ギャンブル依存と求められる対策について
JIJICO / 2017年5月7日 11時0分
ギャンブル依存と求められる対策について
依存症とは?
アルコールや、ニコチン、覚せい剤といった精神に作用する薬物を繰り返し使用していると精神的に薬物への強い渇望が生じたり、その使用の中断時に激しい精神的な苦痛や、身体症状が出現するため、その薬物の使用をやめられない状態になることがあります。
それを薬物依存症といいます。
また、ギャンブルやセックス、買い物といった強い快感をもたらすことがある行動がやめられなくなってしまった状況を、ある特定の行動のプロセスへの依存症(過程依存症)ということがあります。
過程依存症は、薬物依存症と同様、快感を求めるための行き過ぎた行動のために、さまざまな健康や社会的問題を伴うことが多いものです。
ギャンブル依存症
ギャンブル依存症では、ギャンブルによる浪費が社会生活に影響し、周囲から止められたり、自らやめようと思っても、ギャンブルへの衝動を抑えられません。
ギャンブルに用いる金銭を都合するために、嘘をついたり、犯罪行為に至ることも珍しくありません。
していない間もギャンブルやそれに関連するイメージが頭から離れず、落ち着かず、日常生活に集中できないことが多いものです。
また、心理的なストレスによっても、ギャンブルへの欲求が強まり、ギャンブルで気分を発散しようとすることがあります。
アメリカの精神医学の最新の診断基準であるDSM5 では、ギャンブル依存症はアルコール依存などの薬物依存症と共通し、脳の報酬系と呼ばれる部位の活動に異常があると考えられています。
脳の報酬系とは、ある薬物を摂取したり、何らかの行動を行った時に報酬効果という快感を生じさせる部位のことで、患者さんはその快感がもっと得られるように、特定の行動を優先して繰り返すようになってしまうのです。
そのため、DSM5 ではギャンブル依存症は薬物依存症と同じ章にギャンブル障害という名で分類されています。
なお、今年の4月に京都大学の研究グループの報告によれば、ゲームを用いた実験の結果、ギャンブル依存の患者はリスクを取る必要のない条件でも、不必要なリスクを取ることが確認されています。
また、機能的MRIという脳画像検査によって、患者は、正常な判断力を司る脳の前頭前野という部位の活動が低下していることが分かったのです。
ギャンブル依存症とは、その背景に脳神経系の一部における異常が推測される、確固たる精神疾患の一つなのです。
ギャンブル依存症は2番目に多い依存症
今年の3月31日、厚生労働省は「都市部の成人の2.7%にギャンブル依存症が疑われる」との調査結果を公表しました。
アメリカで用いられる診断基準に基づく調査票を用いて1000人程度に面接で回答を得た結果です。
成人全体で280万人程度になりますが、諸外国の同様の調査では人口の1~2%前後にとどまり、日本はかなり高いのです。
同様の依存症で頻度が高いものはたばこによるニコチン依存症、お酒によるアルコール依存症です。
喫煙者は日本では成人人口の20%程で、その7割以上がニコチン依存症と考えられ、患者数は1400万人を超えています。
これは全ての精神疾患の中でも最も多い患者数です。
また、アルコール依存症の患者は100万人を超えると考えられています。
ギャンブル依存症はニコチン依存症の次に多い依存症と推測されるのです。
あらゆる依存症に共通することですが、患者さんは自分の依存症を認めたがらず、ご家族も気付かないことがあります。
そのため、治療を始めることすら難しいことが多いのです。
依存症への対策は、依存症についての啓蒙や教育、そもそも依存症をもたらす条件を社会的に減らしていくことが重要なのです。
ギャンブル依存の現実
我々の社会では、犯人のギャンブル依存症が背景にある横領や、詐欺、盗み、殺人といった犯罪が日常的にマスコミを賑わしています。
また、パチンコに夢中の親の赤ちゃんが車内に放置され、高温による脱水から亡くなる事件も毎年のようにあります。
さらには生活保護を受けている方のパチンコが問題視されています。
我々はその当事者のことを責めがちですが、彼らに必要なのは刑罰ではなく、治療なのです。
他の依存症と同様、ギャンブル依存の方のギャンブルへの渇望は圧倒的で、その渇望を満たすために、人としての最低限の倫理を踏みにじることも平気になってしまうことがあるのです。
ギャンブル依存への取り組み
ギャンブル依存の専門治療を行っていない私のクリニックにもギャンブル依存症を治療してほしいと患者さんとそのご家族からの悲痛な叫びのような連絡が少なからずあります。
患者さんのギャンブルによる多額の借金に巻き込まれることがあるご家族の苦痛は大変なものです。
しかし、ギャンブル依存症の治療上、患者さんに自ら依存症と向き合ってもらうためにも、ご家族は患者さんの借金を支払わず、患者さんに自分の借金返済の責任を負わせることが望ましいのです。
ただ、それには患者さんのギャンブル依存症の自覚と、ご家族の依存症への理解が不可欠で、その実行には粘り強い努力が求められます。また、ギャンブル依存症は慢性疾患なので外来治療は長期にわたることが多く、浪費が止められない場合には、入院治療の検討を要する場合もあります。
しかし、専門的な入院施設はほとんどないのです。
さらに、治療に最も有効と考えられているのは、患者さんによる自助グループの参加ですが、アルコール依存症に比べ、ギャンブル依存症の場合は、紹介できる自助グループが限られています。
現在、日本において、ギャンブル依存症の望ましい治療は難しい状況にあるといえます。
日本ではタバコの広告は厳しく規制されています。
一方、年間20兆円もの売り上げがあり、全国に11000店もあるパチンコ店は、どれも派手な外観で、依存症の患者さんを惹きつけてやみません。
また、その広告は規制を受けているものの、ネットやテレビCMなどで際立っています。
なお、5兆円の売り上げがある競馬や宝くじといった公営ギャンブルの広告は野放しのようです。
この上に昨年12月にカジノ法を成立させてしまった国の判断に大きな疑問を抱かざるを得ません。
もし国民の幸福を本当に増進したいのであれば、新たにカジノを作ることは論外であり、ギャンブル依存症の治療体制の確立、予防のための啓蒙や教育、ギャンブルそのものへの規制といった、ギャンブル依存症へのあらゆる面での対応の充実が必要ではないでしょうか。
(鹿島 直之/精神科医)
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