[神津伸子]【“24の瞳”少年・高校球児を指導する男】〜「野球は人生そのもの」江藤省三物語 1~
Japan In-depth / 2015年7月10日 18時0分
今年3月中旬。春の到来を知らせる日差しが、心地よい日曜の午後のことだった。少年野球指導のための野球教室の千葉市内での打ち合わせの帰り道、ふと、運転する車のフロントガラスからとある光景が男の目に留まった。気になり、車を縁石に寄せて一時停止してみた。まだ、芝は生え揃わないが、赤土が美しい野球グラウンドが、日も高い内からガランと人気もなく、妙に手持ち無沙汰そうだった。
「もったいないなぁ、こんな昼間から。グラウンドが寂しいって泣いているじゃないか」どうも、どこかの学校の野球のグラウンドらしい。校門の正面に回ってみると、名もない県立高校の名前が、そこに刻まれていた。「こんな、天気の良い週末は、野球がしたい人間がごまんとグラウンドを探しているのになぁ。何なのだろう、この高校の野球部は…」とはいえ、縁もゆかりもない学校の校庭だ。男は後ろ髪を引かれながらも、その場を辞した。
しかし、ずっと頭の片隅に、引っ掛かり気になっていたため、数週間後、再度、少年野球教室の打ち合わせに近くまで出向いた際、我慢出来なくなり、校門をくぐり、野球部監督をいきなり訪ねてみた。その学校の教諭である監督は、俄かには目の前の男の訪問の主旨と目的が信じられなかった。眼前の真っ黒に日焼けして、少し赤ら顔な初老の男性が、自分が見ている野球部にアドバイスしたいというのだから。その男とは―。
江藤省三。元プロ野球選手(巨人・中日)で、兄・愼一選手と兄弟スラッガーとしてならした。指導者としても、いかんなく力を発揮。プロでは巨人軍で藤田元嗣・王貞治両元監督、大洋・山下大輔元監督、ロッテ・バレンタイン元監督に請われコーチを務めた。アマチュアでも全日本、元慶應義塾大学硬式野球部監督として、母校を3度のリーグ優勝に導いている。そんな男が、過去の栄光にこだわることなく、少年や高校球児の指導者という新たなフィールドに立っているなんて、思いもしなかったからだ。
「私の野球の指導の道も、まだまだ半ば。一生、指導は続けていくつもりです。子供たちの可能性は永遠、それを伸ばしてやるのが私たち指導者です」と、江藤は話す。慶應の監督を任期満了で辞してからも、ずっと野球の指導を続けている。この夏も、8月初旬に「江藤省三野球教室」(主催・千葉日報社など)を開催する。100人の中学生を対象に、スムーズに軟式から硬式野球に移行するための正しい練習を指導する。怪我も防ぐ手法も伝授したいのだと。実は、少し前までは、都内も有数の進学校を同じく指導していた。様々な事情から、その場からは離れることになってしまったが、野球指導への情熱は微塵も変わっていない。しかも、全くのボランティアで教えている。
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