シャープや吉本興業はなぜ資本金1億円への減資を目指すのか?
JIJICO / 2015年8月11日 18時0分
シャープや吉本興業はなぜ資本金1億円への減資を目指すのか?
有名企業が相次いで資本金1億円への減資を発表
大阪の吉本興業は先日、9月1日付で資本金を約125億円から1億円に減資することを決定しました。結局は政府などから批判が出て5億円への減資にとどめた経営再建中のシャープも、当初は1億円への減資を検討してしたことは記憶に新しいと思います。企業がこのように減資する目的は何なのか、そして、なぜ資本金1億円への減資なのでしょうか。
吉本興業は、3月末時点で100億円を超える累積損失があり、資本金のうち約124億円を取り崩してその穴埋めに充てています。シャープもこの3年間で1兆円を超える赤字を出しており、99%以上の減資でその補填をするつもりのようです。このように減資を行う多くの場合、財務改善が一番の目的です。
ただ、減資をするのになぜ、2社ともに資本金を1億円にしようとするのか。そこには、理由があります。実は資本金が1億円以下になれば税制では「中小企業」とみなされ、法人税や法人事業税の負担が軽減されます。つまり、税制上の優遇措置を受けるために、資本金を1億円にしようとしています。ちなみに、中小企業が資本金1億円以下という形で定義され始めたのは1966年の改正で、画一的、一義的に把握でき、基準として明確であるということが採用の理由だったようです。
中小企業に対する優遇税制とは
では、そこまでして適用を受けようとする中小企業に対する優遇税制とは、何なのでしょうか。代表的なものを紹介します。法人税では、まず税率が低いことが挙げられます。大企業が23.9%に対して中小企業は15%(800万円以下の所得について)。この8.9%の税率の差は大きく、地方税にも連動します。
また、欠損金の繰越控除については、大企業が80%まで、来年からは50%までしかできません。しかし、中小企業は100%控除が可能です。交際費等も大企業は原則全額経費にならないのに対し、中小企業では800万円以下は全額経費に。ほかにも、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産の全額経費処理や、設備投資を行った場合の特別償却などの規定の適用も受けられます。 法人事業税でも、大企業は外形標準課税によりたとえ赤字でも事業税が発生するのに対し、中小企業であれば外形標準課税は不適用になります。ところで、シャープの減資による税制面での目的は、この外形標準課税の回避と欠損金の100%繰越控除が大きかったと言われています。
元々、政府はこの問題について課題認識を持っている
中小企業の優遇税制は、その適用可否をほぼ資本金だけで区分しています。そのため、ある程度の規模があり税金を支払う力のある企業のように本来、税制優遇を受ける必要のない企業も優遇税制を受けることができてしまうのです。ヨドバシカメラやアイリスオーヤマ、ジャパネットたかたがその例で、いずれも年間売上高が1千億円以上ともはや中小企業の範疇を超えているにもかかわらず、資本金が1億円以下のためこの優遇税制の適用を受けています。
シャープが減資する方針を固めたという報道があった直後の5月9日に開かれた政府税制調査会の法人課税専門委員会で、税制優遇の基準を見直す案が浮上しました。これは、シャープの減資がきっかけで見直しの検討に入ったのではなく、既に2015年度税制改正大綱で「税制優遇基準の検討を行う」とされていました。元々政府は、この問題について課題認識を持っていたということです。
資本金1億円基準は今後も目が離せない
また、会計検査院は2010年の決算検査報告において、「大企業の平均所得金額を超えるなど、多額の所得を得ていて財務状況がぜい弱とは認められない中小企業者が、中小企業者に適用される租税特別措置の適用を受けている事態が見受けられた」と指摘しています。
従って、今回のシャープや吉本興業の減資がきっかけで、実際に税制に反映されていく可能性は大いにあると思われます。その際には、この基準を数段階にしたり、引き下げる案が出てくると予想されます。特別措置の適用に際しては売上高や所得、従業員数など他の基準を用いることが合理的だとの意見もあり、この資本金1億円基準は今後も目が離せません。
(米津 晋次/税理士)
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