バイデン外交の回顧と展望 私の取材 その6 オーストラリアがなぜ原子力潜水艦を
Japan In-depth / 2022年1月4日 11時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・「AUKUS」誕生と豪の原潜保有は中国へのけん制で大きな成果。一方で、中国の態度硬化により情勢緊迫の見方も。
・米のアフガニスタン撤退はイランに有利、タリバン政権誕生は中国に有利。中東での米の安全保障態勢が揺らぎかねない。
・オバマ政権下でのイラン核合意は、イランの核兵器開発阻止まで踏み込んでおらず、共和党は反対。
一方、新たに誕生したもう一つの枠組みが、先述した、オーストラリア(AU)、イギリス(UK)、アメリカ(US)による軍事協力機構「AUKUS」である。この機構誕生の成果として、アメリカがオーストラリアに原子力潜水艦を供与することになった。
原子力潜水艦保有国は非常に限られている。イギリスは、アメリカと特殊な関係を築いてきたので、1950年代頃から、アメリカから原子力潜水艦の技術提供を受けてきた。他にも、ロシア、フランス、中国、インドが原子力潜水艦を保有している。
日本の潜水艦の性能は非常に高いとされているが、日本が保有しているのはディーゼルエンジンを動力とする通常型潜水艦だ。潜水艦ほど、原子力か否かの違いが大きい兵器はない。ディーゼル型は定期的に水上に浮かぶ必要があるが、原子力の場合には水上に何ヵ月も浮かぶことなく水中航行を続けられるし、ミサイル発射能力も全く違う。
日本では、原子力の使用というだけで非常に大きな問題になるが、兵器の世界では原子力か原子力ではないかによって、決定的なほど大きな効率の違いが生じる。そして原子力の利用が広く受け入れられている。
アメリカの海軍士官学校には、全米各地から高校を卒業した優秀な学生が入学するが、原子力の分野を専攻する学生に対しては、特別の奨学金が供与されるなどの優遇措置がある。アメリカ海軍においては、原子力の役割が非常に重視されているということだ。
今回、非核国のオーストラリアが原子力潜水艦を保有することになったことは、インド太平洋地域における中国への牽制という意味で大きな成果だ。唐突に新たな軍事同盟的な組織AUKUSが誕生したことは、国際社会を驚かせることになったが、バイデン政権が巧みに動いたという評価もできる。ただしフランスを激怒させたことはその後も尾を引くこととなる。
ただし、取材をするとAUKUS誕生には意外な背景もあったことがわかる。ウォールストリート・ジャーナルに掲載された、ハドソン研究所研究員のウォルター・ラッセル・ミード氏によるインタビュー記事で、オーストラリアのスコット・モリソン首相がAUKUS結成の経緯について詳しく語っていた。
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