イラク崩壊?シーア派分裂不可避
Japan In-depth / 2016年5月3日 8時9分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年5月2日-8日)
日本が連休中の4月30日土曜日、遂にイラクで恐れていた事件が起きた。日本のある日刊紙は、「イラク国会、デモ隊占拠…サドル師支持の数千人」と題し、「政治改革を求める数千人のデモ隊が、旧米軍管理区域にある国民議会に押し入ってこれを占拠し、1日も議会前で座り込みを続けている。当局は非常事態を宣言し、政治的混迷は深まり、IS(イスラム国)対策にも影響が出そう」などと報じたが、これだけでは何が起きたのか、ちょっと判り難いだろう。
シーア派勢力の一つであるサドル派支持者数千人が外壁で囲まれたイラクの中枢に暴力で乱入したこと自体大事件だ。しかし、米国政府が最も懸念するのは、2004年以降宗派対立で徐々に機能不全に陥っていたイラク政府が、米国の支援にも関わらず、遂に崩壊し始めたかもしれない、という恐ろしい現実だ。
実際、一部英語サイトは同事件を「サドル派による事実上のクーデターの試み」と報じた。デモ隊は反米、反イランであり、腐敗に塗れたエスタブリッシュメントを糾弾し、無責任かつ暴力的で大衆迎合的なイラク・シーアのナショナリズムを体現している。サドル派はイラクの「ダークサイド」なのだ。
要するに、現在のイラク情勢も、欧米や中東、アジアで拡大している「大衆迎合的ナショナリズム」による政治的混乱と同じということ。今後イラク内政は不安定さを増すだろう。このままではスンニー、シーア、クルドの三つ巴の宗派対立に加えて、シーア派内部の分裂も不可避かもしれない。
〇欧州・ロシア
5日にはスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各地方議会など英国全土で選挙がある。結果次第ではEU離脱の是非を問う国民投票の行方も左右するのだろうか。最早イギリスも昔の大英帝国ではないということか。8日からはイタリアでも地方選挙が始まる。今年の欧州の地方選挙を含む各種の結果に注目したい。
〇東アジア・大洋州
1-3日に韓国大統領がイランを訪問、5日にはシンガポール首相が豪州訪問、6日には安倍首相のロシア訪問と北朝鮮労働党党大会が始まる。日露対話であまり大きな進展は期待できないだろうが、北朝鮮が核実験をするか否かは大いに気になるところだ。
〇中東・アフリカ
冒頭の続きだが、2003年のイラク戦争は一体何だったのか。当時現場にいた筆者にとって、今回の事件は決して他人事ではない。このままではイラクの統治機構が更に壊れ、正規軍・治安部隊が弱体化し、米国のIS掃討作戦にも支障が出るだろう。米国の対中東政策全体に大きな悪影響が出かねない事態だ。
〇アメリカ両大陸
3日のインディアナ州予備選でクルーズ候補がどこまで票を伸ばすかが気になる。伸び悩めば、トランプ候補指名の可能性は更に高まるだろう。それにしても、ベイナー
下院議長がクルーズ候補を「lucifer in the flesh(人の肉体に宿る悪魔)」とこき下ろしたのには正直驚いた。米国共和党が壊れていくのを見るのは何とも忍びない。
〇インド亜大陸
インド海軍が3日から28日まで湾岸地域に戦艦を派遣する。どうやら対象はGCC諸国のようであり、インドもインド洋のシーレーンを意識していることがよく判る。いずれは中国との競争に備えているのだろうか。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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