[神津伸子]【嬉しかった王さんからの電話】~「野球は人生そのもの」江藤省三物語 9~
Japan In-depth / 2015年8月1日 11時0分
慶應義塾大学野球部監督に就任して、最初のシーズンの優勝が1番嬉しかった。監督要請は、熟考したが一度断って、二度目に決意。
JAPANのコーチも1度、担当したものの、基本、江藤省三はプロ野球のコーチとして、引退後は歩んで来た。ところが、思いがけない依頼が舞い込んで来た。
東京6大学野球2009年秋のシーズンが終わって、母校慶應義塾大学硬式野球部の監督をやらないかと、要請があった。「まさか、自分がと思いましたね。一度は、丁寧にお断りしました」。学生野球とプロ出身の自分は、やはり一線を画した方が良いと、当時は考えていたからだ。OBの方々にもそう考える方は少なからずいると、今も思う。
が、二回目の話が来た。「考え直してくれないか」。少し時間が空いていたが、多分、OB会で色々検討したのだろう。その上で「もう一度、考えてみてくれないか」という、話だ。この時の慶應は10季連続で優勝から遠ざかっていた。「お応えしなければ、男がすたる」と引き受ける決意をした。
「野球人として、野球界のレベルアップに努める、という王さんの言葉が強く思い出された」。この事に強く賛同する思いが、全日本を見た経験からか、増して来てもいた頃だった。とはいえ、慶應義塾初のプロ野球出身監督だったから、プレッシャーが無い訳ではなかった。
その年の12月に監督に就任して、まずは、出来る事からやろうと、1000本スイングを導入した。基礎の基礎だった。1日1000本、バッターボックスで打つイメージをしっかり持ちながら、振る。最上級生の選手には反対する者もいました。すると、当時2年生だった伊藤隼人(現・阪神)が、高校(中京大中京)でも、やっていたと手を挙げた。先輩たちを「とにかく、やってみましょうよ」と、説得した。
当時の主将・湯本達司が「王さん、長嶋さんみたいなスーパースターもやってたと言われ、モチベーションが上がった」と、話す。
漫然と振っていれば、数10分で終わってしまうものを、色々な場面を想定しながらじっくり振ると1本7秒、全部で2時間以上かかる。選手たちの、だんだん意識が変わっていく様子が、手に取るようにわかった。
グラウンドでの球拾いの時に、ボールを蹴って集めるような選手は、絶対伸びない。取り組む姿勢と性格が素晴しいと、必ず技術も伸びて来る。レギュラーチームでなくても10名以上を、AAチームに引き上げ、ベンチ入りさせた。みんな神宮で活躍した。都市対抗野球に出場するような実業団チームにも進んだ。
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