【大予測:国際政治】「post-truth」の次に来るもの
Japan In-depth / 2016年12月29日 11時47分
渡辺敦子(研究者)
「渡辺敦子のGeopolitical」
先月、オックスフォード大学出版局が発表した今年注目された英単語は「post-truth」であった。同出版局によると、特にBrexit騒動とトランプ新大統領誕生の文脈で、post-truth politicsとして使用され、その意味は、「特定のコンセプトについて意味がなくなる、あるいは重要でなくなること」である。つまり、「真実よりも嘘が信じられる」ということではなく、真実そのものの揺らぎに力点がある、と言って良い。
例えばエコノミスト誌はTwitterに「オバマがISISを設立し、ジョージ・ブッシュが9/11の黒幕だった」という見出しを掲げた。その心は?オバマ人気はISISのテロが激化するに従い高まり、1期目で既に死に体だったブッシュが2期目に当選したのは、9/11が追い風であったから。
あり得ない話なのに、ひょっとしたらそうかもね、と思ってしまう余地がある。それがpost-truthのキモである。政治に嘘や陰謀説がつきまとうのは、今始まったことではない。同誌に従えばpost-truth politics が新しいのは、嘘の氾濫というより、「真実は二の次である」ということを明らかにしたからだ。
Brexitでは、離脱派は英国が1週間で3億5000万ポンドの負担をしていると主張した。それは根拠のないものだったにもかかわらず、離脱派が勝利した。「Believe me」が口癖のトランプ新大統領だが、PolitiFact(注1)によれば、トランプ氏の発言のうち「真実」「ほぼ真実」「半分真実」は、合わせて30%に過ぎない。いずれの場合も、人々は、目前で起きている不可解なできごとを、自信たっぷりに説明してくれる言葉を信じたかったのだろう。だからこそ、人々は結果が出てから後悔したのだ。
ことをややこしくしているのが、情報そのものの氾濫と、さまざまな思惑だ。米大統領選では、ロシアがトランプ氏に有利に働くようにサイバー攻撃を仕掛けたとされる。これに加えてネット上にはいんちきニュースサイトが多数存在し、多くはトランプに対し有利な偽ニュースを流した。ワシントンポスト紙によれば、ポール・ホーナー(38)という偽ニュースライターは、彼の嘘がFox NewsやGoogle newsに事実として取り上げられたこともあり、月に1万ドル稼ぐという。選挙期間中にGoogleでも取り上げられた偽ニュースは、アーミッシュ(伝統的な生活を守るキリスト教の一派)がトランプ支持に回るという、ちょっと考えれば事実とは受け止められないようなニュースだった。
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