沖縄、日本の閉塞は「世代交代」で変わりうる

J-CASTトレンド / 2020年7月30日 17時43分

■『沖縄から貧困がなくならない本当の理由』(著・樋口耕太郎 光文社新書)
■『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(著・瀧本哲史 星海社新書)

「根源的な問題は、沖縄の中にこそ、ある」。そう主張するのが、本書の著者で、事業再生を専業とするトリニティ代表取締役社長を務めている樋口耕太郎氏(岩手県盛岡市出身、沖縄大学准教授を兼務)だ。樋口氏は、内外の知識人をはじめとして様々な客が訪れる那覇市の繁華街・松山の飲食店で、16年間にわたった、お客の話に「耳を傾ける」というアプローチにより、「沖縄から貧困がなくならない本当の理由」について言語化を試みた。地元紙・沖縄タイムスのウェブ版に掲載され、大きな反響を呼んだ2016年から2018年の論考をもとにしている。

子どもの貧困対策の推進求める沖縄県民

実は沖縄でも発行され、九州・沖縄版という地域面をもっている全国紙は、日本経済新聞のみである。全国紙である朝日、毎日、読売は支局を置いているが、ほぼ本土向け報道のためだけの現地取材を日夜行っている。海外の特派員ならいざ知らず、そのような一方通行の状態は、国内ではここだけだろう。沖縄に関する全国紙の報道は、本土の関心に沿って、観光関連の話題か、沖縄戦、米軍基地問題がほとんどである。

ところが、沖縄県が、2018年8月に行った第10回県民意識調査(くらしについてのアンケート)結果をみると、沖縄県民が、県の施策として重点を置いて取り組むべきこととして、優先度の第一位にあげているのは、子どもの貧困対策の推進が、15.7%、次いで、魅力ある観光・リゾート地の形成が、15.5%、米軍基地問題の解決促進が、9.5%である。特に40代以下のこれからの沖縄を担う世代では子どもの貧困対策の推進が顕著に高い。

松山容子パッケージの初代「ボンカレー」今も販売

沖縄の真の課題を全国に知ってもらうにも、今回、手に取りやすい新書で本書が世に沖縄の貧困問題を問うた意義は大きいと思う。本書の「はじめに 沖縄は、見かけとはまったく違う社会である」で、冒頭の「貧困率『断トツ全国1位』の謎」というパラグラフでは、統計データを参照しつつ、「沖縄は日本でも突出した貧困社会である」とし、「・・なぜ、『好景気』の中で貧困が生じ、『優しさ』の中で人が苦しむのだろう?本書は、この問いに、正面から向き合うものだ」と宣言する。

第1章の「『オリオン買収』は何を意味するのか」、第2章「人間関係の経済」での、沖縄社会の特色の鮮やかな言語化にはうならされる。せっかくの日本政府の様々な手厚い支援措置が本当に必要としている層に十分届いていない現状を冷静に分析するとともに、沖縄では、違和感のある人に対抗する典型的な手段の1つが「行動を止めること」(サポタージュ)だとするのも印象深い。また、松山容子パッケージの初代「ボンカレー」がいまだに販売されている消費の保守性なども目を引く指摘だ。

第4章「自分を愛せないウチナーンチュ」で、沖縄の長男問題としてふれられている「門中(むんちゅう)制度」(先祖を共通にする父方の血縁をたどって結合している親族集団)や、20世紀初めまで県民のほとんどは移動の自由がなく強固な地縁関係が形成されてきたという沖縄の社会構造(ユイマールといわれる)が、都市化や核家族化の進行で顕著かつ急速に希薄化しつつある、という点が重要だと評者は思う。いままでもあったはずの「子どもの貧困」がここにきて世の中で広く問題視されるようになったのはこのためだろう。

日本政府や沖縄県が、この沖縄社会の変化に応じて、それぞれの政策課題に具体的な目標を設定し、地道にその解決を図っていければ、社会の変化を許容するかの是非は問われるものの、今の貧困の悲惨な状況は改善されうると思われる。沖縄でも、社会の変化が否応なく進んで、市場(マーケット)がもっと機能し、競争が生まれ、今後は、資源が最も生産的な用途により円滑に供給される事態が出現しつつある。

第5章「キャンドルサービス」では、経営難のホテルを立て直した著者の独自の「愛ある経営」に関わる信念が開陳される。この中で、「社会を変える『ひとりの力』」に可能性を見いだす。

沖縄社会の変化は、本書の「おわりに」の「これからの沖縄の生きる道」で明確に見通される。著者は、沖縄でも、人口動態と労働力不足、情報の流れの自由化、沖縄への本土経営者の参入、の3つの波が押し寄せ、変化は避けられないと喝破する。そして、「本土化」とは違う「第三のデザイン」はないのかと自問自答し、今後の著者の課題とするのだ。

「世界を変えるのは、いつも『新人』なのだ」

一方、「謝辞」を読むと、この本の成立に、星海社の名編集者として著名な柿内芳文氏が関わっていることがわかる。

この柿内氏を編集担当とする、瀧本哲史著「2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義」が星海社新書の1冊としてこの春に発行されている。エンジェル投資家としても実績を持ち、客員准教授として、京都大学で人気講義を行いつつ、次世代の教育に力を注いでいたが、2019年8月に享年47歳で死去した。本人は死ぬ前に「無念」だと言っていたという。この8月10日に1周忌を迎える。

瀧本氏の「君たちは、自分の力で、世界を変えて行け! 僕は日本の未来に期待している。支援は惜しまない」という熱いメッセージのこの本を、沖縄の10代、20代の若者にもぜひ読んでもらいたい。パラダイムシフトとは世代交代だ、という。沖縄、あるいは日本の閉塞も、「世代交代」で変わりうるということなのだ。

この本の巻末で紹介されている、柿内氏が編集を担当した星海社新書「武器としての決断思考」(ブキケツ 2011)、「武器としての交渉思考」(ブキコウ 2012)も見逃せない。「正解ではなく『最善解』を導き出そう」、「『異質なもの』『敵対する相手』とも結びつくことで。大きな変化を起こせ」という。ブキコウの最後で、「私は今という時代は、ひとりひとりの人間がそれぞれの現場で「自分の宿題」を見つけて取り組むべきときを迎えていると思います」という。著名な投資家ジム・ロジャーズのいう、他力本願ではない「DO YOUR HOMEWORK」だ。

2015年、瀧本氏は、全国の中学校を飛び回り、21世紀に生まれた最初の世代である「14歳の君」にむけたメッセージを届けた。それをまとめた本が「ミライの授業」(講談社 2016年)である。ここでは、世界を変える旅は「違和感」からはじまる、から、ミライは「逆風」の向こうにある、までの「ミライをつくる5つの法則」がたくみに紹介されている。「古い世代の人達に世界を変える力はない。世界を変えるのは、いつも『新人』なのだ」という言葉の重みをあらためてかみしめる。

経済官庁 AK

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