[古森義久]【安倍首相、米・ハリス海軍大将を見習うべし】~堪忍袋の緒が切れたアメリカ、中国の南シナ海人工島~
Japan In-depth / 2015年6月1日 11時0分
アメリカのオバマ政権の中国に対する姿勢が明確に強固になってきた。ごく最近でその変化を最初にはっきりと表明したのは日系米人として初めて米軍の太平洋軍の司令官に就任したハリー・ハリス海軍大将だった。
いま59歳のこのアメリカ軍人は日本人を母に、アメリカ人を父に、日本の横須賀で生まれた。その風貌は日本人の特徴をそれほど強くはみせていないが、本人は「日本人の血」をよく口にして、「母からは日本の美徳の義理について学んだ」などとよく語る。
太平洋軍は日本を含む東アジアから西太平洋全域と、広大な地域を管轄におく米軍三軍の統合軍である。その最高指揮官の交替の儀式がハワイのパールハーバーで5月27日に催された。この式典での短い演説でハリス司令官は新ポストへの抱負を語り、そのなかで次のように述べたのだった。
「わが太平洋軍は幾多のチャレンジに直面している。なかでも中国の南シナ海でのとんでもない主張は重大である」
中国の「とんでもない主張」とはもちろん中国が南シナ海で他国との領有権紛争中のスプラトリー諸島付近の浅瀬や環礁を勝手に埋め立て、自国領だと宣言して、軍事基地などに使い、それがあたかも合法であるかのようにふるまう「主張」である。ハリス司令官はまずこの中国の言動を「とんでもない(preposterous)」という形容詞で切って捨てた。この英語は「不合理な」とか「ばかげた」という意味でもある。中国の埋め立て作業をまちがいなく理不尽とか違法だと決めつけているのだ。
ハリス司令官の言葉は中国をはっきり名指ししている点でも新鮮だった。オバマ政権ではこれまでも中国の軍事行動の違法性や理不尽さを批判する際でも、中国という国名を出すことだけはなるべく避けるという傾向があった。中国との正面からの対決や衝突はできるだけ回避するというオバマ政権のソフト路線、事なかれ姿勢の表れだった。その背後にはアメリカが融和や友好の意図を示せば、中国側もそれに応じるだろうという願望があったわけだ。だが現実には中国は逆にアメリカの弱腰につけいるように、南シナ海や東シナ海で一方的な膨張策を次々にとってきたのだ。
しかしここにきてさすがのオバマ政権も中国の最近の南シナ海での新たな人工島づくりには忍耐の限度に達したという感じである。その結果がこんどのハリス司令官の正面からの中国名指しとなったのだろう。その例証としてオバマ政権のアシュトン・カーター国防長官も5月30日からのシンガポールでの安全保障国際会議では中国の国名を明確にあげて、その膨張的な軍事行動を非難した。
日本では安倍晋三首相がいま国会で審議中の一連の安保関連法案の趣旨を説明する5月14日の記者会見で日本をめぐる安全保障環境の悪化を語り、北朝鮮の国名などをあげながらも、中国には一言も触れなかった。中国をあえて刺激しないという政治配慮かもしれないが、もはや国際的には慎重すぎ、同盟国のアメリカやその他の諸国にも遅れをとる認識になったともいえそうだ。
安倍首相、ハリス司令官を見習え、というところだろう。
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