東京藝大・箭内道彦教授に聞く 生成AI時代、広告クリエーターはどう受け止める?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年12月14日 10時37分
便利なツールであることは間違いないと思います。よく、そのような質問をされると、「AIにできないことを見つけるのが俺たち人間の仕事だ」という風なことを言う人がいます。それは外れてはいないと思うのですが、僕はAIによって節約して得られる時間にこそ差異があると考えています。
僕は、表現物というのは、見る人のためだけのものではなく、まずは作者のものだと考えています。作者にどんな失敗や葛藤があり、その作品のゴールにたどり着いているのか。その過程を味わうことこそが、僕はアートだと考えています。AIには全くそれがありません。もちろん、AIをディレクションする人の違いはありますが。
絵から作り手の試行錯誤や葛藤が感じられる部分に、非AIの意味があると思います。今日のイラストを審査していても、審査員によって全然違う解釈をしているのも印象的でした。AIの絵だとそうはならないでしょう。正解もなくて、逆にいろいろな解釈ができることが、人が描く絵の豊かさや素晴らしさなのだと思います。
ですから、AIによって仕事が奪われるという考え方もありますが、AIが生み出したものと人が生み出したもので、どっちが優れているとは一概に比べられないと僕は思います。絵を描く時間を体験することが、「絵を描く者の自由」の最たるものです。絵を描くことをアウトプットだと思っている人も少なくありませんが、そこに至るプロセスにこそ素晴らしさがあります。
●技術による“脱職人化”の流れ
――一方で、箭内教授がいる広告業界をはじめ、クリエイティブの仕事面でも生成AIを活用する動きも進んでいます。生成AIによる業務効率化についてどう思いますか。
AIに限らず、仕事は30年前と比べたら相当楽になりました。例えばCMの編集にしても、合成技術が進んでいなかった時代には、素材の切り抜きの作業や、合成をなじませる作業に何時間もかかっていました。今ではPCですぐにできてしまいますから、技術の進歩には感謝しています。
職人気質じゃないクリエイターが登場し、活躍できるようになったのもそのテクノロジーのおかげです。例えば50年前は、映画監督は誰にでもできる職業じゃありませんでした。自分の映画を撮りたいと思ったら、先輩のもとで長く学び、何年もの修業を重ねて得るさまざまな技術も磨かなければなりませんでした。
しかし今では、スマートフォン一つでも映画を撮れます。プロフェッショナルとしての修業をせずとも、その人のアイデアや物事の動かし方さえあれば、映画を作ることができるようになった。それは、AI以前の映像編集技術の進化のたまものなのです。映像に限って見ても、テクノロジーがチャンスを増やしてくれていると思います。
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