福島で成長した「田原君」の話
Japan In-depth / 2021年4月28日 22時44分
上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
【まとめ】
・国民生活を理解するリアリティ足りなかった若者が福島で成長。
・700年かけ地域の信頼関係醸成してきた相馬市、孤独死少ない。
・旅や異文化を経験し、若者は成長する。相馬市はお勧めの場所。
福島の医療支援を始めて10回目の春を迎えた。私が福島の方々とのお付き合いを続けるのは、関西で育ち、東京で働く私にとり、福島が異なる歴史や文化をもち、魅力的だからだ。人も優しい。
今回は福島で「成長」した若者を紹介したい。田原大嗣君だ。筆者が学生時代に在籍した東京大学剣道部の後輩だ。法学部に在籍し、学生時代には医療ガバナンス研究所のインターンを経験した。そして、今春、一留の末、国土交通省に就職した。現在、道路局路政課の事務官だ。
筆者が田原君と知りあったのは、彼が法学部の3年生の時だ。『剣道時代』という専門誌で、『赤胴通信』という東大剣道部の現役部員の連載が続いている。私は学生の指導役で、田原君は取りまとめ役をやっていた。
筆者の第一印象は「真面目だけど、迫力がない」。東京大学の学生に多いパターンで、こういう若者は就職試験には弱い。官僚志望の田原君は大学4年時に公務員試験には合格したものの、面接で希望する省庁の内定を貰えなかった。面接官が、彼のどのような点を評価しなかったかは容易に想像がつく。
田原君は行き詰まっていた。そして、どうしていいか分からなくなっていた。一年間留年して、公務員試験の勉強を必死でやり、多少成績が向上しようが、来年も同じような結果になることは見えていた。彼に足りなかったものは試験の点数でなく、キャリア官僚に必要な国民生活を理解するリアリティだからだ。
筆者は、田原君に福島県相馬市役所のインターンを勧めた。被災地のリアリティを肌で感じると同時に、東北地方の文化に触れて欲しかった。
「田原」という姓は九州と中国地方に多い。田原君の一族も祖父の代に熊本県八代から上京したらしい。祖父の田原弘徳氏は警視庁の元剣道師範で、剣道界では知らない人がいない有名人だ。筆者も学生時代に稽古を付けていただいたことがある。
八代は細川藩の筆頭家老松井家が治める三万石の城下町だ。薩摩藩島津家への備えとして、幕府が一国一城の例外として認めたと言われている。一方、相馬市は、1323年に相馬重胤が下総より移住して以来、相馬家が治めた城下町だ。
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