利益率が既存の商品に対して低いからです。今の商品で儲かるのに、新しい利益率が低い商品に手を出すかといえば、出さないわけです。

既存の優良企業が手を出さないインセンティブが働きますが、たいていは破壊的技術を売っている企業はぎりぎりと言うかカツカツの状態でやっていますので、大喜びで優良企業の既存顧客に破壊的技術でできた商品を売りまくるわけです。つまり、破壊される側と破壊する側で逆のインセンティブが働く。これが大事なことです。

そして最後の⑥、「実績ある企業が顧客基盤を守るために遅まきながら時流に乗る」です。たいていはこの時には既に遅く、このマーケットでは破壊的技術の方が優位性を持っているレベルまで技術革新が進んでしまいます。すると、既存の優良企業は勝てません。そして、市場を放棄し、破壊的技術を擁した新興企業が成長することになるわけです。

以上が、「イノベーションのジレンマ」が起こるプロセスです。当初は見向きもされなかった技術が、新しい市場を見つけ、技術革新のための顧客基盤を得ることで、既存市場を侵食し、ついには既存の優良企業を負かせてしまう、というプロセスなわけです。

利益率の問題から、既存企業と新興企業には逆のインセンティブが働くのが面白いですよね。高い利益率に慣れている企業は、なぜわざわざ利益率が低い市場に参入するのかが分からない。新興企業は低い利益率でやっていますので、喜んでシェアを食いに行く。だから、両者とも合理的な決定をしていて、長期では、破壊的技術が既存技術の市場を飲み込んでしまうので、既存企業は撤退することになる・・・。

この現象というか、状況についての解説がバリューネットワーク等のフレームワークを使って事例豊富に書かれているのが「イノベーションのジレンマ」です。

ただ、この「イノベーションのジレンマ」を読んだだけでは、どうやってイノベーションを起こすのかが分からないということで、「イノベーションへの解」や「イノベーションへの最終解」が書かれているわけですが、実際にはこの2冊を読んでもどうやるかはわからないでしょうね・・・。

ただ、この2冊では、JTBDのフレームワークが導入されていて、既存のいわゆるクソな顧客志向とか市場細分化とか、そういうものへの反論として使われているように私には読めるのですが、誰もそういうふうには解説しないので、ちょっとだけそういう解説もしてみましょう。

JTBDを紹介している会社がJTBDを理解しているとは正直全く思わないので、ちょっとだけ解説を書こうかな、と思います。ジョブって何?という質問に「真のニーズ」とか言っているようでは恥ずかしさで憤死した方がいいと思っています・・・。こういうことを書くから恨まれるんですかね?キャラでしょうか・・・。

ただ、大人の事情でわかりにくく、しかし正しく書きます。ごめんなさいね。

クリステンセンは平均化した顧客の集団にフォーカスして考えることに否定的です。いわゆる顧客のセグメンテーションに否定的です。顧客の属性の分析に否定的です。それはイノベーションへの解や最終解を読めばそう書いてあります。しかし、ほとんどの人はパラダイムが違う導入部分が読めないため、そういうふうには読みません。

ジョブは顧客の状況に対して発生するものです。「状況に発生する違和感」です。クリステンセンは顧客単位で見るのではなく、状況単位で見ることを主張しています。ジョブは状況に依存して発生するのであり、顧客に依存して発生するとは考えないことに意味があります。

状況とは、どちらかというとハイデガーっぽい考え方です。「このハンマーは小さい」と大工の親方が言えば、お弟子さんはもう少し大きいハンマーを持ってきますよね?ジョブは状況に生じる違和感で、商品はそれに対するソリューションなわけです。

商品はソリューションですが、ジョブに完全に合致するわけではない。状況の違和感を完全に解消できるわけではない。そして、競合は必ずしも同じ製品カテゴリとみなされるものではない。ポーターの言う「代替品の脅威」も含めたものが競合だと本格的に認識するのがクリステンセンのジョブ概念をベースとしたマーケティングの考え方です。

商品というソリューションが状況の違和感を完全に解決できるわけではないからこそ、市場の伸びしろのようなもの、潜在性のようなものを記述できるところにジョブ概念の画期的な部分があり、イノベーションとのつながりがあるわけですが、あんまり指摘している人を見たことがないですね・・・。

もうちょっと書けば、状況とは体験的であり、コト的です。YouTubeをちょっと見れば、JTBDの解説はわんさかあるので、米国ではもう流行し始めており、モノからコトへの転換が本格化しているのでしょう。しかし、日本ではけっこう切ない状況です。ほとんどの人は、モノからコトへの転換が分かっていない。「顧客ニーズ」とか言っているようではわからんのです・・・。

そして、利益が生まれる場所が移動すること、もクリステンセンは指摘しています。ベイン&カンパニーの言うプロフィットプールと似た概念なのですが、クリステンセンは本業集中に否定的であり、ベインは完全に新しい顧客に対して事業をすることに否定的なので、お互いの似ている部分について仲良く研究できない大人の事情があります・・・。

クリステンセンの場合、パラダイムが既存の考え方とだいぶ違うので、わかりにくいのですが、利益が生まれるプロセスは、顧客が求める機能に対して十分でないプロセスであると言っています。充分な機能が提供されるようになると、顧客はそのプロセス、商品に対してお金を払わなくなる。そして、利益が出る場所は移動する。どこに移動するかといえば、顧客が機能が十分ではないと思っているプロセスに移動するわけです。

これを垂直統合、水平分業と合わせて説明しているので更に分かりにくいというか、理論として面白いわけですが、ほとんどの人はこういった考えを必要としないので、誰もちゃんと説明しないんでしょうね。機会があったら書いてみようと思います。垂直統合、メイクオアバイは戦略の論点の1つですからね。

今日は長々と書いてしまいましたが、伝わりましたでしょうか?コンサルタントにありがちですが、詳細な説明が欲しければお金をください的な文章にも一見見えますが、私の意図としては書籍を読んで理解の試行錯誤をしてみてください、ですね。

それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。


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