警戒から解放される喜びとは
Japan In-depth / 2016年3月6日 7時0分
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
妙に警戒をしている人が世の中にはいる。警戒をしている人は、常に自分はだまされないか、また馬鹿にされていないかという意識で日々を送っている。
私の考えの出発点は“世の中がそうなのは、そのように見ているからだ”というものだ。感じることができなければ、色も光も物体もその人にとっては存在しない。そこに木があるのではなくそれを目という器官で認識するから木がある。すべての情報は受け止めきれない。人は意識的か、無意識的か、自らの偏りを通じて世の中を捉える。
警戒をしている人は、危険な目に合うことや、人から馬鹿にされることを嫌がる傾向にあると私は思う。何かを手に入れることよりも、何かを失わなかったということを重視する。警戒をしている人の荷物は多い。身軽さよりも、何かあった時にこれを持っていてよかったという安堵感の方を求めるからだ。
警戒をしている人は、警戒をしている対象を、他の人以上に捉えてしまっている。山道で熊が出るぞと散々脅されたことがあって、その時は向こうに見える石一つ一つが熊にみえたものだ。警戒をしなければ、危険な目にあうのでそれは大切なことかもしれないが、山登りの喜びを感じるには、ある程度警戒からの解放も必要ではないか。
警戒をしている人の最大の目的は“やり過ごすこと”になる。人生を何事もなくやり過ごす。評判を落とすことなく生活を営む。しかしながら、警戒をし続けてし続けて無事、何事もなく人生を終えられたとして、一体人生のどこに喜びがあったのを振り返ることになる。その時、どの光景が頭に浮かぶのだろうか。
ふとあるがままに世の中を見てみれば、大体のことがなるようになる。なるようにしかならない。そして人生は生まれて生きて死んだらおしまいで、他の人の人生にとって何かを残すことはできるのかもしれないが、私にとっての私の人生は死んだらそこでおしまいである。
私は人生は道中しかないと思っていて、つまり行為そのものが人生なのだと思う。警戒はせっかくの今ここの行為から意識を外に飛ばしてしまう。毒が入っていないかと警戒するのもいいが、勢いで口の中に放り込んでしまって饅頭を味わったほうがいいじゃないか。雨が降れば傘をさせばいいと松下翁もおっしゃっている。
(為末大 HPより)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
交通事故で「意識不明の重体」から生還した28歳女性。障害を持っても“くじけない”理由――仰天ニュース傑作選
日刊SPA! / 2025年1月6日 15時45分
-
「母になれない」でも「母にならない」とまで決意できない…「普通に幸せ」に生きる難易度が高すぎる世の中を生きるには
集英社オンライン / 2024年12月29日 11時0分
-
周りが「気にならなくなる」"自分を生きる"練習 人間関係がよくなる"話し方""聞き方"のコツ
東洋経済オンライン / 2024年12月26日 11時30分
-
「なりたい自分になる」は無理、その必要もない…禅僧が"意識高い系"の生き方をやめたほうがいいと説くワケ
プレジデントオンライン / 2024年12月25日 7時15分
-
「頑張れる人」を無理に休ませてはいけない理由 「疲れるくらい楽しい」フェーズをどう過ごすか
東洋経済オンライン / 2024年12月23日 8時40分
ランキング
-
1【卓球】張本智和・松島輝空ペアが男子ダブルスで優勝 ストレートで相手ペア下す【WTTコンテンダーマスカット2025】
日テレNEWS NNN / 2025年1月17日 20時12分
-
2豊昇龍 綱獲り場所で1敗キープ 照ノ富士の引退に「ビックリ」 昇進逃せば来場所32年ぶりの横綱空位
スポニチアネックス / 2025年1月17日 19時21分
-
3【初場所】尊富士が5勝目 照ノ富士に恩返しを誓う「横綱なしではやっていけなかった」
東スポWEB / 2025年1月17日 18時2分
-
4巨人痛恨!FA甲斐拓也と引き換えに被る“大損害”…人的補償の伊藤優輔は阿部監督の「秘密兵器」だった
日刊ゲンダイDIGITAL / 2025年1月17日 11時24分
-
5パドレスが佐々木朗希争奪戦から“撤退”と米報道 ドジャースとブルージェイズの一騎打ちか
スポーツ報知 / 2025年1月17日 23時7分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください