全国トップの出生率「奇跡の村」とは
Japan In-depth / 2016年3月25日 12時0分
相川俊英(ジャーナリスト)
「相川俊英の地方取材行脚録」
地域内の出生率を上げ人口減少に歯止めをかけるのが、地方創生のメインテーマである。だが、国が大号令を掛ければ事態は改善するというほど、現実は甘くない。人口流出と少子高齢化の負のスパイラルが加速するばかりだという自治体は少なくない。
そんな地方自治体の関係者から「奇跡の村」と呼ばれているのが、長野県下伊那郡下條村だ。辺境の小さな山村でありながら、全国トップクラスの高い出生率(14年は2.03人)を誇り、約4000人の人口を維持し続けているからだ。
それだけでなく、ムダを徹底排除する手堅い財政運営が村の伝統となり、例えば「実質公債費比比率」は全国で最も低いマイナス6.4%(14年度)という驚異的な数値をたたき出している。つまり、悪条件下にある下條村は全国の自治体が地方創生の模範とすべきところなのだ。下條村を1992年から6期・24年にわたって牽引している伊藤喜平村長の手腕によるところが大きい。
その伊藤村長が3月23日の村議会で、今期限り(7月まで)での引退を表明した。「奇跡の村」の立役者が身を引き、次なる世代へのバトンタッチを明らかにしたのである。
ところで、下條村はなぜ奇跡を起こせたのだろうか。結論をズバっと言ってしまえば、国の補助制度などに安易に飛びつかず、地域の実情に合った施策を自らの創意工夫で編み出し、地道に取り組んできたからだ。周囲に流されずにとるべき道を自分たちで考え、選択し、自力で歩む自治の本来の姿である。
下條村の奇跡の第一歩は、合併浄化槽によるトイレの水洗化を選択したことからだ。バブル経済期に全国の自治体は下水道事業に力を入れ、国が推進する公共下水道整備に飛びついた。事業費の半分を国の補助金、残りも起債で賄えるとあって、どの自治体も我も我もと競い合うように手をあげた。自分たちの地域性など考えずに「右へ倣え」したのである。
ところが、南信州の山間地に広がる下條村は違った。下水管の敷設は地域の実情に合わず、金利や維持管理コストなどが将来、村財政にとって大きな負担となると判断し、戸別に設置する合併浄化槽を選択したのである。国策と一線を画すもので、行政の常識ではあり得ない決断だった。実はこの合併浄化槽を推進したのは、当時の村議会議長の伊藤さんだった。村議会の意見をまとめあげ、行政と議論して方針転換を導いたのである。
その後(1992年)、村長に就任した伊藤さんは真っ先に行財政改革に取り組んだ。全職員を民間企業に研修に出して意識改革を迫り、縦割り行政の弊害をなくすために課を総務課・振興課・福祉課・教育委員会の4つに統合した。「少数にすれば精鋭になる」との考え方で職員数を類似自治体の半分ほどに減らしていった。こうして下條村職員は1人で何役もこなす「プロの公僕集団」に変貌し、その一方で職員の人件費総額は少なくなっていった。
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