「社交不安症」認知行動療法で改善 抗うつ薬効かない患者にも有効
JIJICO / 2016年9月12日 15時0分
「社交不安症」認知行動療法で改善 抗うつ薬効かない患者にも有効
「社交不安症」患者に対して認知行動療法が有効であることが明らかに
宮崎大学と千葉大学の研究グループが、抗うつ薬だけでは改善しない社交不安症患者(患者の7-8割と想定される)に対して、認知行動療法が有効(約86%が改善、うち約48%が寛解[症状がほぼ消失])であることを臨床試験により明らかにした、との記事が最近ありました。
この研究結果の意義は、薬物療法だけでは改善を示さない社交不安症の患者に対して、心理療法の一つである認知行動療法を併用し、厳密な実験条件による臨床試験によってその有効性を示したことです。
特に具体的な意義としては、本研究成果を受けて2016年度の診療報酬改定において認知行動療法の対象疾患に社交不安症が加わったことです(両大学のプレスリリースによる)。
ただし、「社交不安症」の患者に対する認知行動療法の適用自体は以前から諸外国でも実施されています。
「社交不安症」とは
ちなみに「社交不安症」とは、「人との交流場面で生じる著しい不安や恐怖を主症状とする精神疾患」で、不安障害の一種です。
英語の診断名は「Social Anxiety Disorder (Social Phobia)」で、従来は「社会不安障害」などと訳されていました。
誰でも重要な社交場面では緊張を感じるものですが、「社交不安症」の人は、何気ない日常的な対人関係場面(例:知らない人と会ったり話をしたりする、人前で食事をする) でも著しい不安や恐怖を感じてしまい、その結果学業や仕事などの日常生活が大きく制限されてしまうものです。
この「社交不安症」の人はかなり多い(精神疾患中、うつ病やアルコール依存に次ぎ3番目[米国])というデータがあります。
認知行動療法について
ここでは、「社交不安症」に有効である認知行動療法について簡単に述べてみたいと思います。
認知行動療法とは、精神的な問題に対し、「問題解決を中心とし、そのための技術を学ぶ」ものです(認知行動療法の創始者の一人であるアロン・ベック主管のベック研究所による)。
認知行動療法の背景にある基本的な考え方は、気分・感情と認知(思考)及び行動の三者が相互に関係しているということです。
したがって気分・感情の問題(うつや不安障害)を改善するには認知(思考)や行動を変えることで対応する、というものです。
というのは、気分・感情そのものを直接変えるのは意外と困難だからです(例えば、「気分が良くなれ」と念じるだけではなかなか気分は良くならないものです)。
認知行動療法では、「認知(思考)の歪み」(例:一つの失敗だけから自分は全くダメな人間と結論付けてしまう)の非合理性を一つ一つ実証的に確認し、考え方の誤りを正していくことを行います。
認知行動療法はその実証的な有効性(evidence-based)から、うつ病を始め、本研究のように不安障害、また他の精神疾患(摂食障害など)にも適用がなされています。
以上のことから、認知行動療法は何か万能の感じがしますが、やはりその限界や問題点もあります。
私自身、米国デンバー大学大学院カウンセリング心理学博士課程在学中に認知行動療法のコースを取って実感しました。
それは、受ける側にとって結構心理的負担が大きいことです。
例えば、自分の認知(思考)の歪みを調べるために日々の生活パターンを詳細に記録するなど多くの課題・宿題が課されます。
ところが、うつ病や不安障害の人はもともとそれらの課題をこなす思考力やエネルギーが低下していると考えられることから、負担は大きいはずです。実際に認知行動療法の一つの問題点は、途中で脱落する人が多いことです。
したがって認知行動療法は誰にでも有効なのではなく、向き不向きがあるということです。
そこで私は個人的には、もっと実施容易なものとして、最近研究が進んでいるマインドフルネス(mindfulness)瞑想に注目しています。
(村田 晃/心理学博士・臨床心理士)
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