“アメリカ第一”が壊す自由主義秩序
Japan In-depth / 2018年8月17日 16時12分
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
【まとめ】
・トランプ大統領就任後、世界の戦後秩序が大きく崩れようとしている。
・米国はTPPから脱退。米中貿易戦争の長期化が予想される。
・米ではなくむしろ中国が自由主義を叫び、世界の覇権を握ろうとしている。
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世界の戦後秩序が大きく崩れようとしている。秩序を壊しているのは、アメリカ・ファーストを唱えるトランプ大統領にみえるが、果たしてトランプ大統領の“政治”と強引なイニシアティブのせいなのか。それともトランプ大統領を取り込むアメリカそのものが変質し、世界を変えているのか。
もしトランプの個性によるものなら、大統領が変われば秩序は元のサヤに収まるともみえるが、世界一の大国・アメリカがトランプの政治手法の変化だけで簡単に変われるものなのかという疑問もわく。ここ2年間のトランプ登場以来のアメリカの変質と、それに引きずられるようにみえる世界の変化は一時的なものかどうかを見究めることは、秋のアメリカ・中間選挙と2年後のトランプ再選の行方とも絡んで最も重大な関心事になってきた。
■ 米中の激しい貿易戦争
トランプの登場とその政治手法、物の考え方は世界にとって衝撃的だった。アメリカ・ファーストを声高に叫び、アメリカにとって有利にならない世界のこれまでの約束事やルールなどを次々と否定し強引に世界を引っ張っているからだ。最初に手をつけたのは、アメリカ自身がこれまで主導してきた新しい自由貿易協定TPP(環太平洋経済連携協定)からの脱退だ。今後は多国間協定を結ばず、貿易は二国間の交渉で決めると宣言し、現実にアメリカにとって不利な貿易協定を相次いで否定し始め、新たな貿易協定を提案し始めている。最大のものは米中貿易戦争の開始だ。アメリカの対中貿易赤字は約3750億ドル(2017年)で、中国の貿易収支約5000億ドルの黒字は不公平だとし、今年3月に鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置を発動した。
これをきっかけに中国も報復措置を発表、さらにその後も制裁関税合戦が続き、7月の段階でアメリカは中国に対し1102品目、500億ドル規模の制裁を発表している。この中には自動車、航空・宇宙関連、情報通信機器、工業用関連などハイテク分野の最先端技術を含めている。そしてトランプ大統領は7月下旬に1日に2000億ドル分(約22兆円)の中国製品を対象とした第3弾の対中制裁について追加する関税率を当初の10%から25%に引き上げるよう米通商代表部(USTR)に検討を指示したのだ。第3弾の対象となる6031品目は消費財も含まれており、アメリカは「関税率の引き上げは中国に有害な政策と行動を改めるよう促すものだ」と主張している。この制裁が発動されれば、中国からの輸入の半分は制裁対象になるとみられる。これに対し中国も第2弾の制裁に対する報復としては114品目、160億ドル(第1弾と合計で500億ドル)規模を想定しており、第3弾に対しても対抗措置を考慮中だとしている。中国は農作物、石油、自動車などアメリカに打撃を与えそうな品目を選んでおり対立は長期化の様相を深めている。
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