暴走するワイドショー 金正男氏暗殺関連で
Japan In-depth / 2017年2月18日 10時36分
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
思わず耳を疑ったのは2月16日(金)TBS系列の朝の情報番組「白熱ライブ ビビット」を見ていた時だ。連日どの局も「金正男暗殺事件」を取り上げているのはわかる。日本で身柄拘束されたこともある故金日成の長男金正男(キム・ジョンナム)氏の暗殺のニュースがこれだけの耳目を集めるのは当然のことだろう。つい最近、12日に北朝鮮は弾道ミサイルを発射したばかりでもある。
その中で同番組は、金正男氏の長男、金漢率(キム・ハンソル)氏が「次の(暗殺の)ターゲット」だと大々的に報じたのだ。金漢率氏については2012年に海外テレビ局のインタビューを受けたこともあり映像もある。現在の金正恩(キム・ジョンウン)体制に対する批判ともとれる発言もあったことから以前から金漢率氏が注目されていたのは事実だが、今その父が暗殺された直後に「次のターゲット」として煽るのはいかにも不謹慎な気がする。しかも、スタジオでは金漢率氏が次に暗殺される、されないとコメンテーター陣が予測するという内容だった。倫理的にどうなのだろうか、と首を傾げざるを得ない。そもそも北朝鮮関連の情報はほとんどがウラの取れない二次情報だ。従ってスタジオで専門家として解説している人も憶測を語っているに過ぎないケースが多い。一方的な情報を流して視聴者をミスリードすることがあってはならないのだ。
金漢率氏関連報道について、制作側は「視聴者の知る権利に答えただけだ」とか、「国際テロの脅威を知らせる為に必要な情報だ」とか、いくらでも言えるだろうが、番組で取り上げるべきは、ミサイル開発を押し進め、我が国や米国に軍事的脅威を与え続けている北朝鮮をどう封じ込めるか、ということに尽きる。金正男氏暗殺の犯人がまだわかってない時点で「次のターゲット」は誰か予測することでは決してないだろう。
おりしも国会では、「組織犯罪処罰法改正案」が審議中だ。その中で「テロ等準備罪」を巡り、与野党激しい論戦を展開している。2020年のオリンピック・パラリンピックを控える日本にはテロを未然に防止する法律がない。マレーシアで起きたようなテロが日本で起きない保証はない。テロリストはソフト・ターゲットを狙うものだ。何の準備もない日本がターゲットになる可能性は高い。既に日本はISの標的国となっているが、トランプ米大統領がIS殲滅を掲げる中、その最大の同盟国である日本への攻撃は強まることはあれ、弱まることはないだろう。特に核施設への攻撃やサイバーテロなどに対しては、最大級の警戒が必要なはずだ。
ワイドショーには野次馬的議論に時間を費やすのではなく、テロに対する日本の脆弱性をどうしたら変えていけるのか、といった本質的な議論を展開すべきだ。一般大衆への影響力が甚大なだけに、ワイドショー制作者には猛省を促したい。
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