[林信吾]【Xマス、実はイエス・キリストと無関係?】~クリスマス特別編(上)~
Japan In-depth / 2015年12月24日 11時0分
10月にハロウィーンについての記事を書かせていただき、あれはもともとキリスト教会の行事ではない、と述べた。実はクリスマスも
「主イエスの誕生を祝う日ではない」
と述べたなら、驚かれるであろうか。
たしかに、クリスマスという英語は「キリストのミサ」という意味で、他にもフランス語ではノエル、イタリア語ではナターレ、スペイン語ではナヴィダッドというように、人の「誕生」を意味する表現が定着してはいる。しかしながら、聖書のどこにも「イエスが12月25日に生まれた」などとは書かれていないのである。
その方面に詳しい人から聞かされたことがあるのだが、イエスが生まれたパレスチナでは12月は雨期なので、羊飼いが野に出ていたり、東方の博士が星の動きを見てキリスト(救世主)の誕生を知った、という伝承とは合致しないそうだ。
よく知られるように、イエスはユダヤ人の大工の子として生まれたが(本当の誕生日は4月説が有力)、当時彼らが暮らすパレスチナの地は、ローマの支配下にあった。そしてイエスは、ローマに対する納税拒否を扇動したとして、十字架にかけられたのである。
その後100年を経ずして、イエスの教え=世に言うキリスト教はローマに広まることとなったが、これもよく知られる通り、当初は迫害を受けた。信者であることが露見すると捕らえられ、有名なコロッセオ(円形闘技場)でライオンと闘わされたりしたのである。ローマが多神教であったことも理由のひとつだが、当時始まっていた皇帝の神格化を、キリスト教徒たちが拒否したことが最大の原因であったろう。
しかし、信者や教会を根絶やしにすることはできず、それどころか311年には信仰の自由が公認され(世に言う寛容令)、380年には、ローマの国教であると宣言されるまでになるのである。これは、当時の教会が慈善事業に力を入れ、庶民の人気を勝ち取っていったこともあったが、同時に、民間の習俗を尊重しつつ布教していったことが大きい。
具体的には、ローマでは古来12月の末で1年を締めくくり、労働から解放されたことを祝して、盛大な祭りを催していたのである。贈り物を交換したり、男が女装して踊ったり、主人と奴隷が席を交換して酒を酌み交わしたり、地域によっては、普段は禁止されている博打が、この祭りの間だけ解禁になったという記録もあるそうだ。
要するに「楽しいクリスマス」の原型は、イエスが誕生するずっと以前のローマで、すでに出来上がっていたのである。そのローマにおいて、キリスト教の布教にいそしんだ人たちが、この民間習俗を教会の行事に換骨奪胎すべく、12月25日を主イエスの誕生日だとする知恵をひねり出したものらしい。その後キリスト教は、北方のゲルマン人たちの間にも広まっていったが、ここで生まれたのがクリスマス・ツリーである。
ローマと違って雪に閉ざされる冬を過ごすことが多いゲルマン人は、冬でも枯れない針葉樹を生命力のシンボルとして尊んでいたが、ここからやがて、樅の木に金銀の飾りをつけて、クリスマスの装飾品とする習慣が生まれた。
日本の寺院に、よく松の木が植えられているのも、やはり永く枯れない縁起をかついでのことなのだそうだ。人間の考えることというのは、民族や言語が違っても、あまり変わらないものらしい。
日本にキリスト教が広まったのは、またまたよく知られる通り、戦国時代=16世紀のことであるが、やはり弾圧に直面していた時期がある。それも含めて、興味深い話が多いので、この続きは(下)で。
(【戦国・江戸・明治時代のXマス】~クリスマス特別編(下)~に続く。全2回)
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