“一億総ゲス化”の日本を憂う
Japan In-depth / 2016年3月31日 21時55分
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
今年の流行語大賞候補に“センテンススプリング”が入ることは間違いないだろう。とにかく絶好調なのだ。スクープを連発し、他の追随を許さない。まさに週刊誌の面目躍如といったところか。そして、テレビやネットメディアでそうしたスクープが拡大再生産されるのもネット時代ならではだ。ものすごいスピードで人々のスマホに届けられる。その持ち主の年代も性別も問わずに、だ。
スクープと言っても昨今は、定番の政治家の金銭疑惑に加え、タレント、著名人らの女性がらみのスキャンダルが全盛だ。日替わりメニューでネタが入れ替わり、昨日は誰のどんなスキャンダルだったか思い出せないくらいだ。
数日前は乙武氏のスキャンダルだった。政治に打って出るとの下馬評から、彼の不貞行為が注目を浴びたのかもしれないが、確かに有名人ではあるけれど、よくよく考えたらただの私人である。どうしてここまで叩かれなくてはいけないのか、考えたことがある御仁はおられるだろうか?
しかもその裏には政治的な思惑がある、とネット上に暴露されている。真偽のほどはわからないにしろ、週刊誌に具体的な情報が掲載されるということは、誰かが「タレこんで」いるからに他ならない。ネット社会では、いろんな情報が私たちの頭の中に流れ込んでくる。一昔前、新聞・テレビの情報を鵜呑みにしていたナイーブな時代と今とでは全く違う。今は、どうしてこんな記事が出るのか、誰がどんな思惑でこの記事を書かせているのか、かなりの人が「掴む」ことが出来る社会なのだ。
だからこそ、テレビの報道番組は、どうせスキャンダルを追っかけるのなら、しっかり取材し、踏み込んで報道してもらいたい。雑誌やネットを後追いし、既にみんなが知っている情報を垂れ流しているだけなら、それはもはやテレビ報道の死だ。視聴者は制作者よりニュースの背景を知っている、と自覚せねばならない。
ただ単に人の過ちを冷笑し、貶め、叩くだけ叩くという今のこの現状。テレビのワイドショーを見て、喜んでいるのは私達自身だ。「ゲス不倫!」と人を罵る前に、自分たちのゲスさ加減に気づくべきだ。
「一億総ゲス社会」
人の不幸は蜜の味。そんな社会に私たちはどっぷりとつかっている。隣の国がしょっちゅうミサイルをぶっぱなし、同盟国と信じていた国の大統領候補が、もう面倒見ないから勝手に核武装でもしてくれ、と言われているのに、だ。
これでいいのか?
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