[小黒一正]【ギリシャ財政危機、対岸の火事ではない】~財政・社会保障の抜本改革急げ~
Japan In-depth / 2015年7月2日 23時0分
いまギリシャは財政破綻の瀬戸際まで追い込まれつつある。ギリシャに残された選択肢は多くない。一つは欧州連合等が提示する緊縮的な財政策をギリシャが実行する選択であり、もう一つは緊縮策を拒み、ユーロ圏を離脱する選択であるが、どちらも大きな痛みを伴う選択である。
このうち、後者の選択について、「米カリフォルニア大学バークリー校のバリー・ アイケングリーン教授はギリシャがユーロ圏を離脱すれば混乱を招き、その影響はユーロ圏にとどまる場合のコストを大きく上回る」旨の見解を表明している(2015月5月18日付けBloomberg記事)。
ギリシャが財政破綻の瀬戸際に追い込まれた主な原因は、2010年に債務危機が顕在化してから、年金制度や増税といった抜本改革を先送りしたからであり、そのツケがいま噴出している。
では、日本の財政はどうか。〈『タイタニック』という映画がある。超大型豪華客船の船底は氷山に衝突して傷ついている。徐々に浸水し、沈みゆく。しかし甲板では、船が傾き、沈没する可能性があることをわかっていながら、「損傷は小さく、この客船が沈むはずがない」という甘い認識があるのか、何事もないふりをして楽団が音楽を奏で続けている――。いまの日本財政の状況を見ていると、このシーンを思い出さずにはいられない。〉
これは、昨年(2014年12月)に緊急出版した拙著『財政危機の深層増税・年金・赤字国債を問う』(NHK出版新書)からの引用であり、私がいまの日本財政の現状から受けるイメージだ。
本書でも紹介したように、米国のアトランタ連銀のアントン・ブラウン氏らの研究では、政府債務(対GDP比率)を発散させないために、消費税率を100%に上げざるを得なくなる限界の年を計算しており、消費税率が8%のケースでは「2030年」頃が限界の年となるはずだ。つまり、日本にとってギリシャ財政危機は対岸の火事ではない。
このような状況の中、先般(2015年6月30日)、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2015」(いわゆる「骨太方針」)を閣議決定したが、今回の骨太方針では、「成長重視派vs財政規律派」という対立的な構図の中、非現実的な実質2%の高成長ケース(経済再生ケース)を前提とし、2018年度のPB赤字を対GDPで1%程度にする目安が盛り込まれているが、歳出改革では歳出削減の具体的目標を設定しなかったこと等から明らかなように、財政改革に向けた政治的意志は急速に低下しつつある。
経済規模が世界第三位である日本が、ギリシャのような財政破綻の瀬戸際に追い込まれた場合、日本を救うことができる国際機関や国は存在せず、もし財政破綻ということになれば、それが直接的あるいは間接的に世界経済に及ぼす影響は計り知れない。現在のギリシャの窮地を教訓に、財政・社会保障の抜本改革を進めることが望まれる。
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