「ゆかり」一本足打法からどうやって抜け出した? 三島食品の運命を変えた“事件”とその後
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年12月14日 10時32分
三島食品の野口英善常務取締役
2025年3月の駅ビル開業に向けてリニューアル工事真っ只中の広島駅。その南口から路線バスに乗り、30分ほど南西へ行くと、工場が立ち並ぶ南吉島エリアに到着する。その一角に目的地はあった。1949年創業の食品メーカー、三島食品である。
押しも押されもせぬ同社の看板商品は、ふりかけの「ゆかり」。1970年に発売し、いまなお売れ続けているというロングセラーだ。2023年の同社売上高は139億円。その約3割を「ゆかり」シリーズが占める。
ただし近年、「ゆかり」一強だった状況が変わりつつある。後を追う商品が育ちつつあるのだ。それに伴って、市販用と業務用の商品売り上げ比率にも変化が見られた。長らく業務用の割合が大きかったが、この数年で市販用が逆転したのである。
こうした動きは三島食品の企業ブランディングにも影響を与えている。いま、三島食品で何が起きているのか? その中身を取材した。
●三島食品の深い悩み 「ゆかり」が強すぎるがゆえに……
「社員からしてみれば、『ゆかり』に勤めているわけではない。三島食品に勤めているのです」
こう話すのは、同社の野口英善常務取締役だ。社外の人からはよく「『ゆかり』の会社ね」と言われることがある。これは決して間違いではないが、社員全員が「ゆかり」を作っているわけではなく、ほかにもさまざまな商品や事業はある。にもかかわらず、「ゆかり」というワードしかほぼ認知されていないことに、多くの社員はかつて忸怩(じくじ)たる思いを抱いていたという。
「ゆかり」と聞けば、老若男女問わず、多くの消費者が紫色のパッケージデザインと、赤しそのふりかけをすぐに想起するほど、圧倒的な知名度を誇る商品だろう。他方、三島食品と言われてピンと来る人は、以前はあまりいなかったという。その名前から静岡県三島市にある会社だと間違えられることも多々ある。それほどまで知名度の低いことにショックを受ける社員もいたようだ。
そのような状況から脱却するためには、何よりも会社のブランドを高める必要があると考えた同社は、10年以上も前から取り組むべき経営方針の中に、企業ブランディング活動も加えていた。
「いろいろな商品を展開していく上で、三島食品が作っていることを消費者に認知されていないのはやはりまずいだろうと。そのためには会社そのものもブランディングしなければ駄目だとなりました」
しかし、取り組みは遅々として進まなかった。一つに、当時オーナーだった創業者は、ブランディングやマーケティングといった活動よりも、いいものを作ることを優先すべきという考えを持っていた。
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