「ジャパン・ハウス」の虚実 日本の対米発信の実態 その5
Japan In-depth / 2016年6月19日 18時0分
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
ワシントンでの日本と韓国との対米発信パワーの差は米側の主要研究機関の活動でも顕著に表れている。主要シンクタンクの「戦略国際問題研究所(CSIS)」や「ヘリテージ財団」での韓国勢の発言はめざましい。
たとえば2015年2月にはCSISが「北朝鮮の人権 今後の進路」と題する大シンポジウムを開いた。副題は「国連調査委員会報告書一周年記念」と記されていた。討議の内容は日本人拉致を含む北朝鮮の人権弾圧だった。
この会議は日本にとっても意義は大きかったが、日本の存在がゼロだった。アメリカ政府と議会、国連代表らとともに韓国の政府代表や学者たちもパネリストとして登場し、活発に発言した。だが日本はその存在も発言もなかったのだ。日本人拉致事件がこの会議の重要テーマの一端だったのに、日本の声は皆無だった。ワシントンでの日本の対外発信がいかに薄いのかを象徴的に示す出来事だった。
こうした流れのなかで日本の外務省はこの春、対外発信の新たな手段と宣言して、海外3都市に「ジャパン・ハウス」という施設を新設する事業計画を発表した。すでに数百億円単位の予算を得ての計画だった。この計画は2015年中から当初は「領土問題、歴史問題など日本としてしっかり主張すべきことを主張し、日本の魅力も発信していく」という触れ込みで推進された。ロサンゼルス、ロンドン、サンパウロの3主要都市に広報施設が開設されるのだという。
ところがいざ予算が取れた後、この「ジャパン・ハウス」は性格を変えたようだった。外務省当局者たちはこの新施設でアニメ、漫画、和食、ハイテクなど日本の魅力を宣伝することが主眼だと言明するようになったのだ。歴史や領土という課題はそこではとくに提起する方針はない、というのである。そうなると対アメリカ発信の場合、これまでロサンゼルスの「日本文化センター」が実施してきた「かわいいお弁当の作り方」展示会の域を出ないこととなる。
外務省の年来の事なかれ主義の継続ともいえよう。ただし今回の「ジャパン・ハウス」構想では事前にはいかにも歴史や領土についての対外発信をする必要が高まったからこの構想の実現が欠かせないのだ、という趣旨の説明を外務省代表たちはしていた。私自身も担当官たちからその旨を直接に聞かされた。
このような外務省の体質が長年、続いたからこそ慰安婦問題での「強制連行説」の虚構が国際的に大手をふるようになった経緯はもう実証ずみである。その日本式の消極性姿勢を端的に表すのがいまのワシントンでの韓国にくらべてあまりにお粗末な日本政府の対米発信ぶりだといえよう。
(最終回。全5回。その1、その2、その3、その4)
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