米商務省、デジタル経済における米国の競争力強化のためのイニシアチブを発表(米国)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年9月24日 15時0分
米国商務省は9月19日、デジタル経済における米国の競争力を強化するための新たなイニシアチブや既存の取り組みの拡大を発表した。中小企業向け支援や政府職員の能力開発などが具体的な施策となっている。一方で、デジタル貿易に対して慎重な米国通商代表部(USTR)とは対照的な内容となった。
商務省は発表で、デジタル経済が成長する中、世界各地で政策環境が複雑化し、米国の技術的リーダーシップを損なうおそれのある市場状況があるとし、これらに対処するため、商務省国際貿易局(ITA)が、デジタル経済における米国の競争力と貿易の強化を目的とした新しいイニシアチブなどに取り組むとした。具体的には次のとおり。
新しいグローバル・デジタル・エコノミー・レポート:ITAのカントリー・コマーシャル・ガイド(注)において、デジタル経済に関する独立した章を設け、毎年更新する。米国企業が、デジタル経済における最新のトレンド、ビジネス機会、課題を把握できるよう実践的で実用的な情報を提供する。
デジタルアタッシェの育成、米国を代表するハイテク企業との連携深化:国際理解ビジネス評議会(BCIU)や産業界との協力により、世界各地の米国大使館を拠点とするITAのデジタルアタッシェが赴任前に研修を受けることで、専門能力開発を強化する。
零細・中小企業(MSME)の技術輸出支援 :商務省経済開発局(EDA)が2023年に指定した31のテックハブ(2023年10月24日記事参照)と協力して、MSMEが成長する可能性を最大化するためのメカニズムを構築。
デジタル経済貿易ミッション:デジタル経済における貿易障壁の増大に伴い、ITAは2024年から、デジタルサービスの輸出に特化した商業外交貿易ミッションを追求。今後も、サイバーセキュリティーやフィンテックなどの分野で、ミッションを実施していく。
これらの取り組みは、米EU貿易技術評議会(TTC)や(2024年4月11日記事参照)、ケニアなどとのデジタル経済協力強化など(2024年7月30日記事参照)、米国が各国と設けている経済連携枠組みを通じても行われる。また、特に中小企業が海外市場にアクセスするために不可欠なデータフローを促進する取り組みなども行われるという。ITAも同日発表した声明で、国境を越えたデータフローを促進するITAの長年のリーダーシップを強化するもの、と述べた。
そのほか商務省は発表で、デジタルサービスの輸出が2023年に米国のサービス輸出全体の64%を占め、2,780億ドルのサービス貿易黒字を牽引しており、890万人がデジタル経済に関連した仕事に就いていると、デジタル経済の重要性を強調している。
今回の商務省の発表はデジタル貿易などの競争力強化を目指す内容だが、その一方でUSTRは、WTOの交渉で越境データフローへの支持を取り下げ、電子商取引のテキストを支持しない旨を発表するなど、デジタル貿易に対して慎重な姿勢を貫いている。こうしたUSTRの姿勢に対しては、米国商工会議所や連邦議会下院の監視・説明責任委員会が、一部の議員や特定の団体の意向を受けたもので意思決定プロセスが不透明などとして調査に乗り出している(2024年8月1日記事参照)。今回の商務省の発表を受け、米政府内でデジタル貿易に対する方針が収れんされていくのか、今後の動向が注目される。
(注)世界各国の米国大使館により作成される、各国の市場状況、ビジネスチャンス、規制、ビジネス慣習などに関する報告書。
(赤平大寿)
(米国)
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