[清谷信一]【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その2】~最前線で隊員の命を救えるか?~
Japan In-depth / 2016年1月8日 7時0分
今年5月、防衛省が有事の際に最前線で高度な医療行為を行う「第一線救命士」の養成を平成29年度から開始するという報道がなされたが、有識者からは、開始時期が今から2年も先の平成29年度からでは遅すぎると指摘する声があがった。
更に名称も「第一線救命隊員」から「第一線救護衛生員」へと変わり、何をする隊員を育成しようとしているのか分からないばかりか、これまで第一線に配備してきた衛生科隊員である「救護員」とは何をしてきたのだろうかという疑問がわく。
10月には「受傷後10分以内に応急処置を受けさせ、1時間以内に手術を受けさせる」という「衛生ドクトリン」が自衛隊幹部の雑誌「修親」で陸幕長によって発表がなされ、東京都の三宿駐屯地では訓練展示も行なわれたが、これは2003年ごろから民間の救急医療で言われ始めた「ゴールデンアワー、プラチナの10分」を言い換えただけであり、こちらも「軍隊が戦場でおこなう戦闘外傷患者の救命には全くそぐわない」と戦闘部隊からも有識者からも指摘があがっている。
筆者がファースト・エイド・キットの不備を繰り返し取り上げて来たのは、銃や爆弾による戦闘外傷は2分以内に手当を適切にしなければ死に至る例が多いからだ。実際に米軍ではファースト・エイド・ポーチや止血帯に手をかけたまま絶命した兵士の例が多数報告されている。そして、戦傷による死亡の9割は受傷から30分以内、最前線の治療施設に収容される前に起きている。
つまり師団や旅団の野外治療施設よりもずっと前線近くで素早く処置をしなければ、多くの隊員の生命や手足が失われるということだ。だからこそ、戦場で生き残るためには受傷直後に負傷した隊員自らが行なう救急処置が重要なのであり、そのためのファースト・エイド・キットを充実させ、その用法によく精通していなければならないと以下の通り、繰り返し主張してきた。
自衛隊員の命は、ここまで軽視されている
海外派遣の前に考えるべきこと(上)
自衛官を国際貢献で犬死にさせていいのか
海外派遣の前に考えるべきこと(下)
自衛隊は、やはり「隊員の命」を軽視している
戦闘を想定した準備はできていない(上)
現行の救急キットでは多くの自衛隊員が死ぬ
戦闘を想定した準備はできていない(下)
対応時間について「10分」などと考えていては戦死してしまう。それに1時間以内に手術を受けさせられる手術室が戦場にいくつあるのだろうか。戦争では平時よりも手術台の数が極端に少なくなるのは当然である。平時ですら、手術室の受け入れ人数を超える大量負傷者が発生した場合、災害プロトコールが発動し、「ゴールデンアワー、プラチナの10分」体制から非常事態体制に切り替わる。衛生科が本当に必要な尺度として定めたものを陸自幹部の機関誌の巻頭言で陸幕長に語らせたとはとても思えない。
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