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フォースを使え:その背景の東洋哲学/純丘曜彰 教授博士

INSIGHT NOW! / 2017年5月9日 10時3分

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

 デススターの小さな廃熱口に爆薬を落とさなければならないとき、亡きオビ=ワンの声が聞こえ、ルークはあえて照準器を閉じる。フォースは、『スターウォーズ』の世界のキーコンセプト。しかし、もとはと言えば、東洋の道教仙術の思想。わけのわからない人には、なにか特別な超能力のようなものとしか思えないだろう。だが、実際の体得はともかく、原理そのものは単純明快だ。

 渋谷のスクランブル交差点を思い出してみたらいい。あっちからこっちへ来る人、こっちからそっちへ渡る人、そっちからあっちへ行く人。いろいろ。全部の人が動いたのに、総体としてはなにも起こらない。すべての動きが相殺されているから。じつは現実も同じ。なにも起こっていないのではない。あまりにものすごく大量の物事が同時にぐちゃぐちゃに起こっている。しかし、そのせいで、それらのすべてが相殺され、結局のところ、全体としてはなにも起こっていないように思える。

 1960年にもなって、ようやくレーザーが発明された。赤いポインターなんかとしても使っているやつだ。やたらと遠くまで届く。レーザーメスのようにエネルギーも強い。しかし、それはなぜか。いや、逆に、なぜふつうの光は、遠くまで届かず、たいしてエネルギーも無いのか。

 レーザーは、人工の光だ。円筒形のルビー。このルビーの中に光が入ると、屈折率のために中で反射して、出られなくなる。そのせいで光が同機して、すべての光波が同一になる。つまり、同じ波長、同じ山谷に揃う。そして、一定以上のエネルギーが、ここからオーバーフローする。

 通常の光、白色光は、さまざまな波長の光を含んでいる。プリズムにかけると、七色に分離できる。一方、レーザー光は、赤ないし青一色。一つの波長しか含んでいない。おまけに、山谷まで一致。ふつうの白色光だと、さまざまな光波を含み、山谷もバラバラなせいで、たがいにエネルギーを相殺、すぐ拡散。だが、レーザー光は、そのレーザー光の中ではエネルギーを相殺しない。そのうえ、同一波長だから、屈折率も同一。拡散せず、ひたすら直進。たとえ光ファイバーのようなものの中で曲がるとしても、ぜんぶがいっしょに均一に曲がるから、衰えることが無い。

 さて、スキーで急坂に出くわしてしまったときなど、ふつうにはうまく滑れる人でも、むやみやたらに緊張して、冷や汗ダラダラ、心臓がバクバク。自分で思ったとおりに動けず、むだに転ぶ。これは、つまり、あちこちの曲げる筋肉と伸ばす筋肉の両方に同時に力を入れてしまっている状態。なんにもならないのに、ムダに疲れる。おまけに、力を入れるときと抜くときのタイミングが全身でデタラメだから、まともに動くこともできない。

 これに対し、アスリートは、その基礎筋力もさることながら、それ以上に、それぞれの関節ごとに、一方の筋肉のみに力を入れ、他方はその動きをじゃましないように完全に弛緩させる。全身のそれぞれの筋肉がそれぞれの最適のタイミングのみで力を発揮する。ムダが無いから、持てる筋力を最大に結果に生かすことができる。

 エネルギーが無いのではない。なにも起こっていないように見えるところでも、その中で相殺され、拡散されて、結果としてなにも起きないだけ。逆に言えば、世界はフリーエネルギーに満ちている。デタラメに進むスクランブル交差点の大勢の人々の歩く向きと歩幅を揃えたら、怒濤のようなデモ隊の行進になる。いや、向きを揃えなくても、信号でそれぞれの方向に渡りたい人々のタイミングを分けてやるだけでも、そこから力を取り出せる。

 なぜきみは結果を出せないのか。力が足りないのではない。やっていることが、いつも支離滅裂で、ぜんぶがぜんぶ、たがいにつねに相殺してしまっているから。なぜ考えがまとまらないのか。なぜ力が発揮できないのか。そこにさまざまな迷いがあって、それらが最適なタイミングで最大の力を出すべきときに、その力を自分で押し止めてしまっているから。

 なぜ精神統一や、集中力が重要なのか。雑念が、きみからきみの本来の力を削いでしまっているから。ほんとうに必要なことだけに全身全霊の神経と筋力を合わせ、それ以外のあれこれは完全に解き放って、本来の動きのジャマをさせない。道教で「無為自然」というのは、この解放と集中のこと。なにもしないのではない。無理をしない、ただ道理に則るのみ。そして、無理をしないからこそ、あるべき本来の波に乗れて、物事を成し遂げることができる。

 これは、組織でも同じ。余計なことはすべてサポートに任せ、本隊は本業に専心。休む者は休むべきときに休み、動く者が動くべきときに動く。それが全体でうまく均整が取れるとき、その内部にある力を最善に発揮できる。社内で疑心がはびこり、たがいに様子見で腰が引け、それどころか、方針方向がバラバラで足の引っ張り合いをするような組織は、大きくなるほど、ムダに有り余る自分自身の力で自滅的に内部崩壊する。

 すべての雑念を断ち切れ。余計なことは考えるな。ただ一点にだけ精神を集中し、その一念のみを自分自身として、その他のムダな緊張をなにもかも解き放て。そのとき、きみはレーザー光のようにどこまでもまっすぐ突き進むことができる。フォースと共にあらんことを。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)

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