[古森義久]【「原爆を神に感謝する」米紙論文】~根深い投下正当化論~
Japan In-depth / 2015年8月6日 11時0分
原爆が広島と長崎に投下されて70年、アメリカの大手紙ウォール・ストリート・ジャーナル8月5日付は「原爆を神に感謝する」という論文を載せた。筆者は同紙の論説副主幹ブレット・スティーブンス記者、国際問題評論で2013年にはピューリッアー賞を受賞した気鋭のジャーナリストである。
この論文は「広島や長崎への原爆投下は日本を降伏させ、戦争を終わらせて、多数の日米国民の生命を救ったから絶対に正しかった」という主旨だった。その投下の判断を神に感謝すべきだ、とまで断言するのだ。日本側としては受け入れ難い主張だが、原爆投下の是非をめぐっては日米両国間にはなおこれほど巨大な断層があるのが現実なのである。
同論文はまず第二次大戦の欧州戦線で戦ったアメリカの著名な歴史作家ポール・ファッセル氏が1945年夏に次は日本本土への米軍の上陸作戦への参加を命じられ、死を覚悟していたときに、原子爆弾の投下で日本が一気に降伏したことを知り、命を救われた思いで喜ぶという経験談を紹介する。
そしてスティーブンス記者は同論文で近年、主張される「原爆投下がなくても当時の日本は降伏したはずだ」「アメリカは被爆者に謝罪すべきだ」「核兵器は廃絶されるべきだ」などという見解にそれぞれ反論し、現在41歳という戦後派の立場から「広島と長崎の悲劇は単に戦争終結を早める出来事だっただけでなく、多数の生命を救ったのだ」と強調した。
そのうえで同記者は1945年の原爆投下以前の日米戦争では毎週7000人のアメリカ軍人が戦死していたとして、徹底抗戦を決意した軍国主義の日本を降伏させたのは2発の原爆だとして、さらに「原爆は大日本帝国を平和主義活動家の国にしてしまった」という評価をも提示した。
同記者の論文はさらに現在のアメリカの状況に触れて「米軍がもう勝利という概念を禁じるようになり、大統領がアメリカの力の執行を信じなくなり、国民一般は自分たちが犯してもいない罪への謝罪意識を抱くようになったいま、原爆投下での教訓はとくに貴重なのだ」と述べ、力の行使の効用を強調した。そのうえで「原子爆弾について神に感謝したい」と結んでいた。
この論文はアメリカ側でのおそらく多数派の意見として日本への原爆投下は戦争を早期に終わらせるには必要だったという見解が存在することの例証だといえよう。
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